転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

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本編

アジュールの商業ギルド

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 朝風呂を済ませ、脱衣所の鏡を見てギクリとする。髪の色が結構落ちて根元の地毛が見え始めている。一応、王都を出る前日に髪は染めたばかリだった。
 アジュールの地域の日差しが強いのもあるが、染粉がここの水に合わないのかもしれない。タオルを見れば、色移りが少しだけあった。タオルにクリーンを掛ける。

(これは染め直さないとなぁ)

 染粉はマリッサが荷物に入れてくれている。今晩辺り、部屋で染め直そう。
 髪を乾かし、リビングへと向かうと焼き立てのパンの匂いがした。

「ミリーちゃん、おはよう」

 テーブルに着いていたラジェが振り返らずに言う。

「ラジェ、どうし――え? その顔どうしたの?」
「ちょっと魔法に失敗して……でも、見た目ほど痛くないんだよ」

 こめかみ辺りが内出血したラジェが苦笑いしながら言う。絶対痛いはずだ。

「魔法に失敗したって何があったの?」
「えーと、砂魔法で浮遊して着地を失敗した……かな。でも、その後にちゃんと成功したよ! もうコツも掴んだからそんな顔しなくても、こんな怪我はもうしないよ」

 ラジェがやりたいことを止めることはできないけど……月光さん、微塵も慈悲のない教え方をしてそうで心配だ。
 痛い痛しく腫れたラジェの顔に手を当て治す。

「『ヒール』」
「ミリーちゃん、ありがとう」
「うん。でも、気を付けて。嫌だったらちゃんと嫌って伝えてね」
「全然嫌じゃないよ」

 ラジェが明るく笑うので、それ以上は強化訓練に対して何も言わなかった。

「でも、ラジェの砂魔法の浮遊魔法は気になるな」
「きっとミリーちゃんならすぐにできると思うよ」
「じゃあ、後で怪我しない程度に見せてね!」
「うん!」

 ラジェと共に朝食を取ると、いつもより少し着飾った爺さんが部屋から出てきた。

「今日は商業ギルドに行く。二人とも準備を頼んだぞ。できるだけ早く出たい」
「「はい!」」

 ラジェと元気よく返事をする。
 今日は商業ギルドにウニのパスタと茶わん蒸し、それからバーニャカウダを登録しに行く予定だ。登録するといっても、その作業は全て爺さんとエルさんがする。なので、私とラジェは正直アジュールの商業ギルドの観光に行くだけだ。
 爺さん情報によると、アジュールの商業ギルドは市場から少し離れた海辺にあるという。商業ギルドの屋上から見える景色は絶景らしい。今日は天気も良さそうだし、楽しみだ。
 準備をして馬車に乗り込むと、遅れてキースな月光さんも乗車した。馬車に乗り込む時に少し右足を庇っていたような気がした。

「キースさん、おはようございます」
「おはようございます」
「右足、何か怪我をしたのですか?」
「……なんの話でしょうか?」

 キースな月光さんが微笑みながら言う。この話には触れてほしくないようだ。
 ラジェを見れば、キースな月光さんを心配した顔で見つめていた。たぶん、ラジェが怪我した時に月光さんも怪我をしたのだろう。一体、どんな強化訓練をしているのだろう……
 アジュールの商業ギルドに到着した。馬車から降りる時にキースな月光さんから手を差し伸べたので、触れたついでにヒールを唱えた。
 少しだけ目を瞠ったキースな月光さんが、風魔法を使い私にだけ届く声で言う。

「こんな人に見られそうな場所で白魔法を使うな」
「ごめんなさい」
「感謝はしている。でも、誰が見ているか分からないから気を付けろ」
「はーい」

 大怪我ではない限り、ヒールは魔力を極限に絞り発動することができるようになっているでそうそう露見することはない。でも、月光さんの言う通り気を付けよう。
 目の前の建物を見上げ呟く。

「ここがアジュールの商業ギルド……」

 アジュールの商業ギルドは、王都に比べれば小さい。三階建てだが、どちらかと言えば大きなロッジハウスのようだ。
 商業ギルドの正面には、たくさんの貿易船が停泊していた。
 爺さんとエルさんが待ち合わせしていた漁師と話す間、ラジェと二人で大きな船を見上げた。

「大きいね」
「うん。僕、こんな大きな船を近くで見たのは初めて」

 私も前世を含め初めてだ。当たり前だけど遠方から見るのとは違い巨大だ。船には詳しくないけど、前世の十八世紀ごろの船を彷彿とさせる佇まいだ。
 隣にいた月光なキースさんに尋ねる。

「キースさんは船に乗ったことありますか?」
「乗ったことはありますが、数回程度ですね」
「そうなんですか?」
「私の主が船を怖――信用しておりませんので」

 ほぉ……爺さんは船が苦手なのか。そういえば、本屋でもはしごで上がるのは苦手だった。もしかして、高いところが怖いのかな? もしそうなら、それは思いもよらない爺さんの弱みだ。
 ここに停泊している船は、たくさんの積み荷を降ろしているので貿易船だと思う。でも、側面に砲門が付いている。大砲があるの?
 船を凝視していると、爺さんが急かす。

「船は後からたっぷり見ればいい、ハズレ針も手に入れた。こいつが悪くなる前に行くぞ」

 歩き出した爺さんの後をラジェと追い、アジュールの商業ギルドのエントランスをくくった。
 中に入って一番に目に入ったのは、商業ギルドの象徴といってもいい例の巻貝だ。こちらの巻貝は古びて黒く色あせていた。余計に変なものに見える……
 爺さんが受付に手紙を渡すと、受付嬢が丁寧に接客をする。

「エンリケ・ローズレッタ様、お待ちしておりました。三階のギルド長の執務室まで案内させていただきます」

 爺さんが、アジュールのギルド長に面会の手続きを取っていたことは知らなかった。
 執務室に到着すると、受付嬢が軽く扉をノックする。

「どうぞ」

 中からは穏やかな女性の声がした。
 扉が開くと、声の持ち主が出迎えてくれた。声の主はおっとりした五十代くらいの女性だった。
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