「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版

まほりろ

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29話「国王との謁見。明かされるクヴェルの秘密」

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馬車に揺られること三十分。

……馬車が辿り着いた先は、街の中心にそびえ立つ堅牢にして壮麗な建物だった。

確かに私にとって馴染み深い場所と言われれば、そう言えなくもない。

祖国では毎日のように、王太子妃教育の為に通った場所だ。

そう私達が謎の紳士に連れてこられたのは、お城だったのだ。

私が王太子妃教育の為に通ったのはトリヴァイン王国のお城で、リスベルン王国のお城に来るのは初めてだけどね。


◇◇◇◇◇


玄関前で馬車を降り、従者の後に続いて歩くこと十分。

辿り着いた先にあったのは重厚な扉だった。

扉の上には「謁見の間」と記されている。

この場所に連れてこられたということは、依頼人は国王か王妃である可能性が高い。

「クヴェルたん、依頼人が王族だって知ってたの?」

私は小声でクヴェルに尋ねた。

「なんとなくね。
 王都の異変にすぐに気づけて、
 ギルド長を動かせるほどの権限を持っていて、
 四十五万ギルもの依頼料をポンと支払える人間はそうそういないからね」

「なるほど」

確かに王族ならその全ての条件を満たしている。

そうこうしている間に従者が取次を終え、謁見の間の扉が開いた。

謁見の間には真紅の絨毯が敷かれて、周囲より一段高くなっている玉座壇には豪華な椅子が二脚並んでいた。

その左側の椅子には銀色の髪の男性が座っていた。

男性の年齢は四十代前半。体格は大柄で、整った顔立ちで、銀色のウェーブのかかった髪を肩まで伸ばしていた。

あの男性はきっと、リスベルンの第二十二代国王ダイタス・リスベルンだろう。

王太子妃教育で隣国の国王の名前と特徴を習った。目の前の男の特徴はその内容と一致している。

国王は威厳があり、なおかつどこか掴みどころのない雰囲気を醸し出していた。

私達が玉座の前まで行くと、国王はおもむろに玉座から立ち上がり、玉座壇を下りた。

まさか国王が玉座壇を降りるとは思わなかった。

国王は私達……いや、正確にはクヴェルの前まで来ると彼に向かって深く頭を下げた。

「本来ならこちらから伺うべきところをお呼び立てして申し訳ございません」

国王に頭を下げられてもクヴェルは眉一つ動かさなかった。だが、彼が国王に向ける目は冷たい。

「リスベルン王国の第二十二代国王、ダイタス・リスベルンと申します。
 宮殿にお越し頂けたことに感謝申し上げます。
 クヴェル様、いえ水竜様とお呼びするべきでしょうか……」

「水竜」と言われたとき、クヴェルの眉がピクリと動いた。

水竜様……?

水竜様ってトリヴァイン王国で祀っていたあの水竜様のこと……?

トリヴァイン王国の初代国王レディア様の願いを叶え、トリヴァイン荒野を緑豊かな土地に変えたというあの水竜様……??

嘘……? クヴェルが水竜様だったの?

でも思い返せば、そうだとしか思えないことがたくさんあった。

クヴェルと初めて会ったときは、彼は人語を話して家事がちょっとできるトカゲだった。

それからしばらくして彼は人間の男の子の姿に変身して、完璧に家事をこなしてくれた。

そして最近になって、彼の本来の姿は私と同い年くらいの美青年なのだと知った。

でもそのどれもが偽りの姿で、彼の本当の姿は水竜だったのね。

「水竜様は時折トカゲや子供の姿で街を散策することがあったと、文献に記されております。
 トカゲは空のように澄んだ勿忘草わすれなぐさ色の体をしていて、
 少年は湖のような水浅葱みずあさぎの髪と瞳をしていたと記されております」

