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第31話 がしかしばってん。
しおりを挟むアーモボックスにちょこんと腰かけ、せっせとマガジンに弾を込めているノボリト。今は俺の指示でkar98kのマガジンへの装弾をやらせているのだが、マガジンへの装弾は手作業でやると意外と力のいる作業なのを、それほど苦もなくポチポチと詰め込んでるあたりは、やはりドワーフなのだな。
そんな姿を遠巻きに眺める俺の側でエイブルが呟く。
「ドワーフは男女問わず、古来より鍛治を生業とします。そのため鍛治師としての評価は種族内では絶対的なものです。彼らにとっては魔法が使えない事など瑣末な事なのです。……ところがノボリトは、魔法だけでなく、鍛治師としての才が全く無いのです」
「それは……やっぱり目のせいなのか?」
「はい。焔の加減を見極め、槌を的確に打ち込む為には目は重要な役目を果たします。幼い時に病で著しく視力を失った為、槌を持つ事を許されなかった彼女はドワーフとしての自身の存在意義を失ったのです」
「追放された?」
「いえ、ドワーフの社会があの子を排斥する事はありません。ただ、庇護されるだけの生き方を良しとしない彼女はドワーフとしてではなくノボリトとして自分に出来る事を探して、ここに来ました」
何も出来ないと言うのは、何もしない奴の言い分だ。望むならここで出来る事を探せばいいさね。俺はそんな連中を応援するのは好きだ。
「おーい! ノボリト! 俺も手伝うぞー!!」
「は? ひゃい!?」
☆
ノボリトの隣に陣取ると二人で並んでポチポチと弾をつめる。じっくりと話をするには良い機会だ。
「ノボリトはドワーフなんだって?」
「はい。ドワーフとしてはダメダメなんです。でもやりたい事があるんです」
「やりたい事?」
「はい。鍛治は出来ないですが、ドワーフにはそれ以外にも得意な事があるのです」
「へえ」
ノボリトは手にしたマガジンに弾をつめ終わると、ゴソゴソとポケットから何かを取り出した。
「これです」
「これは?」
手のひらの上には小さなメダルが乗っていた。大きさで言えば押しピンの頭くらい、表面には何やら紋様が刻み込まれている。
「義雄様……あの、手を出してもらえますか?」
「ああ、いいよ」
差し出した手のひらに先ほどのメダルを乗せる。
「魔力を流してみて下さい。ほんの少しでいいです」
「お、おう。こんな感じかな……なっ!!」
言われるままに魔力を流して見ると、表面の紋様が緑の蛍光色に輝くや、その上に小さな炎が浮かび上がる。
「こ、これ、魔法陣なのか?」
「えへへ、世界一ちっちゃな魔法陣です」
「……」
魔法陣
俺が召喚された時、足元で光っていたヤツだ。魔力を流し込む事で魔法を発動させるアーティファクトの一種だが。
詠唱の困難な大規模魔法や高位の武器や防具によく使われるが、その特性は刻み込まれた紋様によって高度な魔法が発動されるがゆえに製作、運用が非常に難しい。
紋様が精緻であれば、高度な魔法が発動するが小さな歪みも許されない。そのため詰め込む紋様が複雑になれば魔法陣は必然大きくなる。大きくなれば必要な魔力も比例して増えていくわけで、過去、大量の魔力を必要とする勇者召喚の魔法陣の発動に多くの罪もない娘たちが犠牲にされた。
また、武器や装備に組み込むのは刻み込むスペースが制限されてしまい、古代に作られた神話、伝説級のアーティファクトなどは再現は不可能とされている。
これだけ小さな魔法陣で魔法を発動させることができるならこれより大きな魔法陣ならどれだけの紋様ーー高位魔法を発動させるに必要な情報が詰め込めるんだろう。このサイズの魔法陣が組み込まれただけでもかなりユニークなアーティファクトが出来るはずだ。
魔力消費の少ない小型魔法陣はこの世界のあらゆるシーンを塗り替える可能性を秘めている。
「これで、どのくらいの魔力がいるんだ?」
「えーっと、こっちのが光魔法を発動させるんですけど……」
そう言って取り出したのは百円硬貨位の大きさのヤツだ。魔力を流し込むと光の玉が浮かび上がり辺りを明るく照らし出す。
「前に試してみたんです。でも、一日中点けてみたけど全然魔力が減らないのです」
「すごいじゃないか!」
魔力消費がほとんど無くて、継続して発動する魔法だと? 通常の魔法詠唱をはるかに超えるパフォーマンスじゃんか!
