【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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7章

第94話「運命の夜」

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 春祭りの夜は、王都の空に数え切れない灯火が揺れていた。
 メイン広場は音楽と笑い声、色とりどりの花飾りであふれ、屋台の明かりが夜空に浮かぶ星のようにきらめいている。

 ノクティアは広場の片隅に立ち、人々の喧騒を静かに見つめていた。
 砦の仲間も、王都の知人も、みんながこの夜を楽しみにしている――
 そんな幸福な空気のなかで、ノクティアは自分の心が「守りたいもの」でいっぱいになっているのを感じていた。

    * * *

 (私は今、幸せだ。でも――この幸せは、いつだって壊れやすい)

 何気ない笑顔や、祭りのにぎわい。
 その裏に、どこか不安な予感がよぎる。

 「ノクティアさん、こっち!」

 声をかけてきたのはエイミーだった。
 レオナートや村の子どもたちも、はしゃいだ顔で屋台の前を駆けている。

 「花火の場所取り、お願いしていいですか?」

 「うん、すぐ行くね」

 笑顔で答えながらも、ノクティアの胸の奥はどこか落ち着かない。
 春祭りの最中、こんなにも人が集まる場所で――何か起こるのではないか。そんな第六感が働いていた。

    * * *

 その時だった。
 広場の反対側で、突然「火事だ!」という叫び声が響いた。

 屋台の一角から黒煙が上がる。
 悲鳴とどよめきが一気に広がり、群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 「皆、落ち着いて! 怪我人がいないか確認して!」

 ノクティアは叫びながら人の波に飛び込む。
 同時に、火の手のそばで魔力の痕跡を感じ取り、瞬時に呪文を展開した。

 「《水の守り手よ、我に集え!》」

 ノクティアの魔力が空気を震わせ、水のヴェールが燃え広がる炎を包み込む。
 周囲の人々がざわめき、「やはり最強魔導士だ」と驚嘆の声を上げる。

 だがその陰で、見慣れぬ黒ずくめの男たちが群衆の隙間を狙い、財布や荷物をひったくり始めていた。

 「……やっぱり、これはただの事故じゃない!」

 ノクティアが息を呑んだその時、カイラスとリュゼルが駆けつけてきた。

 「ノクティア、こっちは任せろ!」

 カイラスは剣を抜き、男たちの前に立ちはだかる。
 一方、リュゼルは冷静に周囲を指示し、衛兵や魔導士たちを誘導する。

 「広場の北門を封鎖しろ! 民間人を安全な場所へ!」

 カイラスとリュゼル、そしてノクティア――
 三人は言葉にしなくても息がぴったり合った。

    * * *

 ノクティアは人混みを縫い、黒ずくめの一人を捕まえた。

 「あなたたちは何者? このお祭りを壊すつもりなの?」

 「知ったことかよ! 金と混乱が手に入れば何でもいい!」

 だが男の動きは鈍く、ノクティアの魔法であっさり拘束される。
 そこへカイラスが駆け寄り、さらに二人を取り押さえる。

 「ノクティア、背中は任せろ!」

 「ありがとう、カイラス!」

 リュゼルは中央で、混乱する市民たちを冷静に誘導している。

 「ここは大丈夫だ。ノクティア、カイラス、敵の逃げ道を塞いでくれ!」

 ノクティアとカイラスが頷き合う。
 魔法と剣が絶妙に連携し、やがてすべての犯人が捕らえられた。

    * * *

 事件が収束した頃、春祭りの灯火は再び穏やかに揺れていた。

 怪我人も大きな被害もなく、群衆には安堵と感謝の声が広がる。
 「さすが最強魔導士さま!」「王家のリュゼル殿下、カイラス団長も――」
 三人の活躍は、王都の人々に強く印象づけられた。

 ノクティアは広場の片隅で、深く息をついた。
 カイラスがそっと近づく。

 「大丈夫か?」

 「うん……でも、すごく怖かった。みんなが、また傷つくんじゃないかって……」

 カイラスはノクティアの肩をそっと抱く。

 「お前がいるから、みんな守れた。お前がここにいるだけで、皆が安心できる」

 ノクティアは目頭を熱くしながら、カイラスに寄りかかった。

 「ありがとう、カイラス。私――“守りたいもの”が、こんなにもたくさんあるんだって、今日改めて気づいたの」

 「それでいいさ。お前が守りたいもの、俺も一緒に守る」

 二人の距離が、今までになく近づいていた。
 遠くでリュゼルが静かにその様子を見守り、微笑む。

    * * *

 夜空には、春祭りの花火が打ち上がる。

 ノクティアは空を見上げ、そっと呟く。

 「みんなが無事で、本当によかった――」

 彼女の胸には、過去も未来も、そして“今”も――
 守りたいものが、確かにあった。

 花火の光に照らされた三人の絆は、これまでにない強さを持って新しい夜へと続いていく。
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