21 / 50
21話「国王の起死回生の一手」王太子視点
しおりを挟む――王太子視点――
「青い髪の少年が何者かなど、今はどうでもいい。
それよりも、アデリナが泊まった宿の井戸水が増えたことを絶対に民に知られるな!
これ以上、王家に批判が集まるのを避けたい!」
「承知いたしました」
騎士は挨拶をすると退室した。
◇◇◇◇◇
騎士が退室したあと、俺は執務用の椅子によりかかり深く息を吐いた。
全く……次から次へと問題が起きる。
初代から数えて父上で十四代目。
歴代の国王の中には水竜を信仰しない者もいた。
八代目の国王は取り分け信仰心が薄かった。彼は水竜に関する資料を燃やし、像の台座に刻まれていた水竜の名前を削ってしまった。
だから今では、水竜の名前すらわからない。台座に頭文字の「Q」だけが残っている。
今残っているのは焼却を免れた資料と、当時の人間が記憶を頼りに復元した資料のみだ。
資料の復元をするなら、水竜の名前くらい書き残せよ。当時の人間が抜けているのか、何らかの事情で水竜の名前だけ残せなかったのか……それはわからない。
資料にはあやふやな部分もある。完全に消失してしまった記録もある。
水竜の資料を焼却するような王の時代でも、この国は豊かだった。
毎年豊作で、川の水量は豊富で、井戸も池も湖もこんこんと水が湧き出ていた。
この国には、国王か王太子が三日に一度水竜の像を磨くしきたりがある。
そのしきたりを破れば、トリヴァイン王国は水竜の加護を失い国は元の荒野に戻ると言い伝えられている。
だが水竜の資料を焼却し、水竜の名前を台座から削り取った国王の時代にも国は豊かだったのだ。
父上も水竜の像を磨く仕事を母上に丸投げしていた。しかし、何の異変も起こらなかった。
俺も父上もしきたりを破って水竜の像を磨かなかった。しかし国にはなんの異変も起こらなかった。
つまり水竜の伝説は単なる伝承に過ぎず、水竜の像にはなんの力もないのだ。
俺はそう確信し水竜の像を破壊した。それなのにまさかこんな結果に繋がるなんて……。
なんで、なんで、なんで……! 俺や父上の代にだけこんな災害に見舞われるんだよ……!
「エドワードはいるか……」
「父上……!」
その時、父が執務室に入ってきた。
父の頬はやつれ、目の下に深いクマがあり、瞳には覇気がなく、髪も髭もボサボサで、酷い有り様だった。
今の父には、文武両道に優れ獅子王と称された頃の面影はなかった。
王都の井戸水が枯れた知らせを聞いてから父は城の書庫にこもり、水竜に関する古文書を読みふけっていた。
数代前の国王の時代にほとんどの資料が消失したので、書庫に籠もって水竜のことを調べても無駄なのに……。
「あれから書庫に籠もって古文書を読み漁ったが、
新たなことはわからなかった」
「そうですか」
「そうだと思ってました。無駄なことをしましたね」とは口が裂けても言えない。
「だが、リスベルン王国になら水竜に関する資料が残っているかもしれん」
「えっ?」
なぜ我が国にもない水竜の資料がリスベルン王国に残っているんだ?
「我が国の七代目の王の時代。
リスベルン王国の十五代目の国王が水竜に興味を持った。
リスベルン王国の十五代目の国王は、当時の王妃に書き写した物で構わないから、水竜の資料を譲ってくれと頼んだそうだ。
王妃はその願いを聞き入れ、水竜に関する資料を書き写しリスベルンの国王に渡したらしい……」
「そんなことが……」
この国の水竜に関する資料って他国に渡していいのか? その当時の王族は危機管理能力が薄かったんだな。
水竜の資料を焼却したのは八代目の国王だ。
七代目の国王の時代に資料の写しをリスベルン王国に渡したのなら、リスベルン王国には我が国には残っていない資料があるかもしれない。
「リスベルン王国の十五代目の王は大層な美形で、我が国の王妃がその美しさの虜になり……。まあ、そんなことはどうでもいい」
色仕掛けか……確かにリスベルン王国の王族は美形が多いことで有名だ。それにしてもご先祖様ちょろすぎないか?
「アデリナが青い髪の少年と共に、リスベルン王国に渡った話も聞いた。
アデリナが立ち寄った場所で、不思議な現象が起きてることもな」
「父上は、そこまでご存知だったのですね」
書物に籠もって遊んでるように見えて、ちゃんと情報収集してたんだな。さすが父上、抜け目がない。
「リスベルン王国の国王に手紙を送る。
手紙にこう記すつもりだ。
水竜に関する文献を我が国に返すこと。
アデリナと青い髪の少年を保護し、我が国に送り返すこと」
「アデリナには利用価値があるので保護するのはわかります。
ですが彼女と一緒にいる青い髪の少年まで保護する必要はありますか?」
家出少年か、旅の行商人の仲間かなんかだろう?
別段気に留める必要もない。
「余が幼い頃、曽祖父が話していた。
『水竜様は気まぐれにトカゲや少年の姿に化けて街の様子を観察することがある。そのような物を見かけたら丁重に扱うように』と……。
年寄りの与太話だと思い今の今まで忘れていた」
「まさか、アデリナの側にいる青い髪の少年が水竜の化身だとでもいうのですか?」
「わからん……。
しかし、青い髪の少年の周りではそうとしか考えられない奇跡のような現象が起きている。
彼を捕らえて……いや保護して、我が国に丁重にお迎えして損はないだろう」
父の話を俺は半信半疑で聞いていた。
農夫の畑の件と、宿駅の井戸水の件に青い髪の少年が関わっているとしたら……。
青い髪の少年が水竜の化身じゃなかったとしても、何らかの不思議な力を持っている可能性が高い。
この際、青い髪の少年が何ものであっても構わない……!
トリヴァイン王国を水量が豊富で、実りが豊かで、モンスターの被害が出ない、かつての平和で豊かな国に戻してくれるのなら……!
◇◇◇◇◇
父上がリスベルン王国への書状を、伝書鳩の足に取り付け空へと放つ。
俺にはその鳩がこの国を救う唯一の希望に見えた。
※クヴェルの髪は水色です。しかし「水色」を「青」と表現することがあるので、ここでは「青い髪の少年」と記しています。
信号機の「緑」を「青」と表現するようなものです。
767
あなたにおすすめの小説
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。
けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。
「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。
ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。
そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。
学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。
けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。
暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。
※10万文字超えそうなので長編に変更します。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる