私と先輩のキス日和

壽倉雅

文字の大きさ
51 / 60
第十一章『旅行中のキスー後篇ー』

その一

しおりを挟む
二泊三日の一日目が終わり、翌朝笑理は梢を起こさないようにゆっくりと起き上がると、朝風呂へと向かった。
露天風呂に浸かりながら、笑理はいつから自分が女性しか愛せなくなっていたのかを思い出そうとしていた。少なくとも小学校の時は、そういう考えにはなっていなかったはずである。
高校入学以降、男子生徒に告白をされた際に断ったのは、母の面倒を見なければいけないのが本来の理由であったが、表向きには勉強や部活を理由としていた。だがよく考えてみれば、何人もの男子生徒に告白をされても、一度たりとも嬉しい気持ちにならなかったのは、やはり父親である高梨のことがあるからだろうと考えた。
昨日祖母に梢との交際を打ち明けた際にも、祖母は否定せず、女性しか好きになれない性的指向になるのも無理がないというような考えであった。家族崩壊の元締めとも言うべき高梨や久子のことはずっと恨み続けてきたが、今となっては梢と引き合わせてくれた高梨には、憎悪の気持ちは少なからず減っていた。
湯を顔にかけ、今日は母の墓地の前で梢を紹介しようと、笑理は決めた。

広間での朝食は、川魚を中心とした和定食であった。昨晩は飛騨牛にばかり意識が行っていた梢は、飛騨産コシヒカリを使った白米が甘いことに気が付いた。また、味噌汁は東海地方特有の赤味噌を使った濃い味付けだったが、これも梢にとっては珍しい味で興味津々で口に運んでいた。
他の宿泊客たちは既に食べ終え、笑理がトイレに行くと言って席を立つと、広間にはゆっくり食事をする梢だけが残った。
「失礼いたします」
房代がそこへ入ってきた。昨日の藍色の着物とは違い、今日は萩模様の刺繍が施された薄紫色の着物である。
房代は梢のもとへ来るなり、三つ指を立てて深々と頭を下げると、
「昨晩はとんだ失礼をいたしました。いくら笑理のお連れ様とは言え、日頃のお疲れを癒していただくために当館をご利用いただきましたお客様の前で、あのような振る舞いをしましたことをお詫び申し上げます」
「大女将……」
「あの子たちの父親は、何より私の娘を不幸にした男ですので、つい恨みつらみを申し上げることになってしまいました。あの子が同性を好きになるのも、父親の言動のせいだと思います。それでも笑理は、梢さんと一緒にいることで幸せになってるんです。梢さん、笑理のこと、どうぞよろしくお願いいたします」
もう一度頭を下げる房代を、梢はただじっと見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

淡色に揺れる

かなめ
恋愛
とある高校の女子生徒たちが繰り広げる、甘く透き通った、百合色の物語です。 ほのぼのとしていて甘酸っぱい、まるで少年漫画のような純粋な恋色をお楽しみいただけます。 ★登場人物 白川蓮(しらかわ れん) 太陽みたいに眩しくて天真爛漫な高校2年生。短い髪と小柄な体格から、遠くから見れば少年と見間違われることもしばしば。ちょっと天然で、恋愛に関してはキス未満の付き合いをした元カレが一人いるほど純潔。女子硬式テニス部に所属している。 水沢詩弦(みずさわ しづる) クールビューティーでやや気が強く、部活の後輩達からちょっぴり恐れられている高校3年生。その美しく整った顔と華奢な体格により男子たちからの人気は高い。本人は控えめな胸を気にしているらしいが、そこもまた良し。蓮と同じく女子テニス部に所属している。 宮坂彩里(みやさか あやり) 明るくて男女後輩みんなから好かれるムードメーカーの高校3年生。詩弦とは系統の違うキューティー美女でスタイルは抜群。もちろん男子からの支持は熱い。女子テニス部に所属しており、詩弦とはジュニア時代からダブルスのペアを組んでいるが、2人は犬猿の仲である。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...