14 / 50
14話「ギルド長と昇級試験。グルメ地図は甘美な響き」
しおりを挟むギルド長さんは四十代中盤くらいの年齢で、長身で筋肉質、口髭と顎髭を生やしていた。
冒険者ギルドを束ねているだけあって威厳のある風貌をしていた。
ギルド長はカウンターの上に置かれた素材と魔石を見て、目を見開いていた。
「君たちが本当に倒したのかい?」
「そうだよ」
クヴェルが穏やかな表情で答える。
ギルド長さんは私とクヴェルを見定めるような目つきで見ていた。
「ギルド長、彼らは先ほどC級冒険者のドクラン、ランザー、イグニスの三人組を不思議な魔法で打ち負かしていました。
彼らがこれだけの素材と魔石を集めたという話は本当かもしれません」
一部始終を見ていたショートカットの受付嬢が、ギルド長に耳打ちした。
「どうやら、君たちは只者ではないようだ。
ここでは何だから部屋を移そう」
ギルド長さんに個室に移るように言われ、私達は彼の後に続いて二階に上がった。
素材と魔石は、受付を離れる前にクヴェルたんがアイテムボックスにしまっていた。
個室に移動すると、ギルド長から飛び級での昇級についての説明があった。
素材と魔石だけでは私達の実力を測れないらしく、中庭でテストを受けることになった。
C級冒険者の三人組が言っていたように、時おり金持ちが道楽で冒険者登録をして、金に物を言わせて魔石やモンスターの素材を買い集め、飛び級での昇級を迫ることがあるようだ。
なので飛び級で昇級するときは、昇級テストを受ける必要があるらしい。
中に移動した私達は、ギルド長に言われるままに的に向かって魔法を放った。
私がアイスランス、ブリザードの魔法を披露し、クヴェルがフローズンエタニティの魔法を披露した。
中庭には結界が張ってあるので、いくら魔法を使っても建物に被害が出ることはないらしいが、クヴェルの放った魔法の影響で結界にひびが入っていた。
ギルド長は、私達……特にクヴェルが放った魔法の威力に度肝を抜かれたようで、目を見開き口を半開きにしたまま固まっていた。
受付で絡んできたC級冒険者の三人を、クヴェルがあっさり撃退したこともあり、ギルド長は私とクヴェルが飛び級でB級に昇格することを認めてくれた。
ギルドに登録したその日に、B級冒険者に昇格してしまった!!
幸先の良いスタートだわ!
◇◇◇◇◇
テストを終えた私達は中庭から個室に移動した。
中央のテーブルを挟んだ向かいの席にギルド長が座り、私はクヴェルたんと一緒に長椅子に腰掛けた。
ポニーテールの受付嬢が紅茶とお菓子を出してくれた。
お菓子を食べながら待つこと一時間、ついにギルドからB級冒険者のライセンスが発行された。
ギルドから発行されたカードに「B級冒険者」の文字と共に自分の名前がしっかりと刻まれている!
私とクヴェルたんは、発行されたばかりのカードをしばし眺めていた。
「A級になるにはB級のクエストを百件以上こなし、なおかつ難しいテストを受け、なおかつ王族に認められなくてはならない」
ギルド長さんが、聞いてもいないA級冒険者に昇格するための説明を始めた。
A級冒険者になる気はない。なので私達には関係ない情報だ。
「やったね! クヴェルたん!
これで北の港から船に乗れるね!」
「うん、明日の夜明けと共に出発しよう!」
えっ、そんなに早く出発するの?
まだ王都の名所巡りも、屋台の食べ歩きも、おしゃれなカフェ巡りもしてないのに……。
「お前さんたち港に行く気かい?
残念だが一足遅かったな」
「どういう意味ですか?」
喜んでいるところを、ギルド長に水をさされてしまった。
「昨日、北へ続く街道は封鎖された」
「ええっ……!」
「これは下級の冒険者や街の人達には内緒だが、北の湿原に厄介なモンスターが住み着いたらしい。
いずれ王宮からA級以上の冒険者に招集命令が下るだろう」
ギルド長が眉間に皺を寄せ厳しい表情で話した。
私が思ってるよりも事態は深刻みたい。
王都に人が溢れていた理由がわかった。
船着き場に向かう街道にはワームが出現するので南西には行けない。
北の港に向かう街道は封鎖されているのでそちらにも行けない。
北の港にも船着き場にも行けなくなった人達が、王都に留まっていたのね。
「そんな時にお前さんたちみたいな強者が現れ、
冒険者登録してくれたのは嬉しい限りだ。
まさに天の助けだな」
「天の助け」という言葉にクヴェルは複雑な顔をしていた。
「君たちにはぜひ王都に留まり、街道に出るワームの退治をしてもらいたい。
ワームは斬ったら増える。
それを知らない冒険者や一般人に雇われた護衛が、ワームに斬りかかるせいで、奴らの数が増えるばかりだ」
王都に近づくほど、出現するワームの数が増えたのはそのせいだったのね
人々が不用意に攻撃したことで、ワームの数が増えてしまったんだわ。
「奴らを倒すには一度凍らせ、体を砕いて、中から魔石を取り出すしかないんだが……。
氷や吹雪系の魔法が使える魔法使いが不足していてな」
今日ギルドに登録したばかりの私達に頼るくらい、状況はひっ迫しているらしい。
「僕らがワーム退治を引き受けるメリットは?」
クヴェルが冷淡に言い放つ。クヴェルたんって意外と現金主義?
