17 / 50
17話「井戸の浄化。ルーン文字に迂闊に手を出すのは危険!?」
しおりを挟む井戸水の浄化をするには準備が必要なようで、その為にはテーブルが必要だった。
マルタさんに料理を片付けてもらい、クヴェルは椅子に腰掛けた。
クヴェルは袋から青い魔石を一つ取り出すとテーブルの上に置いた。
魔石を何に使うのかしら?
「魔石に水と魔除けのルーン文字を刻むんだ」
「ルーン文字……?」
聞き慣れない言葉だった。
「ルーン文字というのは古代で使われていた魔法文字のことだよ」
「なるほど」
クヴェルたんはどうして、そんな文字のことを知っているんだろう?
「水のルーンには浄化の効果がある。
魔除けのルーンには言葉の通り魔除けの効果がある。
二つのルーンを刻んだ魔石を井戸に入れれば、
井戸の水は浄化され、今後も汚染されることはない」
クヴェルの説明に、周りから「おおーー!!」という歓声が上がる。
クヴェルは袋からナイフを取り出すと、器用に魔石にルーン文字を刻んでいった。
真剣な表情で文字を彫るクヴェルたんがかっこいい。私は思わず彼の横顔に見惚れてしまった。
「できた!
表に水、裏に魔除けを刻んだよ!」
クヴェルは、五分ほどで魔石にルーン文字を刻み終えていた。
こころなしか、ルーン文字を刻む前より魔石がきらきらと輝いているように見える。
「もしかして、トリヴァイン王国で農夫さん渡したり、宿駅の井戸に入れてたのも……?」
私は小声でクヴェルに問いかけた。
「アデリナの推察のとおり、あれもルーン文字を刻んだ魔石だよ。
農夫のおじさんには魔除けの文字を刻んだ魔石を渡し、
宿駅の井戸には水の文字を刻んだ魔石を入れてきたんだ」
クヴェルはそんなことをしていたのね。
「クヴェルたん、優しい」
「農夫のおじさんにも、宿駅のおばさんにもお世話になったからね。
そのお礼をしただけだよ」
私がクヴェルの頭を撫でると、彼は気恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「農夫のおじさんがモンスターに遭遇しないように魔石に魔除けの文字を刻んだのはわかるけど。
宿駅の井戸に水の文字を刻んだ魔石を入れる必要ってあったのかな?」
あの国の井戸も汚染されていたのかしら?
ううん、そんな筈はない。
宿駅の水はとっても美味しかったし、クヴェルたんも警戒していなかった。
「井戸に水の文字を刻んだ魔石を入れるとね、水が枯れないんだよ」
「ふーん、そんな効果もあるのね」
ルーン文字って便利。
「でも宿駅の井戸に水の文字を刻んだ魔石を入れる必要はなかったと思うよ?
トリヴァイン王国は水が豊富だもん。
建国してから三百年が経過するけど、トリヴァイン王国の井戸が枯れたなんて話は聞いたことがないよ」
歴史や地理や国語の教科書にも、井戸が枯れた話は記載されていなかった。王太子妃教育では習わなかった。
もしかしてクヴェルたんって心配性なのかな?
「今までは……ね。
だけどこれからは……ううん、なんでもない」
クヴェルたんの顔が一瞬曇ったように見えた。だけど次の瞬間には穏やかに笑っていた。
「なぁ少年、そのルーン文字というのを俺にも教えてくれ!
金儲けの道具になりそうだ!」
宿泊客の中の一人、魔法使いの装いをした男性がクヴェルたんに詰め寄った。
「止めといた方がいいよ。
ルーン文字は素質がないと扱えないから」
クヴェルが険しい表情で男に忠告する。
「魔石に変な模様を刻むだけだろ?
俺にだってやれるさ!
こう見えて俺はガキの頃から手先が器用なんだ!」
魔法使いの男性は自身のバックから魔石と小刀を取り出した。
「確かLを逆さまにしたような文字と、横向きの三角みたいな文字だったな……!」
魔法使いの男性が器用に小刀を操り、魔石に文字を刻んでいく。
「できた!
