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4話「婚約破棄、勘当、国外追放のトリプルコンボ! アデリナはへこたれない!」
しおりを挟む「アデリナ!
お前の一番の過ちは、
水竜の像の掃除に無意味に時間を費し、
王太子妃の教育や、
王太子の婚約者としての仕事に遅れをきたしたことだ!」
王太子が尚も私を責める。
いや水竜様の像の掃除は、本来であれば国王陛下と王太子殿下のお仕事ですよね?
その仕事を私に押し付けといて、私が頼まれてもいないことを勝手にやって他の仕事に支障をきたした……みたいな言い方は止めてほしい。
それに私の仕事が遅れた理由は水竜様のせいではない。
鼻の穴を広げてふんぞり返っている王太子に「私の王太子教育や王太子の婚約者としての仕事に遅れが出ていたのは、あなたの分の宿題や仕事をこなしていたからですよ!」と言ってやりたい。
「婚約破棄されるような娘はブラウフォード公爵家にはいらん! ただいまを持ってアデリナをブラフォード公爵家から勘当する!」
父が厳つい顔でそう宣言した。
別邸に暮らすようになってから、貴族らしい扱いを受けていないので実家から勘当されても、傷つくことはない。
むしろあの家で使用人としてこき使われるぐらいなら、追い出された方が百倍良い。
その時、イルゼと目が合った。
「お姉様が怖い顔で睨んでます!」
イルゼは怯えた表情でエドワードに助けを求めた。
いや、ただ目が合っただけなんだけどね。
「エドワード様、助けて!
お姉様は私がエドワード様を奪ったと思ってます。
お姉様に逆恨みされて、復讐されたら嫌だわ……!」
イルゼは目にいっぱい涙を浮かべ、王太子に訴えた。
どうせ嘘泣きでしょう?
「イルゼが怖がっているので、アデリナに国外追放を命じる!」
王太子はイルゼの嘘泣きにコロッと騙されたようだ。
イルゼが私の顔を見て口角を上げた。
私がいなくなることに、イルゼは大変満足しているようだ。
私は、大衆の面前で婚約破棄&勘当&国外追放されてしまった。
こんなことになるなんて……!
なんて、なんて、なんて……幸せなの!!
やったぁぁぁーー!
王太子からも実家からもこの国からも解放された!
国内に残っていたら、「側室になって仕事だけしろ」と言われたかもしれない。
国外追放は願ってもないことだ!
なにせ王太子もイルゼも、私の功績を奪って首席と次席になっただけで中身はポンコツなのだ。
王太子とイルゼが役立たずのポンコツだと皆が気づく前に、王族が総力を上げて探しても見つからないくらい遠くに行こう!
家に帰ったら荷造りしなくちゃ!
クヴェルたんと一緒に旅に出よう!
私は頭の中で家に帰ったらあれとこれを鞄に詰めて……とシュミレーションしていた。
その時、強い視線を感じたのでそちらに目を向けた。
継母がこちらを見てニタニタと笑っていた。
継母は目の上のたんこぶだった私が国から追い出されることが、よほど嬉しいようだ。彼女は喜々とした表情を浮かべていた。
父も国王も、私が王太子に蔑ろにされるのを楽しんでいるようだった。
三人とも性格が悪い。
「王太子殿下、婚約破棄承りました。
国外追放も謹んで受け入れます。
お父様、今までお世話になりました。
勘当されても強く生きていきます」
私は淑女の礼を取り、鞄の中から紙とペンを取り出した。
学校からそのまま連れ去られるように王宮に来たので、鞄を持ったままパーティー会場に入ったのだ。
荷物を預かってくれる人がいなかったのだから仕方ない。
持参した袋にお菓子が入りきらなかったら、鞄に詰めて持って帰ろうと思い鞄を手元に置いておいてよかった。
私は近くのテーブルまで移動し、テーブルの上の料理をどかし、書類を書くスペースを確保した。
鞄からノートとインクを取り出し、契約書を三通作成した。
一通目は王太子との婚約破棄の書類、二通目は私を国外追放する書類、三通目はブラウフォード公爵家から私を勘当する書類だ。
後で言った言わないの水掛け論にならないように、きちんと契約書を交わしておかないとね!
