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改稿版
改13話「港町」
しおりを挟む船に乗って五日目の早朝。
無事にブルーメ大陸のルーデンドルフ帝国に着くことができた。
ドミニクさんの話では、港町から帝都まで馬車で半日ほどかかるそうだ。
船を降りるとき、船員さんと乗客の皆さんに、何度も「ありがとうございます」と言われ、頭を下げられた。
なんだか心の奥がこそばゆいです。
いいことをするとこんな気持になるのね。
船に乗ってたのは船員さんと乗客を合わせて約五百人。
乗客の治療が終わったあとは、船長さんの顔の古い切り傷を治療したり、腕や足の不調を訴えていた船員さんの治療をした。
忙しかったのは始めの二日間だけで、残りはのんびりと船旅を楽しむことができた。
船長さんが船で一番豪華な部屋に移してくれて、部屋に料理を運んでくれた。
宿泊費も、ご飯代もただにしてくれた。
船員さんや乗客の中には、私のことを「聖女様」や「女神様」と呼ぶ方がいて、気恥ずかしくなった。
私は聖女は首になったし、女神だなんて恐れ多い。
船を降りると、乗客達にその場で待機しているように言われた。
私が帝都に向かうと知って、船員さんと乗客の皆さんがお金を出し合って、馬車を借りてくれたのだ。
馬車は二頭建ての立派なものだったので、とても助かった。
ドミニクさんとゲルダさんにこれ以上甘えられないので、帝都まで歩いて行くつもりだった。
なので、馬車を手配してもらえて助かった。
私が馬車に乗るとき、治療した人たちからパンやチーズや瓶入りのジュースなど、沢山の食料をいただいた。
この旅を始めてから、心の綺麗な人ばかりに出合います。
「すまないねえ。
あたしたちまで馬車に乗せてもらって。
それに船では、あたしたちまで一等の客室に泊めてもらって」
「皇族や貴族が乗るような立派な馬車に乗るなんて、初めてだぜ」
船長さんは、ドミニクさんとゲルダさんの部屋も、普通の客室から一等客室に変えてくれた。
「お二人にはとてもお世話になりました。
私はこの国のことを何も知りません。
行き先も同じですし、ドミニクさんとゲルダさんに一緒に来ていただけると助かります」
この国出身のお二人が一緒だと心強いというのは本当だ。
お二人には、船の中でもとても助けられた。
何かお礼をしたいのだ。
それに、大きな馬車に一人で乗るなんてさみしいもの。
「良かったら、チェリーをどうぞ」
港町でいただいたお菓子や果物を、ドミニクさんとゲルダさんと分け合う。
一人ではとても食べ切れない。
傷んでしまったらもったいない。
「甘酸っぱくて美味しいね。
旅の疲れが吹っ飛んじまうよ」
チェリーを一つ口に含むと、ゲルダさんは顔を綻ばせた。
「今さらこんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど……。
港町から帝都までの乗り合い馬車の料金も出すつもりだったんだよ」
「リアーナみたいか世間知らずのお嬢さんを、港町に放置できないからな」
ドミニクさんとゲルダさんに、出会えて本当によかった。
「俺たちは帝都にある自宅に帰るんだが、
リアーナは何しに帝都に行くんだ?」
「そういえば聞いてなかったね」
「帝都に知り合いがいるんです。
手紙をいただいたので会いに行こうと思って」
「あら、やだリアーナの恋人かい!?」
ゲルダさんが瞳を輝かせた。
「えっ……?」
アルドリック様が私の恋人……?
「いえ、そんな!
彼はただの友達です!」
アルドリック様は、子供の頃仲の良かったお友達だ。
恋人だなんて言ったら、アルドリック様が気を悪くするわ。
それに……子供の頃ならともかく、今は身分が違う。
私は公爵家を勘当され平民。
アルドリック様は帝国の第四皇子だ。
私が平民になったと知ったら、アルドリック様は会ってくれないかもしれない。
アルドリック様を恋人かと尋ねられたとき、胸がドキドキしました……?
この気持ちはいったい……?
「リアーナが会いに行くのは恋人なんだな。
軟弱な男だったり、
女をとっかえ引っ変えするような男だったら、
俺が一発お見舞いしてやるさ!」
ドミニクさんが指をポキポキと鳴らす。
「そうだね。
リアーナの恋人が女に稼がせるような駄目人間だったり、
とんでもなく女性関係にだらしい男だったら、
あたしたちが真人間に更生してやらないとね」
ゲルダさんまで。
「それでも変わらないようだったら、
別の男を紹介してあげるよ。
皇族専属のお針子になって長いからね。
あたしはこう見えて、若い騎士や文官に知り合いが多いんだよ。
知り合いの中で一番将来が有望な男を紹介するよ」
ゲルダさんは楽しげに笑った。
なぜか二人の中で、今から会いに行く人が私の恋人と言うことになってしまった。
アルドリック様をお二人に合わせて大丈夫でしょうか?
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