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101話 この様な解釈は想定外です
しおりを挟む俺の前には戸惑いの表情を隠し切れないバルクマン戦闘団の面々が下穿きーーパンツ一丁で整列している。待てそこ、全部脱ぐな!
「よ、義雄様がなんだかんだでエイブル様に手を出さないのって……」
「ハア……ハア……このシチュには考えが至りませんでした。総受け……総攻め……数の暴力、この様な解釈は想定外です!」
「疑惑が」
「確信へ」
「え? 脱ぐの~?」
背後からの不穏な発言に、俺は我に帰った。
しまったああああっ! 頭に血が上って、後ろに控えるメイド隊に気が回らなかった! 一体俺の後ろで何が起こっているんだ?
恐る恐る振り返るとーー
エイブルさんが変な笑顔で固まっていた。
グリセンティが虫を見るように冷めた目で見つめていた。
ナカノがクネクネと身悶えていた。
双子がハイタッチしながらクルクルと踊っていた。
サイガが服を脱ごうとして、ノボリトが止めていた。
背後に控えるメイド達も、メモを取ったり、鼻血を吹いたり、あーもーいいやー。
ひよこがルイスの手伝いでいなくて良かったよ。とても見せられたものじゃない。娘のじょーそーきょういくに悪いからな。
「お前ら……正座」
「ご褒美……ですか?」
「黙れ小娘!!」
「あの、義雄様、我々は……どうしましょう?」
俺とメイド達のいつもの掛け合いを目の当たりにして、場の空気に居たたまれなくなったバルクマンが乞うように指示を求めてきた。彼らにとってみれば、いきなりこんなもの見せられてとんだとばっちりである。
「全員駆け足! いいって言うまでグランドを走ってろ!」
「はっ! 全員駆け足! 」
取り敢えずこの場から解放され、一斉に駆け出すパン1野郎共。
さて、あとはこのザンネンメイド達に、説教も含めて説明をせねば。覚悟しろよ~。
それから小一時間ほどかけて十分に納得させると、俺は皆に矢継ぎ早に指示を出す。
「まずはバルクマン達に訓練用の作業着を揃えてくれ。デザインは俺の普段着を参考に、カーゴパンツ、Tシャツ、フィールドジャケット、靴下、軍手、編み上げブーツ。手に入る物は購入で、カーゴパンツとフィールドジャケットは大まかなサイズを測って仕立ててくれ」
「生地は大霊廟の物ーーアーティファクトを使いますか?」
アーティファクト化した生地を使えばエイブル達のメイド服並みの防御力や付与魔法が可能だが、数が多い上に製作に手間がかかる。とてもじゃないがやってられない。
「いや、市販の頑丈な生地を使えば良いよ。それなら王都中の仕立て屋にも外注できるだろ?」
「分かりました」
エイブルが返事をするや背後のメイド隊員が動く。
「ノボリトはアケノ爺さんsを呼んでくれ。私物以外の鎧なんかの官給品の装備はこっちで預かって使い道を考えよう。あと、バルクマン達の新しい装備について案をつめたいんだ」
「MP40改ではダメですか?」
「ありゃメイド隊の子みたいに魔力量が多くないと使いこなせないだろ? 一般人の魔力量で普通に連射なんかしてたらすぐに魔力切れでぶっ倒れるぞ」
フルオートで属性魔法が撃ちだせるMP40改は規格外の魔力を持つメイド隊だからこそ使える。バルクマン達に渡す物は彼等の特性や技能も考慮に入れて考えたい。
「言われてみれば……お爺ちゃんたち呼んできます」
さて、忙しくなるぞ。期限は一週間、まさに速成訓練の始まりだ! 申し訳ないが皆には納期前のSE並みの地獄を見てもらおう。
べ、別にさっきの事を根に持ってる訳じゃないから!
