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父の遠出
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いかんせん妹たちが何もしないものだから、家事と家計の把握に時間を取られてしまって、仕事に本腰を入れることが難しいのだ。
「それでお父さま、今日はお仕事はどうだったの?お客さんはたくさん来たのかな?」
ジャンティーは、父親の質問の答えをはぐらかすように話題を切り替えた。
「……期待したほど、客は来なかったなあ。一日中、店は暇だったよ」
しょんぼりと肩を落として、風呂場に消えていく父の背中を見送る。
父のこんな様子を見届けるのは、もう何度目かわからない。
昔は豊かで黒かったシャルルの髪には、すでに白髪が混じっている。
かつては恰幅が良かったのに、今となっては頬がこけて痩せ細り、老いの影が目立ちはじめていた。
こんな父のためにも、自分がもっと頑張らなければ。
いつか父の苦労に報いられるように。
アヴァールとリュゼだって、今はあんな調子だけれど、いつかは現実と向き合って父を助けてくれるはず。
ジャンティーは密かに、そう期待していた。
────────────────────
ある日、シャルルは遠くの街まで仕入れに出かけることとなった。
「お前たち、帰りにお土産を買ってきてあげるよ。何が欲しいものは?」
厚手のコートを羽織りながら、シャルルは子どもたちに問いかけた。
「わたしは素敵なお洋服!絹のドレスがいいわ!黄色の薔薇模様のものが欲しいの!!」
アヴァールが強くねだる。
「私は帽子!ダリアの花飾りがついた最新流行のがいいわ」
リュゼがかわい子ぶったように言う。
今の父にそんな余裕がないことなど知っているだろうに。
何もわかっていない妹たちに、ジャンティーは内心呆れていた。
それはシャルルも同じようで、彼のカサついた唇から漏れ出たため息を、ジャンティーは聞き逃さなかった。
「……ジャンティー、お前は?お前は何が欲しいんだ?」
「お父さま、ぼくは何も要らないよ」
ジャンティーは首を横に振った。
「気を遣うことは無いんだよ、ジャンティー。そうだお前、ずっと同じものばかり着ているだろう。いま着てるヤツ、もう何年も前から持ってるものだろう?新しい服を買ってやろうか?帽子や手袋のほうがいいか?」
「そんなの、ちっとも欲しくないよ。あー、じゃあ……」
ジャンティーはしばらく考え込んだ。
「では、薔薇の花を一輪持って帰ってきてくれるかな。アレがもう枯れかけているからね」
ジャンティーはテーブルの上に置いてある、一輪挿しを指差した。
この簡素で手狭な一軒家を少しでも華やかに見せようと、小瓶に野菊を挿して置いていたのだ。
瓶はシャルルが腰痛の治癒のために服用していた鎮痛薬の小瓶、野菊は庭に咲いていたのを摘んできたものだ。
──それくらいなら、大丈夫なはずだよね
花の一輪くらいなら、どこか路傍にでも咲いているだろうとジャンティーは考えていた。
「そうか、薔薇の花を一輪だな。わかったよ。お前らしいおねだりだ。必ず持って帰るから、留守番を頼んだよ」
シャルルは寂しげに微笑みながら、家を出て行った。
シャルルは、ジャンティーの心遣いを嫌というほどに理解していたのだ。
「それでお父さま、今日はお仕事はどうだったの?お客さんはたくさん来たのかな?」
ジャンティーは、父親の質問の答えをはぐらかすように話題を切り替えた。
「……期待したほど、客は来なかったなあ。一日中、店は暇だったよ」
しょんぼりと肩を落として、風呂場に消えていく父の背中を見送る。
父のこんな様子を見届けるのは、もう何度目かわからない。
昔は豊かで黒かったシャルルの髪には、すでに白髪が混じっている。
かつては恰幅が良かったのに、今となっては頬がこけて痩せ細り、老いの影が目立ちはじめていた。
こんな父のためにも、自分がもっと頑張らなければ。
いつか父の苦労に報いられるように。
アヴァールとリュゼだって、今はあんな調子だけれど、いつかは現実と向き合って父を助けてくれるはず。
ジャンティーは密かに、そう期待していた。
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ある日、シャルルは遠くの街まで仕入れに出かけることとなった。
「お前たち、帰りにお土産を買ってきてあげるよ。何が欲しいものは?」
厚手のコートを羽織りながら、シャルルは子どもたちに問いかけた。
「わたしは素敵なお洋服!絹のドレスがいいわ!黄色の薔薇模様のものが欲しいの!!」
アヴァールが強くねだる。
「私は帽子!ダリアの花飾りがついた最新流行のがいいわ」
リュゼがかわい子ぶったように言う。
今の父にそんな余裕がないことなど知っているだろうに。
何もわかっていない妹たちに、ジャンティーは内心呆れていた。
それはシャルルも同じようで、彼のカサついた唇から漏れ出たため息を、ジャンティーは聞き逃さなかった。
「……ジャンティー、お前は?お前は何が欲しいんだ?」
「お父さま、ぼくは何も要らないよ」
ジャンティーは首を横に振った。
「気を遣うことは無いんだよ、ジャンティー。そうだお前、ずっと同じものばかり着ているだろう。いま着てるヤツ、もう何年も前から持ってるものだろう?新しい服を買ってやろうか?帽子や手袋のほうがいいか?」
「そんなの、ちっとも欲しくないよ。あー、じゃあ……」
ジャンティーはしばらく考え込んだ。
「では、薔薇の花を一輪持って帰ってきてくれるかな。アレがもう枯れかけているからね」
ジャンティーはテーブルの上に置いてある、一輪挿しを指差した。
この簡素で手狭な一軒家を少しでも華やかに見せようと、小瓶に野菊を挿して置いていたのだ。
瓶はシャルルが腰痛の治癒のために服用していた鎮痛薬の小瓶、野菊は庭に咲いていたのを摘んできたものだ。
──それくらいなら、大丈夫なはずだよね
花の一輪くらいなら、どこか路傍にでも咲いているだろうとジャンティーは考えていた。
「そうか、薔薇の花を一輪だな。わかったよ。お前らしいおねだりだ。必ず持って帰るから、留守番を頼んだよ」
シャルルは寂しげに微笑みながら、家を出て行った。
シャルルは、ジャンティーの心遣いを嫌というほどに理解していたのだ。
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