意外と簡単だな…………?
うぎゃーーーー!!」
男性がルーン文字を刻んだ魔石を天にかざしたとき、突如魔石が光り稲妻のような光が男性を襲った。
男性はたまらず魔石を手放した。床に落ちた魔石は砕け散り、灰になっていた。
「痛い……! た、助けてくれ……!」
男性は悲鳴を上げ床に倒れた。
男性の全身を火傷していて、無数の切り傷ができていた。
「だから言ったのに。
素質のない人間が迂闊にルーン文字を刻むからそうなるんだよ」
クヴェルが魔法使いの男性に冷ややかな視線を向ける。
魔法使いの男性の仲間らしき、僧侶姿の男性が魔法使いの男性に向かって回復魔法をかける。
「ヒール!」
しかし魔法使いの男性の傷はほとんど治っていなかった。
「おい……!
は、早くヒールをかけてくれ……!」
「かけてるさ!
全然効かないんだよ!」
魔法使いの男性は悲鳴を上げながらのたうち回っている。
僧侶の男性が何度も「ヒール」を唱えるが、魔法使いの男性の傷は癒えなかった。
「無駄だよ。
ルーンで出来た傷はそう簡単には癒やせない」
魔法使いの男性の顔が絶望に染まった。僧侶の男性の顔もみるみる青ざめていく。
「クヴェルたん、
助けてあげられないの?
可哀想だよ」
「そのうちにね。
彼はちょっと反省した方がいい。
でないとまた、ルーン文字に手を出しかねないからね」
「……なるほど」
クヴェルたんが忠告したのに、聞かなかったのは魔法使いの男性だ。
少し痛い目にあったほうがいい……のかも?
「ひぃぃ……! だ、誰か……助けて……!」
魔法使いの男性の苦しそうな叫びが、食堂内に響く。
「クヴェルたん……おじさんかなり苦しそうだよ」
魔法使いの男性は目からボロボロと涙を流していた。十分に反省してるように見えた。
「わかったよ」
クヴェルたんが立ち上がり、魔法使いの男性の元に向かう。
「魔石に刻んだのが水でよかったね。
もっと攻撃的なルーンだったら、おじさんは死んでたよ」
クヴェルは厳しい表情で魔法使いの男性にそう告げた。
魔法使いの男性は「ひぃっ」と短く悲鳴をあげた。
「僕が助けるのは今回だけだよ。
ハイヒール」
クヴェルたんが魔法使いの男性に治療魔法をかける。
すると魔法使いの男性の全身を覆っていた火傷が治っていき、切り傷もみるみる塞がっていく。
「し、死ぬかと思った……!」
傷が治ったあとも魔法使いの男性の顔は真っ青で、全身をブルブルと震わせていた。
「これに懲りたら不用意に古代の魔法に手を出さないことだね。
誰もが簡単に使用できる物なら現代にも残っている。
ルーン文字が今は使われていないってことは、それだけ扱いが難しいってことだよ」
クヴェルたんが険しい表情で冷たくそう言い放つ。
「はい! はい! 約束します!!」
魔法使いの男性はボロボロと涙を流し、クヴェルたんに向かって何度も頭を下げていた。
「無駄な時間を費やしてしまった。
さてと、それじゃあ井戸に魔石を入れに行こうか」
「うん」
マルタさんの案内で中庭に向かい、井戸にルーン文字を刻んだ魔石を投げ入れた。
井戸の浄化は一瞬で終わり、汲み出した井戸水はクヴェルたんが安全を保証してくれた。
井戸水の浄化が終わり、マルタさんが新たに汲んだ井戸水で料理を作ってくれた。
メニューはじゃがいもとチキンのシチューだった。
水が美味しいからか、具の少ないシチューでも美味しく感じた。
早くこの街の問題を解決して、流通を元通りにして、みんながお腹いっぱい食べられるようにしたいな。
664
あなたにおすすめの小説
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。
けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。
「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。
ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。
そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。
学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。
けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。
暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。
※10万文字超えそうなので長編に変更します。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる