【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

文字の大きさ
87 / 107
6章

81話「約束の剣」

しおりを挟む
 王都の空が昼なお薄暗いのは、春の嵐が近づいているせいだった。
 祭りの喧騒が残る城下町も、どこかざわめきと不安に包まれている。

 「王都守備隊、本部より報告! 北門外に魔物の群れ、発生!」

 緊急の鐘が打ち鳴らされ、衛兵と魔導士たちが一斉に駆け出す。
 王都の人々も、久しぶりの“魔物襲撃”にざわついていた。

    * * *

 ノクティアは、王都魔導士会で事件資料を整理していた。
 最近、リュゼルやカイラスとの想いのすれ違いに心が揺れていたが、
 その手はしっかりと自分にできることを探し続けている。

 そのとき、使いの少年が駆け込んできた。

 「ノクティア様! 北門に魔物が現れました。守備隊が危険です!」

 ノクティアはすぐに立ち上がる。
 「リュゼル殿下は?」「現地指揮です!」

 心臓が高鳴る。迷っている暇などない。

    * * *

 北門外、石畳の広場には魔物たちがうねるように押し寄せていた。
 黒い毛並みの大狼、巨大なサソリ、異形の魔獣が次々と城壁に襲いかかる。

 「魔導士隊、前へ! 弓兵、援護しろ!」

 リュゼルは、威厳ある指揮官の顔で戦場に立っていた。
 従者たちが彼のそばで慌ただしく動く。

 ノクティアが駆けつけたとき、城門付近はすでに修羅場だった。

 「ノクティア、来てくれたか!」

 「リュゼル殿下、ご無事ですか?」

 「……ああ、大丈夫だ。だが状況は最悪だ。守備隊は分断され、王都からの増援も遅れている。
 今は俺たちだけでここを守るしかない!」

    * * *

 ノクティアとリュゼルは、即席の指揮を取り合いながら前線へ出る。
 ノクティアは高台から広範囲魔法で魔物の進撃を遅らせ、
 リュゼルは騎士剣と魔導剣を巧みに操って味方を鼓舞した。

 「君の魔法は相変わらず見事だ」
 「殿下の剣さばきも頼もしいです。……でも、無理はなさらないで」

 ふたりは背中を預け合いながら、矢のように押し寄せる魔物の群れに立ち向かった。

    * * *

 だが、嵐のような戦いのさなか、敵の巨大な魔獣――
 “黒水牛”が突進し、ノクティアとリュゼルは城壁際へと弾き飛ばされた。

 「くっ……!」「ノクティア、下がれ!」

 気づけば、周囲は魔物の包囲。援軍も届かず、二人きり。

 ノクティアは歯を食いしばって立ち上がった。

 「リュゼル、私が前に出るわ――」

 「駄目だ!」

 リュゼルが叫ぶ。
 魔獣の一撃がノクティアを襲うその瞬間、リュゼルは彼女を庇い、全身で攻撃を受け止めた。

 「リュゼル!?」

 盾も剣も吹き飛び、リュゼルの肩口が大きく裂ける。
 だが彼は、なおもノクティアの前に立ち塞がる。

 「俺は――もう、お前のことを“無能”なんて、誰にも言わせない。
 ……お前を、二度と傷つけさせない!」

 ノクティアの瞳に、熱い涙が滲む。

 「リュゼル……」

 リュゼルは歯を食いしばり、血に染まった剣を強く握り直す。

 「ノクティア、俺はお前を信じてる。……昔、弱さを見せる君が許せなかった。でも、今は違う。
 “強くなった君”も、“迷いながら生きている君”も、全部……俺の誇りだ」

    * * *

 ノクティアは、涙とともに魔力を練り上げた。

 「ありがとう、リュゼル。私、今ならもう――怖くない」

 ふたりの心が響き合ったとき、ノクティアの魔法陣が輝きを増した。

 「王都を、みんなを、絶対に守る! “約束の剣”よ、私たちに力を――!」

 光が爆発し、守備隊の背後に勇気を与える。
 リュゼルは再び剣を取り、ノクティアとともに魔獣の群れに切り込んでいく。

 ふたりの共闘は守備隊全体に伝播し、士気は限界まで高まった。

    * * *

 激戦の末――
 魔物の群れはようやく退けられ、夜明けとともに王都に平和が戻る。

 ノクティアは倒れかけたリュゼルを支え、静かに微笑んだ。

 「ありがとう、リュゼル。あなたがいてくれてよかった」

 リュゼルも、弱く微笑み返す。

 「ノクティア、お前を信じて戦えたことが……俺の誇りだ」

 ふたりは、深く心で繋がったような気がした。

    * * *

 その様子を遠くから見つめていたカイラスは、胸に淡い焦りを覚えながらも、
 ノクティアの幸せを願わずにはいられなかった。

    * * *

 戦いの夜明け。
 王都の空には新しい光が差し込み、
 ノクティアとリュゼルの“信頼”と“誓い”は、確かに次の未来へと繋がっていく――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜

緋村ルナ
ファンタジー
華やかな公爵令嬢アメリアは、身に覚えのない罪で辺境の荒野へ追放された。絶望と空腹の中、泥まみれになって触れた土。そこから芽吹いた小さな命と、生まれたての料理は、アメリアの人生を大きく変える。土と炎、そして温かい人々との出会いが、彼女の才能を呼び覚ます!やがて、その手から生み出される「幸福の味」は、辺境の小さな村に奇跡を巻き起こし、追放されたはずの令嬢が、世界を変えるレストランのオーナーとして輝き始める!これは復讐ではない。自らの手で真の豊かさを掴む、美食と成長の成り上がり物語!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...