天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら

文字の大きさ
9 / 15

第9話 いざパーティ!と、相変わらずなあの子

しおりを挟む
パーティー会場は、それはそれは豪華だった。シャンデリアの光が眩しく、着飾った貴族たちが談笑している。

「ああ! ミーニェ様!」

アンテローチェが駆け寄ってきた。隣には、優しそうな青年が寄り添っている。

「本当にありがとうございました! アレクシス様と正式に婚約できました!」
「よかったわ! 本当に!」
「ミーニェ様のおかげです……!」

アレクシスと名乗った青年も深々と頭を下げた。

「あなたは私たちの恩人です。どうか、今日は楽しんでいってください」

二人が去った後、私たちは会場を歩き回った。すると、あちこちから視線を感じる。

「なんだか、見られてる……?」

シュレツが横で真顔で言う。

「言っただろう、注目の的になると」
「ええー……」

ひそひそと囁き合う声が聞こえてきた。

「あれが天才薬師?」
「番を変える薬を作ったという……あらゆる傷も治すとか……」
「まさか、あんなに美しい方だったとは」

おお……何やら色々と噂になっているらしい。

「ミーニェ様、でしたね」

声をかけられて振り返ると、恰幅の良い中年の紳士が立っていた。

「私、足腰の痛みに悩んでおりまして……もしよろしければ、ご相談に乗っていただけませんか?」
「ええと……」

断る間もなく、次々と貴族たちが寄ってくる。

「私は不眠症で……」
「妻が頭痛持ちで……」
「最近、魔力の巡りが悪くて……」

気がつけば、即席の診察会場になっていた。

「筋力の問題には、この青い花の根を煎じたものを……とりあえず小瓶をお渡しするので試してみてください」
「不眠症なら、この月光草の精油で作った薬を枕に……」
「魔力の巡りは、アンチュエ魔草薬を使った後、朝に軽い運動を……」

シュレツが苦笑しながら見守る中、私は次々とアドバイスをしていった。やっぱり、こういう方が性に合っている。

「まあ! さすがね、ミーニェ!」

人々の向こうで、聞きなれた声が響く。王妃様が声をあげて笑っていた。

「王妃様!?」

いつの間にいらっしゃっていたのだろう。華やかなパーティはお好きそうではあるけれど。

「パーティーでも大活躍ね」
「あ、いえ、これは成り行きでして……」

王妃様はころころと声を上げて笑った。

「あなたって本当に面白いわ! ドレスを着ても薬師は薬師ね!」
「わー……すみません……」
「謝ることないわよ。ねえ、みなさん!」

王妃様が声を張り上げた。

「この子は、私のお気に入り! 我が国自慢の天才薬師! 愛をかなえ、傷を癒す、私たちの誇りよ!」

わあっと歓声が上がる。アンテローチェたちも手を取り合い、にこにこと笑って見守っている。顔から火が出そうだった。


まさにその時――

「姉様……!?」

聞き覚えのある声に、振り返った。

「……ナルラ……!?」

薄桃色の髪を揺らして、妹が立っていた。相変わらず豪華なドレスを着ているが、その表情は複雑だった。シュレツが表情を厳しくして少し私に近づくと、ナルラはぎり、と歯を鳴らした。

「まさか、姉様がパーティにいるなんて……」
「ナルラ、あなたも招待されていたの?」
「当然でしょう!? 私は第二王子の婚約者ですから……!」

ナルラは私を上から下まで見て、顔を歪めた。

「な、なんですか、その格好は! 姉様らしくありませんわ!」
「王妃様に選んでいただいたのよ」
「お、王妃様に、選んでいただいたドレス、ですって……!?」

ナルラの顔が青ざめた。そして、私の周りにいる貴族たちと、王妃様の存在に気づいて、さらに顔色を悪くした。

「そ、そんな……私の方が可愛いのに……なんで姉様ばかり注目されて……」

ぶつぶつと呟きながら、ナルラは拳を握りしめる。そしてふと、ナルラは不気味な笑みを浮かべた。

「ふふふ……そうだわ。占星守護院に告発してやる……」
「な、占星守護院ですって……!?」
「番の神聖性を守る組織……! あそこならきっと……! 今に見ていて。姉様のしていることは、冒涜だって告発してやるんだから……!」

そう言い残して、ナルラは踵を返して去っていった。

「ううーん……面倒なことになりそうね?」

周りの貴族たちがざわつき始めた。

「占星守護院って……」
「まさか、あの保守的な……?」

シュレツがそっと私の肩に手を置いた。

「俺が君を守る。何があっても」

私は少し肩から力を抜いて微笑んだ。

「ありがとう。ああ、でも、それより――ごめんなさい、アンテローチェ……騒ぎを起こしてしまって」
「いいえ。お気になさらず! でも、大変そうですね……」
「そうね、困った子で……」
「私はあなたの薬に、助けられた……ミーニェ様は間違っていない。私が保証します」
「……アンテローチェ……ありがとう」

