勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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第6話 なんか、凄いですね。『アレ』は。

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「こ、これは!!」

 そんな俺の気持ちと裏腹にテンション高めのベイカーが、先の方でうわずった声をあげて、小躍りしていた。今度は何だよ?

「ご覧ください! 先代勇者様が魔獣を討伐した際に駆った機獣です!」

 キジュウ? 機銃?騎銃? 何?武器の事か?

 しばしの余韻に浸ることすらも許されず、俺はベイカーの案内に促されるままに【機獣】と言われたソレを見る。で、すかさず突っ込んだ! いや、これが突っ込まずにいれますか!

「戦車じゃん!!」

 目の前にはまごう事なき戦車。俺知ってる、コレ九七式戦車改だわな。先代さんの最後の赴任地にも配備されてたっけ? じゃあ先代さんは戦車将校だったのか。……んん? 一輌じゃない?

 薄明かりの中、九七式の並びに数輌の大きなシルエットが浮かぶ。一体何輌あるんだよ。

「むふー!! 魔獣の群れを蹂躙した伝説の機獣が目の前に……ん? どうかなされましたか?」

 伝説のマシーンに興奮気味の近衛騎士。お前の熱視線の理由がわかったぞ! こいつ勇者オタクだ! ……じゃないならまあいいけどさ。

「いやいや……しかし……これは……ないわー」

 何やらかしてくれてんだよ先代さん! 世界崩壊の原因てコレのことじゃないよな? チートで異世界の武器使うのはあるけどさあ、勇者がいきなり戦車戦とか、こんなの使ったらラノベなら3ページで終わるわ!魔王瞬殺! 魔王軍蹂躙だよ!

 ……うん、とりあえずはスルーしよう。その非常識さと物量の凄まじさに圧倒され、若干息苦しささえ感じる。

「まあなんだ……そろそろ外の空気でも吸おうか……」

「ええ~っ!!」とスゲー残念そうに声を上げろベイカー。不満そうにこっちを見るも九七式戦車を撫で倒す手は止まらない。あれ?

 ちょっとまて、エイブルが居ないぞ。どこに……いた!

 いつの間にか書庫エリアに戻っていたエイブルが、書棚の前に座り込んで何やらブツブツ言いながら子供向けのアニメ絵本を読みふけっている。

「こ、これは……異世界ではこのようは緻密で美しいアーティファクトを使って変身まで出来るのですか!? 唱える呪文は……」

 エイブルは完全に自分の世界に浸り込み、覗き込む俺に気づきもしない。読んでいるのは、あ~はいはい、一昔前の魔法少女のアニメ絵本か、なんかキラキラ~なワンド使って変身するやつな。どこの世界でも女の子はこういうのに憧れるものかねぇ。

「あとはこの大霊廟内にあるであろうアーティファクト……マジカルワンドを手に入れれば私も変身が……」

 おい待て! 出来ねーよ!! つか、そんなものあるか! 
 つーか、君たち、さっきから俺と王様放置で大興奮とか大丈夫か?

 大霊廟から出るとあからさまにガックリと肩を落とす二人。この配属はある意味で適材適所なのではないか? 

 いや、知ってて押し付けたんじゃないでしょうね王様? ……おい王様、俺の目を見ろ! 逸らすんじゃないよ!

 大霊廟を後にし王宮へと戻ると、俺はそのまま王様についてくるよう促され、謁見の間ではなく落ち着いた雰囲気の部屋へ案内された。おそらくプライベートルームなのだろう、王様は大ぶりのソファーに深く腰を下ろし、俺は促されるままに向かいのソファーに腰かけた。

「どうであった?」

 どうって、どっちの感想ですかね? 大霊廟ですか? それともあの残念メイド&オタク騎士ですか? と心の中で思いつつも無難に返す。

「なんか、凄いですね。『アレ』は」

 どちらとも取れる答えを返す俺。いやホント世に出しちゃいかんよ、両方とも。

「うむ。先代勇者の遺言でな。しかるべき時が来るまで表に出すなと言われてきたのだ」

 これまたどちらとも取れる答えだな。年齢的に考えて二人の事ではないだろうから、まあ大霊廟の収蔵品の事だろうけど。

「ん? でも料理は普通に国内に拡がってますよね?」

「先代勇者が、口伝や書き写しで我らに伝えたものは規制の限りではない。大霊廟には異界より直接取り寄せたものを全て納めてある。先代勇者が亡くなられて以来、大霊廟の中の物は王族といえど迂闊に触れる事はない」

 この世界のパワーバランスを壊しかねない物が大量に収められているのだ。正に世界が崩壊する危機に晒されている現状で、世界すら手に入れる事が可能なアーティファクトの悪魔的誘惑に魅入られない王様は為政者としてはかなりの賢人なのだろう。