☆
「ば、バルクマン、これは何気にっ……キツイな!」
「あ、ああ、思った以上にな。しかも、俺はお前らと違って、生えたばかりの脚だからな、いい加減膝がガクガクだ」
腕は鈍っていないつもりだったが、スタミナが……こうも落ちているとは自分でも思わなかった。
忘れ去られてしまったのか、いまだに義雄様から終了の指示は無い。すでに練兵場を50周はしたんじゃないだろうか。全力疾走ではなく駆け足というあたりも一定のペースを維持しなければならないあたり、なんともいやらしい。すでに体は汗まみれで、鎧を脱ぎ捨てパン1になっているからこそ皆もっている。フル装備でやっていたら今頃死屍累々の光景が練兵場に繰り広げられていただろう。
これでも一般の兵士達に戦いで遅れをとるような事はないだろうと多少なりとも自負していた。
だが、兵士に求められるのは強さだけでは無い。いかに戦い続ける事が出来るかだ。体力がなければ戦場に着くまでに脱落し戦う事すら出来ない、さらに言えば、足の止まった兵士に敵からの追撃を防ぐ手は無い。
それは兵士としては十分に落第条件だ。今、自分達はその現実を嫌という程思い知らされている。
いきなり鎧と剣を置けと言われて、以来走り続けている。これに理由を求めるなら各個の基本的な能力の把握と、問題点の洗い出しだ。これらは今後の訓練に大きく関わってくるだろう。
「私物以外の装備は全部運び出されたようです。どうするつもりなんでしょう?」
「まさか洗濯に出すわけじゃないだろう。意味がわからん」
バルクマンの脳裏には一つ思い当たる事がある。それが核心をついているとしたら、鎧や剣は不要ということになる。剣や槍による近接戦闘。そういう戦い方を義雄様は求めていない。おそらく違う次元の戦い方を俺たちに求めているのだろう。それらの根拠に足る存在。
「あの、メイドのお嬢ちゃん達の噂は……」
「ああ、間違いない」
噂は耳に入っている。ひよこ親衛隊はファドリシア軍最強だが、どうも本当の最強は別にいるーー義雄様の背後に控えているメイド達。廃妃とはいえ王族であるエイブル様を筆頭に編成されたエイブルメイド隊ーー世界最強のメイド達という冗談のような風伝が、事の真意を巧みに隠している気がしてならない。
そんな彼女達は鎧も剣もその身に帯びていない。
培われてきた戦士の勘がそれを肯定する。俺達は変わる。この世界の大きな変革の潮流の中の一つとして。
「……俺、廃兵院にいる時、何度かメイドの子の尻を触ろうとしたんですよ……」
年の若い兵士が、いきなりの爆弾発言をぶっ込んで来た。若さ故の愚かな行いに、当然のように周りから非難の声が上がる。
「な! バカかお前!」
「よく生きてたなあ……」
だが、その懺悔には続きがあった。
「いや、もう、そういうんじゃなくて、一度も触れなかったんですよ。そこに確かにいるのに触れる事ができない……あからさまによけられているわけじゃないんです。間合いが掴めない? でもいつもニコニコしてて……」
「なんだよ、それ……」
「怪談話じゃねーか、それじゃあまるでーー」
俺は仲間の言葉を遮る。彼女達の出自や強いて来た仕打ちはエイブル様のお立場を知る者には恥ずべき記憶だ。俺達は世界に抗えず、彼女達に、自分達の敬愛すべき姫にすら救いの手を差し伸べる事が出来なかった。
勇者である義雄様によって祝福されたという彼女達に、向けていい言葉には過ちがあってはいけない。
「迂闊な事は言うなよ。そう、俺たちにとって彼女達はまさに女神様だ。義雄様も言ったろ? 奇跡を起こすって、そんな事が出来るのは神様くらいだろ?」
「そうですね……」
「女神様達、正座してますね……」
「……」
目をやるとグランド脇ではメイド達が義雄様によって結構長い間お説教されている。だが、そこには深い絆を感じずにはいられない。
「一番底が見えないのはあの人かもな」
そうしているうちにメイド隊の面々は義雄様の指示だろう、多くが練兵場を離れ、後には義雄様とエイブル様と数名のメイドが残るのみとなった。目が合うと、義雄様が気まずそうに頭をかきながら声をあげた。
「あ~! すま~ん、お前らのこと忘れてた~! 休憩~休憩~!」
唖然とし、その場にヘタリ込むバルクマン達、彼らが当たり前のように義雄のボケにツッコミをいれるのは、今少し時間が必要だった。
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