「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版

まほりろ

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37話「リスベルンの王太子とその他大勢が湿原に落ちていたので取り敢えず助けたら、惚れられた?」

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竜型のクヴェルは背中に私を乗せたまま、ミドガルズオルムの元に向かって飛行している。

王都を出立してから二時間近く飛行している。

「クヴェルたん! 止めて!」

「どうしたの? アデリナ」

クヴェルたんが大きな翼を何度か羽ばたかせゆっくりと減速し、空中で制止した。

「あそこにカヌーと、カヌーに乗った人が見えるわ!
 もしかしてリスベルン王国の王太子、テオドリック様とその部下じゃないかしら?」

はるか地上に、人が乗ったカヌーが見える。カヌーは一隻ではなく複数台あるようだ。

カヌーの乗組員は殆ど白い服を着ている。その中に一人だけワインレッドの服を着てる人がいた。

多分だけどあれがテオドリック様じゃないかしら?

それにしても……軍を率いて魔物を退治に行くのに、赤や白などの派手な服を纏う人がいるのね。目立つ色の服を着ていたら、攻撃の的になってしまうのではないかしら?

「きっとミドガルズオルムの毒による大気と水の汚損が酷くて、前に進めないんだわ。
 兵士も疲弊してるみたいだし、助けてあげられないかな?」

毒に汚染され、帰ることも出来ずに立ち往生しているようにも見える。

リスベルンの国王からも、王太子と兵士の救助を依頼されている。

できれば彼らを助けてあげたい。

「彼らを助けるのは別に構わない。
 だからといって、彼らの為に王都に戻るのは面倒だね」

クヴェルたんの言い分にも一理ある。

ここまで飛んで来るのに二時間かかった。

彼らを王都まで送り届けて、またここに戻って来るのに最低でも四時間はかかる。

「彼らのことは今は放置して、帰りに拾おう」

「でも、兵士はかなり疲弊してるみたいだよ。
 放っておいて平気かな?」

毒の霧の影響を受けてるみたいだし、このまま放置すると死んじゃうかも?

「仕方ない。
 彼らのいる場所を浄化して、彼らにはその場で待機してもらおう」

クヴェルはアイテムボックスから魔石を取り出すと、彼らの船の周りに撒いた。

クヴェルが呪文を唱えると、彼らの乗ったカヌーの周囲が浄化された。淀んでいた水が澄み切ったのが上空からでも確認できた。

ぐったりとしていた兵士達も元気を取り戻したようだ。

「クヴェルたん、食料と水も置いてって上げよう」

「はぁ……しょうがないな」

クヴェルは少しだけ高度を下げた。

クヴェルはアイテムボックスから保存食を取り出すと、それを彼らの船の上に器用に落とした。

ステルスの魔法を使っているから、彼らに私達の姿は見えない。

兵士達は突如空から降ってきた食料に驚いている様子だった。

「リスベルン王国の王太子殿下と、兵士の方々ですよね?
 リスベルン国王の命を受け、あなた方の救助に来たB級冒険者です!
 この湿原はミドガルズオルムによる毒で汚染されています!
 私の仲間があなた方の周辺だけ浄化しました!
 なのでこの場を離れると大変危険です!
 今からミドガルズオルムを封じて来ますので、それまでは大人しくその場で待機してください!
 戻り次第、救助しますので安心してください!」

私は上空から彼らに向かってそう声をかけた。

「この隊の指揮を任されている者だ!
 貴殿のご助力に感謝いたします!  
 陣頭指揮が下されるまで、この場にて待機する所存だ!」  

隊長さんからそう返事があったので、取り敢えずこれで大丈夫だろう。

「くれぐれも無茶はしないでくださいね!
 私達が戻るまで総員その場で待機していてくださいね!」

「承知した!」

この場は隊長さんに任せるとしよう。

王太子は、国王から「猪突猛進型」というありがたくない評価を下されている。

私達が去った後、王太子が無茶をしないか心配だった。

だが王太子と思われる真っ赤な軍服を纏った人物は、体調が思わしくないのかカヌーに横たわったまま動かない。

あの状態なら無茶をしたくても出来ないだろう。

「リスベルン王国の王太子殿下は大丈夫かしら?
 カヌーの上に横たわっていたけど……」

「ミドガルズオルムの毒に当たっただけだと思うよ。
 結界の中に入ればじきによくなる」

クヴェルたんがそう言うのなら心配はいないだろ。

クヴェルは高度を上げ、ミドガルズオルムの元を目指した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



――リスベルン王太子、テオドリック視点――



北の湿原にミドガルズオルムなる魔物が住み着き、この国に甚大な被害を与えていると知ったのが約二週間前。(2月24日)

私はいても立ってもいられず、父上が北に通じる街道を封鎖する前に兵士を率いて、ミドガルズオルムの討伐に向かった。(3月7日)

お供の兵士数は五十名。カヌーの数は十隻。

当初の目論見では三日ほどでミドガルズオルムの元にたどり着き、奴を打ち取り、一週間後には帰宅できる予定だった。

だが湿原を北上すればするほど、空気は淀み、視界は悪くなっていく。

持参した食料や水まで汚染されていく。

兵士は次々に倒れ、ついには進むことも、戻ることもできなくなった。
 
軍の統率を図るべき、私自身の体調が優れない。息を吸うことも苦しく、水さえ喉を通らない。

もうこのまま死ぬのだ……そう思い天を仰いだ。

その時、天から光の粒が降り注いだ。天使が迎えに来たのかと思った。

気がつけば辺りは浄化され、新鮮な空気を思い切り吸い込むことができた。

兵士達が「助かった!」「これで家に帰れる!」と歓喜の声を上げている。

奇跡はそれだけでは終わらない。天から水と食料が落ちてきた。取り合いにならないように隊長が水と食料を平等に分配し始めた。

その時、天から女性の声が響いた。

謎の女性は透明感のある声で、滑らかに一つ一つの言葉を紡いでいく。

御声は、宮廷の音楽家が奏でるクラッシクのように心地よく温かな響きだった。

女性は我々を気遣い、その場で待機するように促した。

これだけの御業をやってのけるのだ。声の主はきっと女神に違いない。

トクン、トクンと胸が早鐘を打つ。

私は、この声の主に恋をしてしまったようだ。

姿は見えないが、確かにそこに存在を感じる。

優しく、温かな声の持ち主が、天におわす。

女神に返事をしたいが、胸がいっぱいで声を出せない。

私が微動だに出来ずにいると、隊長が私の代わりに女神に返事をした。

隊長の返事を聞くと、女神は安心したようでその場から遠ざかっていった。

女神の姿は見えないが、私は彼女が遠ざかって行くのを気配で察した。

強大な力を持った何かが先ほどまで上空にあった。その存在が離れていく感覚があったのだ。

彼女が離れていく……!

それだけで私の胸は引き裂かれたような痛みが走る!

地に縛られ、空を飛べぬ人間の身であることを疎ましく感じた!

だが、涙を流す必要はない。

女神はミドガルズオルムを封じたあと、再びこの地に舞い戻ると言った。

つまり女神にはまた会えるということだ。

幸福と浄化と守護の女神、再び相交えたその時には……私の思いを伝えよう!

寡聞な望みかもしれないが、女神には私の伴侶となり、末永くこの地に留まってほしい。

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