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3章
29話「選択の時、新たな律動」
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夜が、ほんのわずかに明けかけていた。
カイラスが魂の叫びを放ったあと、砦も村も王都も、世界のあらゆる場所が、一瞬にして静止した。
空気は重く、張り詰めて、誰もがただ息を潜めて“何か”を待っているようだった。
忘却の神は、微動だにせず、ただ静かに彼らを見下ろしていた。
その姿には威圧感がありながら、どこか物悲しさが漂っている。
『……カイラス・ヴァルドレン。お前は苦しみも、痛みも、記憶も、すべてを抱えて歩む道を選んだ。
人の営みも、命も、すべてが移ろい、時には裏切られ、喪われ、けれど決して無駄ではないという。
ならば、私はお前の選択を受け入れよう。』
静かだが、世界の底まで響くような声だった。
『だが、“すべてを元に戻す”ことはできぬ。なぜならお前たちは変わった。選択のたび、心は揺れ、世界の形もまた少しずつ新しいものへと移ろう。
……これより、新たな律動(リズム)が世界に流れ出す。お前たちの魂が刻む鼓動に合わせ、過去と未来が編み直されていくのだ。』
その瞬間、砦の空に淡い光が差し込む。
夜の闇に、微かな蒼色と金色が混じり、まるでまだ誰も知らない朝がゆっくりと生まれつつあるようだった。
カイラスは仲間たちと見つめ合う。
ノクティアは涙をぬぐいながら、微笑みを浮かべている。エイミーは震える手でカイラスの袖をつかみ、レオナートは背筋を伸ばし、真っすぐに未来を見つめている。
砦に集まった人々も、子どもから大人まで、皆がそっと手を取り合い、寄り添い合っていた。
世界が、音もなく、静かに動き始める。
まず最初に戻ってきたのは、草の匂いだった。
春の訪れを告げる淡い緑の匂いが、風に乗って砦の中庭を満たしていく。
だが、それはかつての世界と“まったく同じ”ではなかった。
かつて大きな欅の木があったはずの場所に、小さな苗木が芽吹いている。
広場の片隅で、今まで見たことのない花が咲き、遠くの山並みも少し形が変わっている。
見知った顔が、少し違う髪型や服装で現れる人もいる。
「……あれ? 村の井戸の位置が……」
エイミーが目を瞬かせる。
砦の兵士たちも、戸惑いながら、けれど不思議と怖がってはいない。
「まるで、“昨日までと少しだけ違う世界”に来たみたいですね」
レオナートがそう呟くと、ノクティアも頷いた。
「これは、私たちが“選んだ未来”……なのかもしれない」
カイラスは深く息を吸い、そっと頬をなでた。
ほんのり冷たい風と、どこか懐かしい温もり。その両方を同時に感じていた。
忘却の神が、再び語りかける。
『お前たちが記憶を選んだことで、世界もまた“変化する運命”を受け入れた。
喪われたものもあれば、新たに生まれたものもある。
それは悲しみであり、同時に希望でもあるだろう』
神の声はどこまでも遠く、そして優しい。
『……人の歴史は常にそうやって紡がれる。傷つき、涙を流し、それでも前を向いて歩み続ける。
それが、お前たち人間の強さであり、愚かさであり、美しさなのだ』
カイラスはしっかりと頷いた。
「俺はこれからも、何度でも守る。みんなの未来を、絆を、希望を。
たとえどんな世界になっても、俺は俺であり続ける」
ノクティアがそっと彼の手を握った。
「私も、どんな形になっても、あなたと一緒に歩いていきます」
エイミーは満面の笑みで。
「また一緒に新しい思い出を作りましょう!」
レオナートも静かに拳を胸に当てる。
「僕は、団長の背中を見て、ここまで来ました。これからも、ずっとあなたの側で支えます」
カイラスは彼らを見回し、胸の奥からこみあげる熱いものを抑えきれなかった。
「みんな……ありがとう。
俺たちの選択は、もう誰にも消せない。これからも、何度でも、何があっても――守ると誓う」
その言葉に呼応するように、世界がさらに鮮やかに、鼓動を刻み始めた。
ふいに、空気が優しく震え、忘却の神が手を差し出す。
『カイラス・ヴァルドレン。
お前は自らの意志で、世界を救い、変えた。
お前たちの魂の律動は、この世界に新たな光と命を与えた。
