備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず

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第2章 矢作、村を出る?!

久しぶりの再会は大騒ぎ?!

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この世界では、旅は趣味などと言うものは居ない。

命懸けだからだ。

野獣、野盗以外にも移動手段が限られているため、ほとんどの人が滅多な事では旅に
行かない。

なのに…何故か旅の空の下である。

『ふぅ。』

「あっ、先輩!!異国語でため息つかないで下さい!!」
そう、最も大きな理由の一つがコイツだ。

草薙。
それにしても、相変わらず大きな声だな。

***

我が家の完成披露パーティは、あの地鎮祭の時で終了した。
それはそれは大騒ぎになったからだ。


我が家に出来た会議室の初の利用は、中々シビヤな雰囲気の中始まった。

先程から、呟きが止まらないキョウが最初に口を開く。

『召喚を人間が行うなど、前代未聞。この影響は多方面に広がるかもしれぬ。』

いや、単なる地鎮祭で召喚などした覚えは無いと主張したいがここは空気を読むか。

『神獣の居ない召喚者、クサナギあなた…加護はないようですね。』先程から草薙の手のひらの中で撫でられ続けているハクの言葉。
どうやら、全くこちらの言葉が分からない草薙にとってハクを撫でる事が唯一の精神安定剤らしい。

『キョウ様にお伺い致します。
影響はどのような事が考えられますか?』
好青年も深刻な顔のままだ。

『うむ。召喚者の健康状態には問題ないようだが、本来ならあるべきギフトもなく、言葉も理解しない。命があっただけ幸運と言うべきか。』

えっ?
そんな大変な事なのか。
この能天気の塊に命の危機が。だとすれば俺のした事は(した覚えは本当にないが)一大事ではないのか。

『はぁ、今頃か。そうだ、お前の健康状態はどうだ?何か異変はないのか?』
キョウが俺の膝の上に飛び乗って、何やら呟いた。

『その身の全てを顕らかにせよ!』

俺の身体が光ってる?!でも…あれ?
1部だけはそのままのような。

『ま、不味い。ギフト収納庫の機能の殆どが封鎖されているぞ!』

良かった。足の1部が光ってないから気になったけどそれは関係ないのか。
収納庫は便利だけど、身体には変えられない。

でも、やっぱり一言言いたい。

『俺はやってない。
やったのは、地鎮祭だ。』

そして、さっきから気になっている目が点の草薙に声を掛ける。
「草薙、それ以上ハクを撫でるな。ハゲる。」
いや、本当にぐったりしてるじゃないか。
神兎とは言え、過度のストレスは堪えるのだな。

「せ、先輩。TOEIC800点以上だと言ってたの本当だったんですね。こんな異国語までマスターとか凄いです。」

いや、こんな状況で言葉しか気にならないお前が不安だよ。気にする所が他にいくらでもあるだろう。

「正直、実感がないのが本当です。でも異世界転移とかめっちゃ憧れでしかないので。もう、自分におきるなんて思ってもみなかったです!!
それに…
先輩が行方不明で探し回っていた時よりずっと良いです。」

。。。

最後の一言は堪えた。

そうか…俺の不在を気にしてくれる人がいたのか。
能天気男のくせに、暗い顔してそんな事を言うなんて思わなった。

ありが…「先輩が居なくなった後、どれだけ青木課長にドヤされたと思ってるんですか!!資料も持ち帰ってなくなってるし。青木課長の綱は先輩しか握れないんですから!!」

感謝の言葉はあっけなく終わった。

『収納庫から何か取り出してみろ』
俺たちを放って協議していたキョウが、急にこっちを向いて不安そうな声を出す。

村長の顔色が凄く悪いなぁ。じゃあ、取り敢えずアレを取り出すか。

『【特万能薬】出ろ』


。。。

出ない。

おっ??
またも、顔の横の渦巻き出現か?