「でな、先代勇者の【しかるべき時】というのは正に今だと思うのだ」
「は?」

 王様からの唐突なフリ。俺に期待されていたのは感想だけではないようだ。

「先代勇者の遺産を勇者義雄に託したい。それをもってして我が国を導いてほしい。また、義雄殿の今後の活動の一助として頂きたい」
「いやいや! 俺は員数合わせで呼ばれた間に合わせ勇者ですよ! あんな物託されたって手に余りますよ!」
「何を驚く? 過程はどうあれ、貴殿は我が国にとっては勇者以外の何者でも無い。現に我が国の危機ーー他国の外圧を貴殿を呼ぶことで突っぱねることができたのだ」

 まあ、当初の目的はその為に呼ばれたけどね。お役に立てたというなら、なによりですよ。でもねー。

「アレは……大霊廟の収蔵品ーーアーティファクトは俺が見る限り、かなり危険な物もあるようですが、自分たちで利用しようとはしなかったのですか?」

 俺の言葉に思うところがあるのだろうか、王様の顔つきが険しくなった。しばらくの間黙り込んでいた王様だったが、やがて意を決したのか、重い口を開いた。

「……正直に言って【グリモワール】に手を出したことはある」
「グリモワール?」

 本来の意味ならヤバイ魔法とか載ってるやつだ。遺産で言えばなにか大量破壊兵器のマニュアルとか、設計図か? いや待て……まさかなあ。フッと残念メイドの姿が重なる。

「国内の賢人、学者を総動員して解読をさせた……結果、何者にも説き明かせなんだ。国外に問うわけにもいかんし、結果、計画はとん挫したのだ」

 恥を忍んでか、それとも悔しさのあまりか王様の顔が苦渋に歪む。

 所詮は権力者か……いや、まさかこの大霊廟のアーティファクトやグリモワールが世界の崩壊のカギを握るのだとしたら、俺が然るべき手を打たなければならないのか、などと真面目に考えていたらーー

「そ、そんなに怖い顔をするな! お前の世界の料理にはそれだけの魅力があるのだ! 仕方が無かろう!!」
「へっ? 料理?」

 あんたの言うグリモワールって料理書かよ! お前呼ばわりとか素が出てるし。変わらねえ! 残念メイド&オタク騎士と同じ匂いがプンプンするぞ!

「ゴホン! 改めて言う。勇者義雄殿に先代勇者の遺産の全てを託す! その代わりに新たな料理レシピの提供を命じる!」

 あーあ命じちゃったよこの人……愚かとか偉いとかいうまえにザンネンなヒト確定だ。半目でニヤニヤしていたら、王様ったらムキになっちゃって……声、うわずってますよ。

「せ、先代勇者が亡くなって三十余年。代わり映えのしない料理に絶望し、潰えた勇者レシピを求め、大霊廟に密かに立ち入ってはグリモワールの、今にも香りが沸き立つのではないかと見紛う様な【写真】を前にどれだけ身悶えしたことか! 頼む! 天ぷら、スキヤキを超える料理を我が食卓へ!! い、いやこくみんのもとに!」

 とってつけた様に国民のためとか言っちゃって……まあ悪い人じゃあないのはよく分かった。そういう事なら仕方がないか。とりあえず勇者としてすることもないしな。

「あー、えっと、かしこまりました~」
「おおっ!! やってくれるか!! さすがは勇者殿!!」

 王様ったらスゲー笑顔だし、だけどそれは……勇者の仕事ではないと思うけどね。あと、あんたまでグリモワール言うな。なんか痛々しいわ。

「えーっと、大霊廟の他のブツはどうします? あそこにあるものは俺が見たところ、かなり危険なモノがありますよ」
「あー、それも任せる。幸い魔王の影響もこんな僻地までは届かないから差し迫った危機は無い。たちまち必要がない上、異世界からの物品は全て魔道具——アーティファクト扱いだ。こんな物騒な物を国が所有していると知れたら、他国への説明とかやりとりの方が面倒くさいのだ。この際、バレても勇者の持ち物だと言いはれば、ケチをつける者もおらんだろう?」

 手をひらひらと振って、よきに計らえ的な雰囲気があからさまなのはどうなんですかね? 厄介払いつーか、丸投げかよ! 

 まあいいか、神の爺さんとの約束もあるし、この先の探索で役に立つものとか探して見るか。この国に腰を落ち着けて世界を見極めるためにもあのアイテムはアリだしな。

 こうして俺は大霊廟ごと先代さんの遺したアーティファクトを引き継ぐことになり、ついでに王様の依頼を引き受けることになった。
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