ゆえに、私はお前に“新たな守護者”としての祝福を与えよう』
その手から柔らかな光があふれ、カイラスの胸の奥に静かに染み込んでいく。
『お前が傷つき、悩み、立ち上がり続ける限り――この世界もまた、歩み続けるだろう』
カイラスはゆっくりと目を閉じた。
心の中に、かつてないほどの温もりと勇気が満ちてくるのを感じる。
「……ありがとう、神よ。
俺は、絶対にこの力を、みんなの幸せのために使う。
守るべきもののために、何度でも立ち上がる」
神は一瞬、わずかにほほえんだように見えた。
『ならば進め。
この世界の、新たな朝を――』
そのとき、不意に背後から誰かが歩み寄ってきた。
「……素晴らしい選択だったな、カイラス」
柔らかで澄んだ声。
振り返ると、銀色の髪を揺らし、深い蒼色のローブをまとった女性――アムネリスが立っていた。
アムネリスはカイラスに優しい眼差しを向ける。
「お前の意志が、この世界に新しい光を灯した。
絶望の中でなお、未来を信じ、皆の手を離さずに歩んだ。
……その姿こそが、この世界にとっての“本当の奇跡”だ」
カイラスは言葉を失い、ただ静かに頷いた。
アムネリスは皆を見渡し、そっと微笑む。
「この先の世界が、どんな姿に変わっても。痛みも、悲しみも、希望も、すべてを受け入れて歩みなさい。
その道の先にこそ、あなたたちだけの未来がある」
ノクティアはアムネリスに近づき、深く礼をする。
「私たちは、もう迷いません。何があっても、仲間と共に進みます」
エイミーも元気よく。
「私も、もっと強くなります!」
レオナートも静かに敬礼する。
「僕は、みんなを守り抜くと誓います」
アムネリスは嬉しそうにうなずき、最後にもう一度カイラスの肩に手を置いた。
「カイラス。君の魂が灯した光は、これからも消えることはない。
新しい世界で、君自身の道を――守護者として歩みなさい」
その瞬間、夜明けの光が世界を包み込み始める。
空が淡く赤く染まり、鳥が静かにさえずりを始めた。
――新しい律動。新しい時代。
すべてはカイラスたちの選択の先に、今、始まろうとしている。
カイラスはそっと拳を握りしめ、仲間たちと共に新たな朝日を見つめる。
「さあ、行こう。俺たちの、これからの世界へ」
そして、静かな祝福の鐘が、どこからともなく、世界全体に優しく響き渡った――。
カイラスが魂の叫びを放ったあと、砦も村も王都も、世界のあらゆる場所が、一瞬にして静止した。
空気は重く、張り詰めて、誰もがただ息を潜めて“何か”を待っているようだった。
忘却の神は、微動だにせず、ただ静かに彼らを見下ろしていた。
その姿には威圧感がありながら、どこか物悲しさが漂っている。
『……カイラス・ヴァルドレン。お前は苦しみも、痛みも、記憶も、すべてを抱えて歩む道を選んだ。
人の営みも、命も、すべてが移ろい、時には裏切られ、喪われ、けれど決して無駄ではないという。
ならば、私はお前の選択を受け入れよう。』
静かだが、世界の底まで響くような声だった。
『だが、“すべてを元に戻す”ことはできぬ。なぜならお前たちは変わった。選択のたび、心は揺れ、世界の形もまた少しずつ新しいものへと移ろう。
……これより、新たな律動(リズム)が世界に流れ出す。お前たちの魂が刻む鼓動に合わせ、過去と未来が編み直されていくのだ。』
その瞬間、砦の空に淡い光が差し込む。
夜の闇に、微かな蒼色と金色が混じり、まるでまだ誰も知らない朝がゆっくりと生まれつつあるようだった。
カイラスは仲間たちと見つめ合う。
ノクティアは涙をぬぐいながら、微笑みを浮かべている。エイミーは震える手でカイラスの袖をつかみ、レオナートは背筋を伸ばし、真っすぐに未来を見つめている。
砦に集まった人々も、子どもから大人まで、皆がそっと手を取り合い、寄り添い合っていた。
世界が、音もなく、静かに動き始める。
まず最初に戻ってきたのは、草の匂いだった。
春の訪れを告げる淡い緑の匂いが、風に乗って砦の中庭を満たしていく。
だが、それはかつての世界と“まったく同じ”ではなかった。
かつて大きな欅の木があったはずの場所に、小さな苗木が芽吹いている。
広場の片隅で、今まで見たことのない花が咲き、遠くの山並みも少し形が変わっている。
見知った顔が、少し違う髪型や服装で現れる人もいる。
