【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

83話「恋の自覚」

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 王都の春が、ようやく穏やかな日差しを取り戻し始めていた。
 けれど、ノクティアの胸の中には、晴れやかさと同じくらい、戸惑いと高鳴りが渦巻いていた。

 (私の人生は、もう“家名”や“誰かの期待”で動かされるものじゃない――)
 社交会で毅然と家族と向き合い、リュゼルとカイラス、二人の支えと温かさを受け取ったその夜から、
 ノクティアの中には“自分で自分を選ぶ”という静かな誇りと、言葉にならない不安が芽生えていた。

    * * *

 王都魔導士会の一室。
 失踪事件の調査資料が山のように積み上がるテーブルを、リュゼルはじっと睨みつけていた。
 だが彼の視線は、ふいに隣のノクティアへと向く。

 「……ノクティア」

 「どうかしたの?」

 「いや、その……昨日の君は、いつにも増して立派だった。家族にああ言えるなんて、すごいことだ」

 ノクティアは困ったように微笑む。

 「リュゼルのおかげよ。あなたが間に立ってくれたから、私も勇気が出せたの」

 リュゼルは言い淀み、思わず資料をめくるふりをする。

 (俺は、なぜこんなに胸が苦しい? ……守りたいだけじゃない。君が誰かに笑いかけると、それだけで心がざわつく)

 この数日の激動――共闘、苦いすれ違い、命懸けの戦い、そして昨日の“宣言”――
 全てが自分の中の“何か”を変えてしまった。

    * * *

 一方、カイラスは守備隊の訓練場で兵士たちと鍛錬していた。
 だが、ふと視線を遠くの王宮へと移す。

 (ノクティアは、本当に強くなった。……けど、それだけじゃなくて、今の彼女には誰もが引き寄せられてしまう。
 リュゼルも、そのひとり……いや、俺も……)

 彼は剣を握る手に力をこめ、訓練を早々に切り上げて魔導士会へと足を向ける。

    * * *

 調査会議が終わり、ノクティアが部屋を出ようとすると、廊下でカイラスが待っていた。

 「ノクティア、少し散歩しないか」

 「えっ……うん」

 ふたりで王都の並木道を歩くと、淡い花びらが舞い散る。
 カイラスは、これまでと違う優しい微笑みで言った。

 「俺はさ……どんなに君が強くなっても、弱い部分を見せてくれても、全部“ノクティア”として好きだと思ってる」
 「カイラス……?」

 「いつも言葉にできなかったけど……君の隣が、一番しっくりくるんだ。――もし、誰にも頼れないときは、必ず俺を呼んでくれ」

 ノクティアはドキリとした。
 カイラスのまっすぐな目。――彼もまた、はっきりと“想い”を伝え始めている。

    * * *

 その夜。
 ノクティアの部屋に、リュゼルが静かに訪ねてきた。

 「少し、時間をもらえるか」

 「もちろん。どうかしたの?」

 リュゼルは、普段は見せないほど真剣な顔でノクティアを見つめる。

 「俺は――ずっと、“正義”や“家柄”に縛られて生きてきた。でも、君を守りたくて何度も悩んできた。
 ……だけど今は、もっと単純だ。“ノクティアが幸せでいてほしい”、ただそれだけなんだ」

 ノクティアは言葉を失う。
 リュゼルのまなざしは、誰よりも熱く真っ直ぐだった。

 「俺は……ノクティア、君が好きだ」

 ノクティアは胸がぎゅっとなった。
 リュゼルの気持ちが、真正面からまっすぐに届く。

    * * *

 翌朝、広場ではカイラスとリュゼルが珍しく真剣な空気で対峙していた。

 「お前……昨夜ノクティアに何を言った?」
 カイラスが静かに問う。

 リュゼルは正面から答える。

 「俺の気持ちは隠さない。……ノクティアを想う気持ちだけは、お前にも負けるつもりはない」

 カイラスもきっぱりと言い返す。

 「俺もだ。ノクティアの心が揺れるなら、それでもずっと寄り添い続ける」

 その様子を遠巻きに見ていたノクティアは、思わず顔を赤らめる。

 (こんなふうに“想われる”なんて、夢にも思わなかった。けれど――私自身は、どうしたいんだろう?)

    * * *

 エイミーや王都の仲間たちも、二人の“アピール合戦”に気づき始めていた。

 「ノクティアさん、団長様と殿下の間……どうなってるんです?」
 エイミーはハラハラしながらも、どこか楽しそうだ。

 「こりゃあ、王都中の噂になりますねえ」
 レオナートが苦笑し、
 「どっちに転んでも、ノクティアさんが幸せになればそれでいいですが」と励ます。

 ノクティアは皆の応援と茶化しの中で、ますます心が揺れていった。

    * * *

 夜。ノクティアは一人きりで王都のバルコニーに立つ。
 淡い月明かりの下、自分の心に問いかけてみる。

 (私は――リュゼルが好き? カイラスが好き? それとも……)

 どちらも大切で、どちらにも救われてきた。
 恋と友情、信頼と憧れ――その境界線が、いまはどうしても見えなかった。

    * * *

 ――でも、ひとつだけ分かる。

 “こんなに胸が苦しくて、温かくて、迷うのはきっと……私が本当に“恋”をしているからだ”

 ノクティアは小さく微笑んだ。
 春の風が、王都に新しい恋の予感を運んでいく――。
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