「つきましては国王陛下は国外追放の書類にサインを、
王太子殿下は婚約破棄の書類にサインを、 お父様……いえ、公爵閣下はブラウフォード公爵家から私の籍を抜く書類にサインをください」
私の行動が予想外だったのか、紙とペンを渡すと国王も王太子も父も唖然としていた。
「どうしました?
私を手放すの惜しくなりましたか?」
「そんなわけあるか!
可愛げのないお前の顔を見るのも声を聞くのもうんざりだ!
婚約破棄の書類になどいくらでもサインしてやる!」
王太子はテーブルの隅に書類を置くと、書類にサインしていた。
国王と父には、侍従が台紙を渡していた。
王太子が書類にサインしたのを見て、残りの二人も書類にサインした。
私は全員がサインし終わるのを待って、書類とペンを回収した。
よっしゃ!
これで王族ともブラウフォード公爵家ともこの国とも私は無関係!!
せいせいした!
これからは人生を楽しもう!
「ごきげんよう、国王陛下、王太子殿下、公爵閣下、公爵夫人、イルゼ様。
王太子殿下、どうかイルゼ様と末永く幸せにお暮らしください」
私は嫌味をたっぷり込めてそう言ってから、カーテシーをした。
イルゼは甘やかされて育った。厳しい王太子妃教育に耐えられる訳が無い。
私に仕事を押し付けていたポンコツ王太子は、これからは自分で仕事をこなさなくてはいけない。
二人に待っているのは茨の道だ。
二人のメッキが剥がれていくのを、側で見れなくて残念だ。
王宮のパティシエが作ったクッキーとマカロンをクヴェルに持って帰れないのだけが心残りだ。
しかし、世界は広い!
世の中には王宮のパティシエが作るお菓子より、美味な食べ物が沢山あるはずだ!
クヴェルとグルメ旅行をするのも良いかもしれない。
「そうだ!
お前が国が出る前に面白いものを見せてやる」
私が踵を返し扉に向かうと、背後から王太子の声が聞こえた。
まだなんかあるの?
さっさと家に帰って、荷造りしてこの国からおさらばしたいんだけど……。
私はげんなりとした気分を表情に出さず、振り返る。
「お前がバカみたいに崇拝していた水竜の像を取り壊すことにした!」
「……!」
王太子の発言に私は耳を疑った。
私を動揺させることに成功したのが嬉しいのか、王太子が満足そうに目を細めた。
「水竜の像が建つ場所は王宮で一番日当たりが良く、見晴らしがいい!
そんな場所に役に立たない古い像を設置して置くなど愚の骨頂!
だから、水竜の像を壊し、跡地にイルゼとの新居を建てることにした!」
「まあ、素敵!
新居に住むのが楽しみだわ!」
古い像とはいえ、あれはこの国の建国に携わった水竜様を奉る由緒ある像だ。
それを壊す?
王太子は正気なの?
「殿下、それは……!」
私が「愚かな考えはお捨てください」と伝えようとした時、外で何かが破壊される音がした。
「さっそく工事が始まったようだな!
アデリナ、せっかくだから像が取り壊される様子を見にいったらどうだ?
お前はあの像に酷く執着していたようだからな?」
どうやら水竜様の像が邪魔だから壊すというのは建前で、王太子は私が大切にしていた物を私の前で破壊し私にダメージを与えたかったらしい。
そこまで私が憎いの?
それにしてもやり方が幼稚だ。
王太子の幼稚な精神を満たす為に、建国から伝わる水竜様の像を壊すなんて……!
私はバルコニーの外に出て、中庭を確認した。
中庭に鎮座していた水竜様の像の周りに屈強そうな男たちが集まり、男達はつるはしや、ハンマーを振り下ろしていた。
水竜様の像に亀裂が入り、砕けていく。
私の全身から血の気が引いていく。
あの像は建国の守り神であると同時に、私にとっては安らぎの場所でもあった。
それが、無惨に打ち砕かれていく。
私は震える体にむち打ち、玉座まで走った。
「陛下!
あの像が由緒あるものであることはあなたもご存知のはずです!
どうか、水竜の像の破壊を中止してください!」
王太子に言っても無駄だろう。
水竜様の像の破壊を止めるには、国のトップである国王に縋るしかない!
「そなたといい王妃といい、二言目には水竜様と、水竜様と……実に嘆かわしい」
国王は私の期待に反し、酷く冷めた目をしていた。
国王も水竜様の像を壊すことに賛同している……?