「……あれ? 村の井戸の位置が……」
エイミーが目を瞬かせる。
砦の兵士たちも、戸惑いながら、けれど不思議と怖がってはいない。
「まるで、“昨日までと少しだけ違う世界”に来たみたいですね」
レオナートがそう呟くと、ノクティアも頷いた。
「これは、私たちが“選んだ未来”……なのかもしれない」
カイラスは深く息を吸い、そっと頬をなでた。
ほんのり冷たい風と、どこか懐かしい温もり。その両方を同時に感じていた。
忘却の神が、再び語りかける。
『お前たちが記憶を選んだことで、世界もまた“変化する運命”を受け入れた。
喪われたものもあれば、新たに生まれたものもある。
それは悲しみであり、同時に希望でもあるだろう』
神の声はどこまでも遠く、そして優しい。
『……人の歴史は常にそうやって紡がれる。傷つき、涙を流し、それでも前を向いて歩み続ける。
それが、お前たち人間の強さであり、愚かさであり、美しさなのだ』
カイラスはしっかりと頷いた。
「俺はこれからも、何度でも守る。みんなの未来を、絆を、希望を。
たとえどんな世界になっても、俺は俺であり続ける」
ノクティアがそっと彼の手を握った。
「私も、どんな形になっても、あなたと一緒に歩いていきます」
エイミーは満面の笑みで。
「また一緒に新しい思い出を作りましょう!」
レオナートも静かに拳を胸に当てる。
「僕は、団長の背中を見て、ここまで来ました。これからも、ずっとあなたの側で支えます」
カイラスは彼らを見回し、胸の奥からこみあげる熱いものを抑えきれなかった。
「みんな……ありがとう。
俺たちの選択は、もう誰にも消せない。これからも、何度でも、何があっても――守ると誓う」
その言葉に呼応するように、世界がさらに鮮やかに、鼓動を刻み始めた。
ふいに、空気が優しく震え、忘却の神が手を差し出す。
『カイラス・ヴァルドレン。
お前は自らの意志で、世界を救い、変えた。
お前たちの魂の律動は、この世界に新たな光と命を与えた。
ゆえに、私はお前に“新たな守護者”としての祝福を与えよう』
その手から柔らかな光があふれ、カイラスの胸の奥に静かに染み込んでいく。
『お前が傷つき、悩み、立ち上がり続ける限り――この世界もまた、歩み続けるだろう』
カイラスはゆっくりと目を閉じた。
心の中に、かつてないほどの温もりと勇気が満ちてくるのを感じる。
「……ありがとう、神よ。
俺は、絶対にこの力を、みんなの幸せのために使う。
守るべきもののために、何度でも立ち上がる」
神は一瞬、わずかにほほえんだように見えた。
『ならば進め。
この世界の、新たな朝を――』
そのとき、不意に背後から誰かが歩み寄ってきた。
「……素晴らしい選択だったな、カイラス」
柔らかで澄んだ声。
振り返ると、銀色の髪を揺らし、深い蒼色のローブをまとった女性――アムネリスが立っていた。
アムネリスはカイラスに優しい眼差しを向ける。
「お前の意志が、この世界に新しい光を灯した。
絶望の中でなお、未来を信じ、皆の手を離さずに歩んだ。
……その姿こそが、この世界にとっての“本当の奇跡”だ」
カイラスは言葉を失い、ただ静かに頷いた。
アムネリスは皆を見渡し、そっと微笑む。
「この先の世界が、どんな姿に変わっても。痛みも、悲しみも、希望も、すべてを受け入れて歩みなさい。
その道の先にこそ、あなたたちだけの未来がある」
ノクティアはアムネリスに近づき、深く礼をする。
「私たちは、もう迷いません。何があっても、仲間と共に進みます」
エイミーも元気よく。
「私も、もっと強くなります!」
レオナートも静かに敬礼する。
「僕は、みんなを守り抜くと誓います」
アムネリスは嬉しそうにうなずき、最後にもう一度カイラスの肩に手を置いた。
「カイラス。君の魂が灯した光は、これからも消えることはない。
新しい世界で、君自身の道を――守護者として歩みなさい」
その瞬間、夜明けの光が世界を包み込み始める。
空が淡く赤く染まり、鳥が静かにさえずりを始めた。
――新しい律動。新しい時代。
すべてはカイラスたちの選択の先に、今、始まろうとしている。
カイラスはそっと拳を握りしめ、仲間たちと共に新たな朝日を見つめる。
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