備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず

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第2章 矢作、村を出る?!

緊急事態!!

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それからのバタバタした出来事は、正直あまり記憶にない。それほど、ショックだったのだ。

草薙を召喚した。

初めて聞いた時は何の冗談かと、思った。
勘違いも程々にして欲しい。そう何度も思ったのに。


消えかけた草薙の手を、俺が握り続けて数時間後透明になりかけていた手はしっかりと元通りになった。ジルの言うには
『草薙さんとこの世界を繋ぐ唯一のモノは矢作さんなんです。異例の召喚で不安定になっている草薙さんを安定させられるのは、この世界で矢作さんだけです。』

肩にかかる重さに潰れるかと思った。
家族も居ない俺にとって、誰かの命の重さを背負う覚悟なんて無い。いや、無かった。

それでも嫌でも思い知った。
何故、召喚したのかどうやったのか。そんな疑問は後回しだ。
ルサカ語の調査を急がなきゃ。草薙を無事家族の元へ帰さなきゃ。
そう、帰さなきゃ…。

『そうですか。では王宮に行くしかないですね。』ジルの声にハッとした。

『え?俺が行くの??』

周りが一斉に俺を見た。
ため息混じりのジルの声が響く。

『聞いてなかったのですか?でもまあ無理もありません。草薙さんは矢作さんにとってそれだけ大切な人なのですから。
もう一度言います。ルサカ語の事と草薙さんの召喚問題について、ヒントを下さるかもしれない方が王宮にいらっしゃいます。
我々の世界に於いてスキルや装身について日夜研究されている賢者 ヤト様です。
ヤト様ならば、草薙さんの事も何かわかるかも知れません。ただ…』

『ただ?』

『…。王宮には最高権力者がお住いです。ご挨拶を省く訳には参りません。
王に謁見された後、ヤト様にお会いになるしか方法がないのです。』

『会います。だからジルさんは最速で王宮に行く方法について探って下さい。』
即答だった。当たり前だ。
俺はその場で頭を深く下げてジルに頼み込んだ。王宮なんて日本に居たら全く縁のなかった場所だ。頼りになるのはジルだけだ。
当城となれば、それなりに用意するモノがあるはずだ。しきたりとかも。

『わかりました。全てお任せ下さい。』
にこやかに微笑んでドアからジルが出て行ったのを見届けて、再び草薙に視線を戻した。
手は元通りだし、顔色も少し赤みがさしてきた。なのに目覚めない。
診てくれた医師によると、まだ回復途中のために身体を守るために意識が、戻らないだけだから心配は無いと。

握った手は汗で湿っている。
「ベタベタしてますね。」今にもそんな憎まれ口が聞こえて来そうなのに。

「草薙、何で言わなかったんだ。具合が悪かったって。
こんな事なら語学の勉強を深夜まで扱くんじゃなかった…」「いや、扱いて貰わなきゃ。先輩は間違ってないですよ。」

『『『『草薙、さん!!!!』』』』

目を開けた草薙が俺を見上げていた。
しっかりした目つきでニヤケて俺を見上げる草薙にいつもの様に何か言いたかった。
けど、どうしても今は口を開けなかった。

涙は出てない。ちゃんといつもの顔のはずだ。でも、口を開けば声が震えそうだったのだ。

『草薙、無理はダメだ。かえって大事な人に心配を掛ける。』
珍しく普段無口なグーナンが呟く。

『ソだな…ハンセした』
珍しく殊勝な態度の草薙にまた、沈黙が場を支配した。

『草薙、これから王様に会う。そこに頼りになる人がいるらしいんだ。お前の事もルサカ語もヒントがひとつでも貰えるなら何処でも俺は行く。そしてこれから本気でルサカ語を調べる。
ラッセルさん、商会の方はお願いして良いですか?』

ラッセルさんは『勿論。』と快諾してくれた。
この街に、この世界に少しでも衛生を広めたかった。少しでも街角に座り込む子供たちが居ない世界にしたかったが俺にしては大きな事を望み過ぎたんだな。

この世界に来て何んか訳の分からないスキルとかを貰って少しいい気になっていた。
なんでも叶う様な気がしたのだ。
全く、自分のアホさ加減に嫌になる。

正しくこの世界と俺たちの故郷【日本】の関係を調べなきゃ。

それにはヤト様に会わなきゃ。


***草薙視点***

目が覚めていきなり聞いた事のない声のトーンの先輩の声がした。
それも俺の事だった。

調子は良くなかった。
でも、日本でもつかれが溜まっては整体に行ったりマッサージに行ったりしていた。
あれとあんまり変わらないと思って油断したのは俺だ。
実はぼんやりとした体調不良が、ハッキリした体調不良となったのは手が消え始めたあの時だったのだ。

焦った。

手が消える。

そんなアニメの展開。自分におきて初めて背筋が寒くなった。異世界転移の興奮も時折家族の顔が浮かんでは胸苦しくなった夜もあった。

けど、別次元。

ルサカ語。
ヤト様。

先輩の目が本気だった。
でも、何時でも先輩が何とかしてくれる。そんな甘えは前の部署だけで十分だ。


自分で何とか絶対に…ん?


ジルさんが沢山の黒服達を連れて部屋に雪崩込んできて、先輩を連れ去っていった。

と、思ったら俺はまさかの担架に乗せられて更には豪華絢爛な馬車に乗せられ連れてこられた場所はジルの実家らしい。

先輩と2人目が点になる、正に豪華絢爛なお城だった。

フカフカ過ぎるベットに入れられた。
(医師の命令で未だベットから出れない…いや元気になったけどな。。)

ポツンと取り残さた俺と先輩。

『草薙。俺は帰りたいかと聞かれたら微妙だった。だけどお前が来た時初めて分かったんだ。この世界でひとりぼっちだったんだと。そんな俺の気持ちがお前を呼んでしまったのかもしれないな。』
下を向いた先輩の告白は、いつもの張りのある声じゃない。

『先輩、俺は【異世界小説】の大ファンでした。出来すぎる家族から逃げたくて、そんな本ばかり読んでいたんです。
逃げたかった俺の気持ちを神様が見抜いたのかも。でも、俺もこの世界に来て初めて家族が恋しくなりました。』
ここで俺は先輩の目を見てもう一度口を開いた。

『先輩、この世界に来て毎日楽しかった。充実したキラキラした日々です。でも、それは先輩がいてくれたから。
ここに来た理由なんて俺たちには真実は分からない。そう思います。
でも、先輩と一緒にこの世界で過ごす日々も俺にとっては大切な日々です。
後悔よりも前進を。
いつも先輩が言ってる言葉じゃないですか。』

真剣に聞いてた先輩は、少しだけ目を伏せてそして顔を上げた時はいつもの先輩だった。どんなクレームにも強気のいつもの。

『そうだな。前へ。
草薙、一緒に前へ進もう。そしてお前をいつか絶対日本へ帰すから。』

いつもの頼りになる先輩にいつも通り

「はい!!」
元気だけが取り柄の返事を返した。
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