【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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7章

第93話「家族への手紙」

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 春の柔らかな光が、グランツ砦の書斎に差し込んでいる。
 ノクティアは机に向かい、窓から見える花畑に一瞬だけ視線を送った。
 小鳥のさえずり、花壇の色彩、子どもたちの笑い声――
 この穏やかで幸せな日々のなか、ふいに心の奥底から湧き上がる“不安”と“迷い”が、彼女の胸に影を落としていた。

    * * *

「自分の人生を自分で選ぶ」

 その思いがようやく確かな形をとり始めた今、ノクティアはエルヴァーン家――かつて自分を“無能”と呼び、冷たく突き放した家族に、手紙を書こうと決めた。

 机の引き出しから便箋を取り出す。
 白く、清らかな紙の上に、震える指でペンを取る。
 心の中にあふれる想いを、どうすれば言葉にできるのか。
 何度も深呼吸をして、ノクティアは静かにペンを走らせた。

 ――父上、母上、兄さま、姉さまへ

 久しぶりのお便りになります。私は、今、とても幸せに暮らしています。
 辺境の地で、素晴らしい仲間たちと出会い、守りたいものができました。
 王都でも砦でも、かつての“無能”と呼ばれた自分ではなく、“ノクティア・エルヴァーン”として、人の役に立つことができるようになりました。

 みなさんに感謝しています。
 どんなに冷たくされても、どんなに疎まれても、私はエルヴァーン家で育ったことを誇りに思っています。
 でも、これからは――

 自分の人生を、自分で選びます。

 誰かの期待や世間の評判ではなく、
 自分の“本当の気持ち”に従って、これからの道を歩いていきます。
 どうか、私の決意を受け入れていただけますように。

 最後に、みなさまのご健康と幸せを、心よりお祈りしています。

 ――ノクティア

 書き終えた瞬間、ノクティアの胸の奥から、静かな涙が一粒こぼれ落ちた。
 過去の痛みも後悔も、今だけは素直に受け止めることができた。

    * * *

 手紙を王都に向けて送り出してからの日々は、どこか落ち着かないものだった。
 「返事なんてこないかもしれない」と思いながらも、どこかで“家族の心”を信じていた。

 そんなある日――春祭りの準備がにぎやかさを増す夕方、砦に使者が訪れた。
 エルヴァーン家からの、封蝋付きの手紙を携えて。

 「ノクティア様、お手紙です!」

 リリーが興奮気味に封筒を差し出す。ノクティアは両手でそれを受け取り、深く息をついた。
 そっと封を切る。そこには、父の厳しい筆跡と、見慣れた兄姉の署名が並んでいた。

 ――ノクティアへ

 手紙を読んだ。お前が自分の道を見つけ、堂々と生きていることを知り、安堵している。

 思えば、私たちはお前の“弱さ”を恐れ、遠ざけていたのかもしれない。
 だが、王都でも辺境でも、お前の名は誰よりも高く評価されている。
 “無能”と呼ばれた少女が、今や多くの人の希望となっていること、正直、誇らしい。

 私たちは、不器用だった。
 もし許されるなら、これから少しずつでも、兄妹としての関係を取り戻していきたい。

 お前の選んだ道を、遠くから応援している。

 父、母、兄、姉より

 ノクティアは読みながら、自然と涙がこぼれていた。

 ――(過去も、こんなふうに受け入れてもらえる日が来るなんて、思っていなかった)

    * * *

 その夜、ノクティアは塔の上に立った。
 夜風に揺れる花の香り。子どもたちの寝息。仲間たちの静かな気配。

 ふと、カイラスがそっと横に立つ。

 「……ノクティア、泣いてるのか?」

 「ううん、違うの。ただ……嬉しくて」

 カイラスはノクティアの肩に手を置き、静かに寄り添う。

 「君がここにいてくれて、みんなが幸せだ。……それだけは、俺が保証する」

 「ありがとう、カイラス。私、自分の過去も未来も、全部受け入れて歩いていきたい」

 「それでいい。君らしく、君のままで」

    * * *

 翌朝――。
 ノクティアは手紙を胸に抱え、砦の広場に出た。
 春の陽射しのなかで、子どもたちや仲間が笑い、エイミーやレオナートが「おはよう」と声をかけてくれる。

 ノクティアは微笑む。

 「私の居場所は、ここにも、王都にも、きっとたくさんある。
 どこにいても、“私自身”で生きていこう――」

 過去も未来も、自分の一部。
 ノクティアは新しい春の空の下、また一歩、前へと歩き出した。
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