やっとLvが上がって、手をツッコまなくても取り出せる様になったのに。

『よいしょ、【特万能薬】どこだ?!
うーん。無いなぁ。』
見えない箱の中を探るのは難しい。
前は、言葉にしたら直ぐに手の中に感触があったのに。

『やっぱり無いか。間違いない。お前の収納庫の中身は極初期のものだけになっているのだ。まあ、本来の力を取り戻せられば取り出しも可能になるが。』

ガサガサとキョウの言葉を聞きながらも、収納庫を探っていたら何かにぶつかった。

『あ、クッキーの袋だ。』
割れただけで、安売りになる超お買い得なクッキーだ。懐かしい気持ちになる。

クッキーを見た草薙が、飛びつく。

「先輩!!これもしかして「まんぷくパン」のクッキーですか?凄い!!
美味しいので有名ですよね。あ、やっぱり2割引のシールがある。」

目ざとい。
美味しい食べ物に目がない草薙だからな。

「いや、これは閉店間際に無料で貰った。」

「無料!?凄いです。滅多にないですよ。」


俺たちのやり取りは、誰にも通じない。
それでも、キョウがクッキーの袋をジッと見る眼圧には気づいている。

『少し食べるか?向こうの食べ物はあまりないんだ。だからちょっとだぞ。』
キョウが食べようとしたら、ちゃっかりハクまで横にいた。

2欠片を渡したら、向こうの方から羨ましいそうな村長の顔が。

出してしまったものは、仕方ない。みんなに少しづつ配るか。
袋に手を入れた途端、キョウの叫びが。

『ぎゃぁ、ぐぉぉーー!!』

えっ?
犬にはクッキーは厳禁だったか?
チョコレートは入ってないヤツなんだどな。


蹲ったのは、ハクも同じ。
全員がドキドキしながらも、手を出せずに見守っていたら2人の身体がグングン大きくなって。

キョウは大型犬くらい。ハクはキツネくらいになっていた。
クッキーか?

まさか栄養剤とか入ってたのか。

『矢作よ。これを誰かにやった事あるか?』
『ないけど』
『じゃあ、絶対にやるな。これは【特万能薬】を越える。人間には効きすぎるやもしれん。』


さすがまんぷくパンだな。
村長にあげる前で良かった。日本産の食べ物は危険なのだな。

『それよりも、草薙はあっちへ帰せないのか?』
今はこちらこそ大事。

草薙はまた、意味不明になったので又もやハクを撫で始めた。
でかくなっても癒しは癒しらしい。
取り敢えず、後で止めよう。今は仕方ない。

待つ間もなく即答。
『無理だ』『無理ね』キョウとハク両方から同意見とは。

やっぱり、責任を感じる。(やってないけど…な。)

すると突然、後ろから声がした。

『私に心当たりがあります。南の国ノナに渡り術に関しての記述のある本があるも聞いた事があります。』

今の今まで、存在感のない黒装束からの一言に草薙が「ヒッ!」と短い悲鳴を上げた。

『なるほど、古代時代の物が最も残っている国だからな。糸口があるすれば。』
キョウの言葉に、この日一番の嬉しさが込み上げる。少しは希望の光が見えてきたのか!

その国に行くしかないか…と考え込んでいたら。

『ま、待ってください。私達の国の王立図書館にも、ルカサ語の本があります!』
好青年が何故か必死だ。
愛国青年なのだな。と、言うよりは王様からの命令を何か受けてるか?

『ヌーヤ帝国なら、あるかもしれない。』
ハクが続ける。

『彼の事を思うなら、ノナに行ってみるのが良いかもしれん。ただ、ギフトの力をほぼ封じられたお主では旅が厳しいが』


『そ、それならば私達が護衛を集めて』
『我らの村から護衛を募って』

好青年と村長が勢い良く提案してくれる。
有難いな。頼りにして良いかな。
と、色々考えていたら悲鳴が一つ。

『まずは旅支度と私の頭から手を離させて!!!』

ハクからの必死の言葉に草薙をハクから引き剥がして、俺は草薙を連れて会議室を出た。『後で話は聞くから。今はコイツを休ませてくる。』

扉の閉まる音と共に会議室の中では白熱した声が響いていた。


会議室から、客間のベットに腰掛けて声をかけた。

「俺のやってた案件の結末と、青木課長からの指示の内容と俺の菜園の報告をしてくれ。」と。

ようやく草薙の目に光が戻る。
いつも通りの俺たちの会話。

そうだ。人間はいつも通りに非常に安堵を覚えるものだ。

草薙は、課長に苦労した話をひと通り話をしたら、相当疲れていたのかそのままベットに倒れてた。目の下の隈もすごい。

これだけの事が起きたんだ。
今まで気絶しないだけ、大したものだ。

そのまま、布団を掛け部屋から出る前にソッと声をかけた。

「探してくれて…ありがとう。」と。


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