「お前さんたちがA級冒険者になる時に、俺が推薦状を書いてやる」
「いらない。僕らはA級には興味ないから」
クヴェルたんがギルド長の申し出をバッサリと切り捨てる。
A級冒険者は有事の際に王家に招集され、時には戦地に赴き国の為に戦わなくてはいけない。
その分A級冒険者には特権も与えられるようだが、そんな物に私達は興味がない。故にA級冒険者になるメリットがないのだ。
「ギルド長の権限を使い宿の手配をする!
北の街道が封鎖され、王都は行商人や旅人や冒険者が溢れている。
今から宿屋を見つけるのは大変だぞ」
うう……宿が見つけられなかったら今夜は野宿することになるのよね……?
三月とは言え夜はまだ冷えるのに……。
宿屋で温かいご飯が食べたいよ。
ふかふかのベッドで寝たいよ。
「ついでに俺が休日に食べ歩きして作った絶品グルメを提供する店のリストと、
店の位置を記した地図を付ける!!」
「絶品グルメーー!!」
甘美な響きについ声を上げてしまった。
お肉に、お魚に、野菜に、果物……この国ではどんな風に調理しているのかしら?
高級レストランから、下町の屋台まで、美味しい物を食べ歩きしたい!
「女の子に野宿させるなよ。
彼女をきちんとした宿に泊め、美味いものを食わせ、温かい部屋で休ませてやりたいと思わないのか?」
「うーーん……」
クヴェルが眉間に皺を寄せ、顎に手を当てている。私にはクヴェルたんの心が揺れているように思えた。
「……まぁ、気が向いたらワーム退治くらいしてもいいけど」
クヴェルたんがついに折れた。
クヴェルが渋い表情をしているのとは対照的に、ギルド長は嬉しそうに目を細めていた。
「そうこないとな!
王都は良い街だ!
この一件が片付いたら、観光案内するよ!」
「ワーム退治を引き受けたけど、僕はこの街に留まるとは一言も言ってないよ。
今日だけ宿屋に泊まって、明日には船着き場を目指して旅立つかもね。
船着き場に着くまでに出現するワームを退治すれば、
ギルド長との約束を破った事にはならないしね」
クヴェルはどうしてもこの国から早く立ち去りたいらしい。
彼がこの国から去ろうとしている理由は、北に現れたモンスターと関係しているのかしら?
船着き場に戻るということは、トリヴァイン王国に戻るということだ。ようやくあの国から出られたのに……。
「そこはあんたを信じてるよ。
あんたは、困ってる人を見捨ててこの街から去ったりしないってな」
ギルド長がクヴェルの顔を見てにっと笑う。
「どうかな……。
僕が今大切にしているのは一人だけだから。
その一人の為ならその他大勢はあっさり見捨てるかもね」
その一人ってもしかして……私のこと、かな?
そうだったら嬉しいなぁ……なんて。
そう思うのは自惚れかな?
「お前さんが大切にしてるその一人は、
困ってる人を見捨てて逃げるような薄情な人間なのか?
俺の目にはそうは映らないけどな」
ギルド長が私の顔を見る。彼につられたようにクヴェルが私を見た。
私を見つめるクヴェルは、どこか苦しそうな、それでいて切なそうな表情をしていた。
「クヴェルたん……?」
どうしてそんな表情をするの?
「アデリナ、ギルドを出よう。
冒険者登録は済んだし、B級に昇格したし、冒険者カードも貰った。
もうここにいる必要はない」
クヴェルが席を立つ。
「うん、そうだね。
ギルド長さん、お世話になりました。
無理を承知でお願いしましたが、昇格試験を受けさせていただきありがとうございました」
私はクヴェルに続いて席を立ち、ギルド長さんに頭を下げた。
「ギルド長、宿の手配を忘れないでよね。
それと、絶品グルメを提供するお店の位置を記した地図もね」
クヴェルはギルド長に念を押していた。
「職員に宿の手配をさせる。
というかもうさせてある。
馬車と御者もすでに手配済みだ」
いつの間にそんなことを。ギルド長さんは手回しがいいのね。
ギルド長さんは、最初から私達をこの街に留めるつもりだったのかしら?
冒険者カードを発行すると言って私達をギルドに留め、その間に宿の手配をしていたとか?
ギルド長さん、仕事ができる男だわ。
「絶品グルメのお店の位置を記した地図は後ほど宿に届ける」
「できるだけ早く届けてね」
クヴェルはギルド長さんに釘を刺し、私の手を引いて部屋を出た。
693
あなたにおすすめの小説
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。
けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。
「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。
ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。
そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。
学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。
けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。
暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。
※10万文字超えそうなので長編に変更します。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる