転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫

文字の大きさ
149 / 158
本編

紅蓮の大柳

しおりを挟む
「ミリアナ嬢――」
「あ、メイドさんは一人じゃないかも!」

 無理にばあやさんの話題を逸らす。
 部屋の外を確認するが誰もいない。薬が効いているからと気を緩め、メイド一人に世話を任せたのかもしれない。
 オーレリア王女がため息をつく。

「でも、この部屋を逃れたところで、ここは海の上だわ」

 そうだ。この瞬間も船はアジュールから遠ざかっている。船を止めないと……
 大人しくメイドを解放しようとする二人を止める。

「待ってください。私にこの船を止める考えがあります」
「ミリアナ、船を止めるのにはたくさんの人の協力が必要なのよ」

 子供に言い聞かせるようにオーレリア王女が私を諌める。
 外を見れば、夕日はほぼ沈んでいた。このままいけば、本当にアジュールに帰れなくなる。非常事態なので説明よりも行動をとるしかない。仕方ない……

「お二人は自分自身を守れますか?」
「ミリアナは何を言って――」
「姫様、この者から魔力が溢れ――」

 浮遊すると、二人は目をこれでもかというほど見開いた。ばあやさんにはちょっとバレているけど、説明をする時間はない。
 手を眉間に置き、敬礼する。

「では、行ってきます!」
「え?」

 困惑したままのオーレリア王女たちを部屋に残し、窓から飛び出す。
 船に添って上昇しながらラジェの心配をする。ラジェはどこにいるんだろう? 私よりもチョコレートをたくさん飲んだから、きっとまだ眠らされていると思う。せめて起こすことができれば……

「隅々まで探せないなら、船全体にヒールを掛ければいいじゃない!」

 逆転の発想だ! 白魔法は確かに魔力が必要だけど、ヒールなら何千回と練習してきている。
 船に手を当て、船全体を包むように唱える。

「デカヒール!」

 うん。魔力はそれなりに持っていかれたけど、まだ大丈夫だ。目覚めさえすれば、ラジェは自力で脱出できるはずだ。なんせラジェの師匠は月光さんだ。絶対に私にシェアできない魔法も練習しているはずだ。ラジェならきっと大丈夫だ。
 ぴょこんと頭を出して甲板を確認する。よし、誰もいない。黒魔法の隠れ蓑術のヴェールを被り、一気に帆柱の一番高いところまで風魔法で舞い上がる。
 よかった……アジュール周辺の船舶の光はだいぶ小さくなっているけどまだ見える。それにしてもこの船、全然灯りを点けていない。きっと闇夜に紛れるつもりなのだろう。
 これ以上アジュールから離れるわけにはいけない。この船を止める!
 何かイレギュラーのことがあれば、この船の船長は絶対に船を停止して船体の確認作業をするはずだ。その間、船は留まる。その間にどうにかアジュールに向けて信号を送らないと。私たちはここにいるって。
きっと爺さんも月光さん……ウィルさんやレオさんもみんな私たちを探している。

「あの魔法を使うか……」

 風魔法とか土魔法とか考えたけど、安全に船を止められる気がしなかった。船が沈んでしまったら大惨事だ。
 魔力はまだ十分ある。少しお腹は空いたけど……

「あ、そうだ。チョコがある」

 持参していた最後の一かけらの自作チョコを口に入れる。ああ、満たされる……
 両手でパシッと頬を叩き気合いを入れる。

「よし! 行きます!」

 帆柱の上で目を閉じ唱える。

「浮かべ、重力魔法」

 身体から魔力が一気に船に移動する。

「お、おお」

 こんなに魔力が一度に移動するの、少し気持ち悪い。体感、残っていた半分以上の魔力が減る。船全体に私の魔力が行き渡ると、船が少し浮遊する。調整が難しいけど、一度浮遊すればこちらのもの、徐々に浮遊させると自分も浮いていたのに気づく。

「あ、やりすぎたかもしれない」

 船のあちこちから叫び声がする。さすがに船が浮けばそれはそうだよね。
下のデッキには、浮遊でバランスを失いながら慌ててライトを唱える船員たちが見えた。どうやら、自分だけでなく船全体の人や物を浮遊させてしまったようだ。

「これ以上はさっき食べたチョコをリバースしそう……」

 重力魔法を解除すると、船が重い音を立てて水面に落下した。すぐに船の至るところから混乱した悲鳴が沸き上がった。

「熱ッ」

 急に太ももが熱くなったので、慌ててポケットに手を入れると猫の財布に入っていた炎の魔石が燃えるように輝きを放ちながら鼓動を打っていた。

「どうしたの、これ。え? どうしよう」 

 もしかして重力魔法のせいでおかしくなったのかな?
 鼓動の間隔が徐々に短くなると、魔石が膨張と縮小を始めた。こ、これは絶対危ない!
どこに捨てる? 海? でも、船に何か影響があったら……パッと暗くなった空を見上げる。これが上空で燃えてくれれば、信号の役目を果たし、アジュールにいる誰かが気付いてくれるかもしれない。うん。上に投げよう。

「えい!」

 風魔法を使い、空高くに炎の魔石を投げる。ぐんぐんと上昇していく魔石を見上げている。すると、轟音と共に一瞬で夜の闇を払い、紅蓮の炎が大輪の花を空に咲かせた。

「うわ! 揺れる!」

 爆風の余波で揺れ始めた船の帆柱にしがみ付く。揺れる揺れる。
少しして落ち着く揺れの中、炎の大柳が夜空に枝垂れるのを呆然と見つめながら呟く。

「か、完全にやりすぎたかもしれない……」

 これじゃ信号というより、開戦宣告だ。









**いつもご愛読ありがとうございます

クリスマスイブですね。
クリスマスに向けてお祝い花火を上げてみました

年末に向けもう数話投稿予定ですので、今年ももう少しお付き合いいただけると嬉しいです


トロ猫
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。