国王の説明はクヴェルたんの特徴と一致していた。

「人違いじゃないの?
 僕はどこにでもいる普通の少年だよ」

顔色一つ変えずに話すクヴェルたんの声は酷く冷淡だった。

「ご冗談を。
 魔石に古代文字を刻み、王都中に結界を張れる者が人間であるはずがございません」

クヴェルたんの眉がピクリと動く。国王を映す彼の目はとても厳しいものだった。

それだけでクヴェルがとても不機嫌なことが伝わってきた。

国王はクヴェルに王都中の井戸の浄化を依頼することで、彼の能力を試していたんだわ。

「トリヴァイン王国では水竜様の名前を忘れてしまったようですが、我が国にはしっかりと伝わっております。
 水竜様の御名は『Quelleクヴェル』。
 『Quelleクヴェル』とは泉、源、起源を表す言葉です」

トリヴァイン王国に設置されていた水竜様の像に刻まれていた名前は削り取られ、頭文字の「Q」しか残っていなかった。

そう……水竜様のお名前はクヴェルといったのね。

どうしよう? この状況ではクヴェルが水竜様じゃないと証明するほうが難しいわ。

「お食事のご用意をいたしております。
 立ち話もなんですから、続きは食堂でいたしませんか?」

「いや、僕たちは帰るよ。
 君からの依頼を受けるつもりはない」

クヴェルたんの声はいつになく乾いていた。

クヴェルたんが依頼を断ったら、北の湿原に住むミドガルズオルムが野放しになるわ。この国の人達はどうなってしまうの?

「クヴェル、陛下のお話だけでも聞くことはできないかな?」

私は彼の耳元で小声で囁いた。

「僕はこういうやり方をする輩が好きじゃないんだ」

クヴェルたんの目は鋭く、厳しい表情をしていた。

国王は人払いをせず、おもむろに玉座壇から降りてクヴェルに頭を下げ、彼の正体を明かした。

自分の正体を隠していたクヴェルにとって、国王の対応は感じ悪く映っただろう。

「クヴェルたんの気持ちもわかるよ。
 でもね……」

グ~~キュルルルル…………!

そのとき豪快に私のお腹が鳴った。そういえば昨夜から何も口にしてない。

だからって人前で鳴ることないじゃない! 羞恥心で顔に熱が集まる。

「お連れ様もお腹を空かせているようです。
 どうか遠慮なさらず召し上がっていってください。
 仔羊のフィレソテー、レモンドリズルケーキ、アップルパイなどお気に召す料理があるかもしれません」

「まぁ、アップルパイがございますの?」

「アップルパイだけではございません。
 苺のタルトに、生クリームをふんだんに使ったケーキ、モンブラン、タルト・タタン、レモンタルト、シュークリーム、エクレア、チーズタルト、マカロンなど、パティシエが腕によりをかけて作りました」

「苺のタルトにタルト・タタン、そしてレモンタルトまで揃えていらっしゃるのですね。とても素敵ですわ」

いけない。交渉の場だというのに……! 相手はこの国の国王なのに……! こんな欲望にまみれた会話をしてしまうなんて……はしたないわ!

でもでも、王宮お抱えのパティシエが作ったお菓子を食べてみたいという欲望が……!

「仕方ない。
 アデリナを飢えさせる訳にはいかない。
 食事だけはしていこう」

クヴェルが口元を僅かに歪め、肩をすくめた。

「クヴェルたん、ごめんね。
 私が食いしん坊だから」

「気にしなくていいよ」

クヴェルたんは私の顔を見て、穏やかな表情を作った。

無理してるよね。さっきまで王様に対してあんなに怒ってたもんね。

「ダイタス国王、僕はB級冒険者のクヴェルとしてこの城に来た。
 君たちに協力するのはあくまで冒険者としてだ。
 そのことを肝に銘じるように」

クヴェルが凛とした表情で国王に伝えた。

「承知いたしました」

国王は深々とクヴェルに頭を下げた。

二人の態度は国王とB級冒険者には見えない。

どう見ても神と人間だ。だけどその事には触れない事にした。

国王もクヴェルをB級冒険者として扱うのは難しいだろうから。



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