【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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6章

84話「裏切りの影」

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　王都に夜の帳が下りると、貴族街は仄暗いランタンの光に包まれ、表と裏の顔が混じり合うような気配が満ちていた。
　ノクティアは、魔導士会の執務室で事件資料を前に黙考していた。

　（ここ最近、すべての事件の点と点がひとつの線で繋がり始めている……。
　そして、その線の先には“貴族社会の中枢”がいる――）

　“魔導士連続失踪事件”の黒幕として浮かび上がったのは、王都社交界でも名高い大貴族・オルグレン侯爵。その家名は絶大な権力と財力を誇り、表では王家の信頼も厚いとされていた。

　　　　＊　＊　＊

　夜の執務室。
　カイラスとリュゼルも、いつになく険しい顔で集まっていた。

　「……やっぱり、黒幕はオルグレン侯爵か」
　カイラスが低い声で呟く。

　「証拠は揃い始めているが、やつは用心深い。下手に動けば、ノクティア……いや、お前たち全員が標的になるかもしれない」
　リュゼルの声もまた、真剣そのものだった。

　ノクティアはふたりを見渡す。

　「私ひとりの問題じゃありません。ここで立ち止まるつもりはない。
　でも、皆に迷惑はかけたくない……」

　そのとき、廊下の窓を風が強く叩いた。
　外の影に、ノクティアはふと緊張を覚える。

　　　　＊　＊　＊

　――その頃、王都の裏路地。
　黒いフードをかぶった小柄な影が、夜の闇に紛れて走っていた。
　「標的は“最強魔導士”。明日、動く」
　暗号のようなささやきが交わされる。

　ノクティアが“オルグレン侯爵の陰謀”に気付いたのを、黒幕側もすでに察知していた。

　　　　＊　＊　＊

　翌朝。王都の広場は、どこか張り詰めた空気に包まれていた。
　ノクティアはいつものように訓練場でエイミーやレオナートたちと声をかけあい、気丈にふるまっていたが、心の奥では小さな不安が大きくなっていくのを感じていた。

　「ノクティアさん、最近少し……落ち着きがないような……」
　エイミーが心配そうに寄り添う。

　「大丈夫よ。私は、負けないから」
　そう笑ってみせるものの、その瞳の奥に揺れる影は隠しきれなかった。

　　　　＊　＊　＊

　その日の午後、王都魔導士会に“緊急招集”の鐘が響き渡った。

　「オルグレン侯爵邸で、不審な動き！　街路に武装した私兵が配置され始めています！」

　「ノクティアさんを危険に近づけるわけにはいかない！」
　エイミーや若い魔導士たちが色めき立つ。

　だがノクティアは、毅然と前を向いた。

　「私がいなければ、誰がこの事件を止められるの？　……私だけで行きます。誰も巻き込みたくない」

　その言葉に、カイラスとリュゼルが同時に立ち上がる。

　「ノクティア、一人で行かせるわけにはいかない」
　カイラスの声は、静かだが揺るぎない。

　「俺もだ。君が危険なときこそ、そばにいる。それが俺の“覚悟”だ」
　リュゼルの青い瞳にも、今までにない決意が宿っていた。

　　　　＊　＊　＊

　二人は、互いを見てうなずき合う。

　「ノクティアを守るために――今だけは、争いは後回しだ」
　「……ああ、“共闘”だな」

　手を握り合うことはなくても、その絆は、かつてないほど強いものだった。

　　　　＊　＊　＊

　夕刻、オルグレン侯爵邸前。

　「侵入者あり！」
　私兵たちの叫びとともに、邸宅は緊迫した空気に包まれる。

　ノクティア、カイラス、リュゼルの三人は互いに背中を預け合い、屋敷の中へ突入した。

　豪奢な廊下、深紅の絨毯、壁には黒幕オルグレン侯の肖像画が睨みをきかせている。
　やがて現れた侯爵は、余裕の笑みを浮かべていた。

　「やっと来たか、最強魔導士。……愚かな小娘よ。王都も王家も、お前ごときには救えまい」

　「私は、あなたの好きにはさせません」
　ノクティアはまっすぐに睨み返す。

　だがその瞬間、背後の壁が開き、隠し通路から魔導器を持った刺客たちが現れる！

　「ノクティア、下がれ！」
　カイラスが一歩前に出て、剣を抜く。

　「後ろは俺が守る。ノクティア、魔法の構えを！」
　リュゼルが冷静に指示を飛ばす。

　罠だ――それでも、三人は絶対に怯まない。

　　　　＊　＊　＊

　激しい戦いが始まった。
　ノクティアは、私兵と刺客の連携した攻撃に翻弄されつつも、仲間の支えとともに必死に対抗する。

　「君はもう“誰かに守られるだけ”じゃない。自分の力で切り開け！」
　リュゼルの声。

　「お前の背中は、俺が絶対に預かる！」
　カイラスの叫び。

　ノクティアは、ふたりに背を預け、最大級の魔法陣を描き出した。

　「私はもう、決して負けない。私には、“守りたい人”がいるから！」

　閃光が屋敷を貫き、刺客たちが次々に倒れていく。

　　　　＊　＊　＊

　しかし、侯爵は最後の切り札を残していた。

　「――やれ」

　別室で控えていた裏切り者が、魔力を解き放つ。
　王都の空が黒く渦巻き、さらに大きな危機が三人を飲み込もうとしていた――！

　　　　＊　＊　＊

　「ノクティア！」「絶対に離れるな！」

　カイラスとリュゼルが、彼女の両側で手を握る。
　全ての力を合わせ、絶体絶命の危機に立ち向かう三人――。

　裏切りと陰謀の夜は、ついにクライマックスを迎えようとしていた。

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