【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

82話「家族の名を越えて」

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 王都の貴族街は、今日も絢爛な馬車や社交のざわめきに包まれていた。
 ノクティアは、薄い春のドレスに身を包み、社交会館の扉をくぐる。
 守備隊での激戦から一夜、心身はまだ重さを引きずっていたが、それでも今は“自分の足で”この王都を歩いていた。

 「最強魔導士ノクティア様、ようこそ」

 会場には、かつて自分を見下していた貴族たちの顔がずらりと並ぶ。
 その中に、見慣れた――だがどこか遠い――家族の姿があった。

    * * *

 「ノクティア……やっと顔を見せたな」
 冷たい眼差しの父。
 控えめに視線を逸らす母。
 社交界の場で「エルヴァーン家の娘」の名誉を利用しようとする下心が、言葉の端々ににじむ。

 「このたびの武勲、王家からも高く評価されたそうだな」
 「そうよ、ノクティア。あなたがこの家の名に恥じない活躍をしてくれて、本当に――」
 (“本当にありがたい”、その先の言葉は口にはされない)

 ノクティアは微笑みもせず、静かに一歩前へ出る。

 「父様、母様――私は今、“家の名”で生きているのではありません。自分の意思で、この場所に立っています」

 父の表情が強張る。「お前はエルヴァーン家の娘だ。それを忘れるな。お前が王都でどう振る舞うかは、この家の名誉に直結する」

 周囲の貴族もざわめき始める。
 “家名”と“実力”、どちらがこの場で重いのか――誰もが値踏みしている空気だ。

    * * *

 そのとき、リュゼルが、堂々たる足取りで会場に入ってきた。
 王家の衣をまとい、第2皇子としての威厳を隠さない。

 「エルヴァーン家の皆さま。……ノクティアは“あなた方の名誉”のためではなく、“王都の平和”と“自らの意思”でここにいる。
 それを王家も高く評価しています。――彼女を“家の道具”として扱うことは、二度と許しません」

 会場に緊張が走る。
 ノクティアの父は思わず言葉を詰まらせる。

 「殿下……それは、つまり……」

 リュゼルはきっぱりと頷く。「王家の一員として、そしてノクティアの“信頼する仲間”として申し上げます」

 ノクティアの心に熱いものがこみ上げる。

    * * *

 「ノクティア」
 リュゼルはそっと彼女の隣に立ち、「あとは自分で言うといい」と目で促す。

 ノクティアは大きく息を吸い、社交会館の中央に進み出た。

 「皆さま。私は“最強魔導士”と呼ばれても、ここに至るまで失敗と後悔ばかりでした。
 けれど、仲間や友の支え、王都の人々の信頼が、私を強くしてくれたのです。
 私は、もう“家の名”や“誰かの期待”に縛られて生きるつもりはありません。
 これからは“私自身”として、この王都に貢献していきます」

 会場の空気が変わる。
 ある貴婦人が「立派なお嬢さんになられましたね」とささやき、若い魔導士たちが憧れの目で彼女を見つめていた。

    * * *

 その後、父は「好きにするがいい」と短く言い、母は小さな声で「体にだけは気をつけて」と呟いた。
 ノクティアは一礼してその場を離れる。

 リュゼルが追いかけてくる。「よく言ったな」

 「……ありがとう、リュゼル。あなたがいてくれて、心強かった」

 リュゼルは照れ隠しのように咳払いし、「お前はもう“家名”を超えている」とだけ言う。

 ノクティアは自然と笑顔になった。

    * * *

 会場の外――
 花咲く街路を歩きながら、ノクティアは胸を張っていた。
 ふと、遠くからカイラスが手を振る。

 「お疲れ様。……やっぱりノクティアは、ノクティアだな」

 ノクティアは二人の仲間に見守られながら、
 「私はもう迷わない。“私の人生”を、自分で選び続ける」
 と、心に誓うのだった。

    * * *

 王都の夜は、今までで一番やさしい風が吹いていた――。
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