国王は玉座に座り、言葉を続けた。
「信仰に溺れるのは心の弱い者だ。
水竜の言い伝えなど単なる伝説だ」
陛下の発する言葉はとても冷たかった。
「三日に一度、国王か王太子に像を見かがせるなど馬鹿げている。
国王と王太子をなんだと思っているのか?」
国王は心底うんざりしている様子だった。
「水竜の像に関する伝説など子供騙しのまやかしにすぎん。
水竜の像にはなんの力もない」
国王は言葉を区切り、短く息を吐いた。
「現に、余も王太子もあの像を一度も磨いたことがない。
だが、何か祟りが起きたか?
天変地異に見舞われたのか?
答えはノーだ」
国王は窓の外を見据え、鼻で笑った。
「水竜の像を磨かなくても、この国は変わらずに豊かだ。
水竜の像を磨く風習など無意味だ。
あのような像を信仰する必要はない」
国王は本気で言っているようだった。
「民の崇拝は王である余や、
王太子である息子に向けられるべきだ!」
国王は水竜様の像や、建国から伝わる水竜様の伝説を忌々しく感じていたようだ。
水竜様の像を邪魔だと思っていたのは、王太子よりもむしろ国王かもしれない。
建国の恩人を蔑ろにするなんて、この国の王族は駄目駄目だ。
後でどんな天罰が下ることか……。
中庭から硬いものが破壊される音が響いてくる。
こうしている間にも水竜様の像が破壊されていく……。
私には何も出来ないの……?
会場内の貴族も建国の伝説を信じていないようで、水竜様の像が壊されることに異論を唱える者はいなかった。
オルトラン公爵夫妻だけは、国王に何か言いたげな表情をしていた。
「アデリナ、古びれた水竜の像の心配をしている場合か?」
「お父様……いえ、公爵閣下。
それはどういう意味でしょうか?」
いつの間にか私の隣に立っていた父が、嫌味な笑みを浮かべる。
これ以上何があると言うの?
「今日、お前を勘当することは事前に決めていた。
そして先程わしはお前を公爵家から除籍する書類にサインをした。
こちらが用意した書類を使うまでもなかった」
父も私を除籍する書類を持参していたようだ。
「お前はもはや公爵家の人間ではない。
よって、お前が暮らしていたみすぼらしい小屋を取り壊すことにした」
「……っ!」
小屋を壊すという言葉に目の前が真っ暗になる。
「あの小屋には火が放たれている頃でしょうね。
今すぐ公爵家に向かった方がよろしいのではなくて?
最もあなたが家に付く頃には、あなたが大切にしていた前公爵夫人の遺品も、あなたの荷物も真っ黒焦げになっているでしょうけど」
継母が私の顔を見てくすりと笑う。
男爵家出身である継母は、公爵家出身の私の母に劣等感を抱いていた。
私が落ちぶれ傷ついていくことに、継母は喜びを感じているようだった。
「失礼します!」
私は挨拶もそこそこに会場を後にした。
廊下を走り、城の入口を目指す。
城から出ると、公爵家の方角から煙が上がっているのが見えた。
「クヴェル……!」
私の心臓がドクン……! と不吉な音を立てた。
水竜様の像も、お母様の遺品も、もちろん大事だ!
どんなに大切でも、無機物に過ぎない。
生き物であるクヴェルの命には変えられない!
「クヴェル、無事でいて……!」
庭を突き抜け、馬車置き場を目指した。
馬車置き場には数多くの馬車が停車していた。
城に来るときに乗ってきた王家の馬車は借りられず、父や継母が乗ってきた公爵家の馬車にも乗せて貰えなかった。
私が学園から城に移動するのに、王太子が王宮の馬車を貸し出した理由に今気付いた。
国王も、王太子も、イルゼも、父も、継母も、全員ぐるになって今回の計画を立てていたに違いない。
私が公爵家に着くのを遅らせる為に、私から普段使っていた馬車を取り上げたのだ。
底意地が悪い!
だが、今はそんなことを考えている場合ではない!
私は走って公爵家に向かうことにした。
制服でパーティーに参加していて良かった。
ドレスアップしていたら、ドレスとヒールで公爵家まで走らなくてならなかった。
あんな格好で走ったのでは、公爵家に着くのに何時間もかかってしまう。
その点、制服は軽いし、ブーツは走りやすい。
これなら一時間ほどで公爵家に着けるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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