【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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5章

70話「約束の朝」

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 夜の帳が静かに溶け、砦の花畑には最初の光が差し込もうとしていた。
 春の息吹が地面を満たし、奇跡の花は静かに銀色の輝きを増している。

 ノクティアは、まだ世界が目覚め切らないその静寂のなか、
 ひとり花畑を歩いていた。
 草の露が足元を濡らし、夜明けの冷たさとやわらかい温かさが、心と体をそっと包んでいく。

    * * *

 「ノクティア。」

 背後から、聞き慣れた声が届いた。
 振り返ると、カイラスが小走りに近づいてくる。

 「どうしてこんな早くに?」
 ノクティアは微笑みながら尋ねる。

 カイラスは少し息を弾ませ、花畑の中央で立ち止まった。
 「……お前と、一緒に朝を迎えたかった。」

 ノクティアの胸がほんのり熱くなる。

 「私も、今日という日をあなたと迎えたかった。」

 ふたりは、まだ冷たい朝の空気のなかで寄り添いあう。
 草花の香り、春の光、さわやかな微風――
 どこまでも澄んだ幸福が、ふたりを包む。

    * * *

 「カイラス、約束してくれる?」
 ノクティアがそっと言う。

 「これからも、どんなことがあっても一緒に生きていくって。」

 カイラスは真剣な目でノクティアを見つめ、
 「約束する。何度でも、お前を守る。
 どんな時でも、俺はお前の隣にいる。」

 「……私も、ずっとあなたを愛する。」

 ふたりは見つめ合い、春の光が花畑を満たす瞬間――
 カイラスがノクティアの肩をそっと抱き寄せ、やさしく額にキスをした。

 花の冠の香り、夜明けの柔らかな光、心臓の鼓動――
 すべてがひとつに溶け合い、ふたりだけの永遠の約束となる。

    * * *

 ふと、花畑の小道から、子どもたちや仲間たちが顔を覗かせた。

 「ノクティア様! 団長! おはようございます!」
 サーシャとフレッドが手を振り、エイミーやレオナート、アリシアたちも笑顔で集まってくる。

 「今日は新しい季節の始まりだ!」
 レオナートが高らかに宣言し、みんなが花びらを撒きながら輪になって踊る。

 エイミーがノクティアに花束を渡し、
 「これからも、ずっと一緒に楽しい春を迎えましょう」と笑顔を向ける。

 アリシアはカイラスの肩を叩き、
 「やっと素直になったわね」と茶化しては場を和ませた。

 子どもたちも「大きくなったらノクティア様みたいになりたい!」「団長みたいに強くなる!」と元気な声を響かせる。

 花畑の中央で、みんなが輪になり、春の歌を歌う。
 笑い声と涙が混じり合い、これまでの日々の苦しみも、
 今だけはすべて幸福のなかに包み込まれていった。

    * * *

 日が高くなるにつれ、村や砦の人々も花畑に集まり、
 春の光のなかで宴が始まる。

 パンとスープ、畑の野菜、焼きたての菓子、
 村人が持ち寄った果物や、砦の兵士が披露する楽器の音色――

 みんなで歌い、踊り、語り合い、
 この場所、この命、この幸せを心から祝福した。

 ノクティアはカイラスと手をつなぎながら、みんなの笑顔を見つめていた。

 (私は、もう迷わない。
 ここで、みんなと生きていく。
 それが、私の生きる意味――)

    * * *

 夕暮れ時、宴の輪が静まるころ、ノクティアは花壇の前に立つ。
 奇跡の花は、今日もやさしく銀色に揺れている。

 エイミーが隣に立ち、「この花、私たちの希望の印ですね」とつぶやく。

 「ええ……この花が咲くかぎり、私たちも、きっと大丈夫。」

 レオナートやアリシア、子どもたち、村人たちも花のまわりに集まり、
 それぞれの夢や願いを静かに胸に刻む。

 やがてカイラスがノクティアの肩をそっと抱き、
 「これからも、みんなで新しい春を迎えよう」と語りかける。

 ノクティアはその言葉に大きくうなずき、
 (私は、この奇跡の花とともに、
 どんな未来も歩いていける)

    * * *

 ――春の花畑の真ん中で、奇跡の花が、やさしく風に揺れている。

 それはここに生きる者たちの希望、勇気、
 “新しい物語”が、きっとまた始まることを予感させる光だった。

 物語は、これからも続いていく。
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