「でも、ほかの人にはずっと肌身離さず持っているのは不便だとか、燭台で十分だとか、さんざんでした。それに……そんなの魔法を使えば済む事だって」
「え? そんな理由でかよ! あ、アホか!?」
考え方がズレてるだろ! この世界の住人は魔法に頼りすぎて思考が止まっているのか? 停滞は衰退の序章だぞ!
「ノボリト、俺のいた世界には魔法がないんだ」
「えっ?」
「だからみんなすごい考えた。多くの人が魔法が使えなくても便利で過ごしやすい世の中にしようと努力したんだ。今、ノボリトがやろうとしている事はそれなんだと思うぞ。これが当たり前に世界に広まれば魔法に頼る必要はなくなるぞ。エイブルたちも魔法が使えないからって差別されない世の中が来るかもしれない」
「そんな事が出来るのですか!?」
「出来る! そうだ、これ、もっとすごい魔法陣組めないか? この精度で魔法陣が大きくなればもっと色々出来るだろ?」
「それは……」
ノボリトの表情が一転した。
「無理です……大きく描くと目を離すので紋様がボヤけて綺麗にかけないのです。近すぎると周りのバランスが取れないのです
「目……か」
「はい……」
寂しげに微笑むノボリト。
がしかしばってん(だがしかしの最上級、昔福岡県民のツレから聞いた)! 何人にも代え難い才能がここに至って潰えるような事があって良いわけがない。考えろ、何か手があるはずだ。
「あ」
ある。大霊廟になら。
「なあノボリト、ちょっとだけ待っててくれるか?」
俺は大霊廟の中を駆け回り、お目当てのアーティファクトを見つけ出すや、そいつを抱えてノボリトの元へ駈けもどった。
「先ずはこれだ。かけてみろ」
「何ですか?」
俺はレンズの入ってない無骨な丸い金属フレームのメガネをノボリトにかけると、一緒に持ってきたケースを開いた。
中には厚さの異なるレンズが整然と並んでいる。その中から比較的、度のきついレンズをえらび、メガネに装着してみる。これこそメガネ経験者なら誰でも知っている眼科や眼鏡屋御用達、検眼レンズセットだ。
ちなみにこの世界に転生するまでは俺もメガネをかけていたが勇者補正?で目が良くなっていた。
俺のメガネは転生し損ねたようだ。いや、長い付き合いだったからさ、体の一部と思ってたよ。
「……どうだ?」
「み、見えます!! え、義雄様、何を? ええっ!?」
驚いた表情で辺りを見回し、手のひらを近づけたり離したりして自分に起こった事を確かめるノボリト。
「どうだ? 見えるか? それはメガネと言って……な、ど、どうしたノボリト?」
突然、ポロポロと涙をこぼし出すノボリト。もしかして度が合ってないか?
「度数が合ってないか? 目、痛いか? 大丈夫、調整すれば、な!?」
説明を遮り、勢いよく俺に抱きつき俺を見上げるノボリト。見上げる両目から涙が溢れ、あまつさえ鼻からも鼻水が溢れ出し、ぐしゃぐしゃになっている。
「よじおざぶぁああぁぁっっ!! あ、ひぐっう、ぶぁ」
ごめん、何言ってるか全然わからん。
「うああぁあああああぁぁああぁああぁぁあぁぁん!!」
火がついたように泣きだしたノボリト。その尋常じゃない泣き声に大霊廟内にいた皆が何事かと集まってくる。
「どうしたのですかノボリト? それは? 何があったのです?」
「え、えいぶりゅざまが、エイブルざまがが見えまずぅ!」
「え!?」
「青い綺麗な目も、モフモフなお耳も、銀色の髪も、みんな……みんな見えまずぅ~」
!!!
ここに至って皆がノボリトに何が起こったのかを理解する。
「の、ノボリト! 私が見える!?」
「ナカノさまです! お耳がとがってます! ふにゃあ ほっへひっはらないでくらはい!」
「もう! 貴方の感想はそれだけなの!」
普段はあまり感情を表さないナカノが泣き笑いながらノボリトの頬を引っ張る。
「私たちは!?」×双子
「見えます! ヴィラールちゃんにペロサちゃんです!」
そう言ってそれぞれを指差すノボリト。
「え、どっちかわかるの!?」×双子
「あ、はい、声で……」
「目、関係ないし……」×双子
がっくりと地面にくずれる双子。まあ、普段から区別ついてたら変わりないよな。
「ワオぉーん! 」
「サイガちゃん! サイガちゃん! サイガちゃん!」
サイガに飛びつかれて地面をコロコロ転がるノボリト。君達、もはや会話にすらなってないぞ。
その後も次々とメイド達の祝福を受けるノボリトだった。
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