しばらくして騒ぎは落ち着き、パーティは元の和やかな空気に戻っていった。
楽しく過ごす中、ふと、シュレツが私の手を取った。

「ミーニェ」
「なに?」
「ダンスを踊らないか」
「似合わないわ」
「そんなことはない……ほら、いこう」

確かに、会場から音楽が漏れ聞こえてきている。

「私、ダンスなんて……」
「大丈夫。俺に任せて」

シュレツに導かれるまま、美しい広間で優雅に踊る。不思議と、足取りは軽かった。

「楽しいか?」
「……うん」

正直に答えると、シュレツの笑みが深くなった。

「それならよかった」

くるりと回転して、シュレツの腕の中に収まる。このまま時間が止まればいいのに。シャンデリアのあかりに照らされたシュレツの横顔は、とても凛々しかった。

「君となら、どんな困難も乗り越えられる」
「……そうね。私もそう思ってる」

ナルラの言った組織のことは気がかりだが、今はこの幸せを大切にしよう。明日からまた、白衣に戻って研究をする。それが私の日常で、私の幸せだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

数多の令嬢を弄んだ公爵令息が夫となりましたが、溺愛することにいたしました

鈴元 香奈
恋愛
伯爵家の一人娘エルナは第三王子の婚約者だったが、王子の病気療養を理由に婚約解消となった。そして、次の婚約者に選ばれたのは公爵家長男のリクハルド。何人もの女性を誑かせ弄び、ぼろ布のように捨てた女性の一人に背中を刺され殺されそうになった。そんな醜聞にまみれた男だった。 エルナが最も軽蔑する男。それでも、夫となったリクハルドを妻として支えていく決意をしたエルナだったが。 小説家になろうさんにも投稿しています。

氷の公爵家に嫁いだ私、実は超絶有能な元男爵令嬢でした~女々しい公爵様と粘着義母のざまぁルートを内助の功で逆転します!~

紅葉山参
恋愛
名門公爵家であるヴィンテージ家に嫁いだロキシー。誰もが羨む結婚だと思われていますが、実情は違いました。 夫であるバンテス公爵様は、その美貌と地位に反して、なんとも女々しく頼りない方。さらに、彼の母親である義母セリーヌ様は、ロキシーが低い男爵家の出であることを理由に、連日ねちっこい嫌がらせをしてくる粘着質の意地悪な人。 結婚生活は、まるで地獄。公爵様は義母の言いなりで、私を庇うこともしません。 「どうして私がこんな仕打ちを受けなければならないの?」 そう嘆きながらも、ロキシーには秘密がありました。それは、男爵令嬢として育つ中で身につけた、貴族として規格外の「超絶有能な実務能力」と、いかなる困難も冷静に対処する「鋼の意志」。 このまま公爵家が傾けば、愛する故郷の男爵家にも影響が及びます。 「もういいわ。この際、公爵様をたてつつ、私が公爵家を立て直して差し上げます」 ロキシーは決意します。女々しい夫を立派な公爵へ。傾きかけた公爵領を豊かな土地へ。そして、ねちっこい義母には最高のざまぁを。 すべては、彼の幸せのため。彼の公爵としての誇りのため。そして、私自身の幸せのため。 これは、虐げられた男爵令嬢が、内助の功という名の愛と有能さで、公爵家と女々しい夫の人生を根底から逆転させる、痛快でロマンチックな逆転ざまぁストーリーです!

【悲報】氷の悪女と蔑まれた辺境令嬢のわたくし、冷徹公爵様に何故かロックオンされました!?~今さら溺愛されても困ります……って、あれ?

放浪人
恋愛
「氷の悪女」――かつて社交界でそう蔑まれ、身に覚えのない罪で北の辺境に追いやられた令嬢エレオノーラ・フォン・ヴァインベルク。凍えるような孤独と絶望に三年間耐え忍んできた彼女の前に、ある日突然現れたのは、帝国一冷徹と名高いアレクシス・フォン・シュヴァルツェンベルク公爵だった。 彼の目的は、荒廃したヴァインベルク領の視察。エレオノーラは、公爵の鋭く冷たい視線と不可解なまでの執拗な関わりに、「新たな不幸の始まりか」と身を硬くする。しかし、領地再建のために共に過ごすうち、彼の不器用な優しさや、時折見せる温かい眼差しに、エレオノーラの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 「お前は、誰よりも強く、優しい心を持っている」――彼の言葉は、偽りの悪評に傷ついてきたエレオノーラにとって、戸惑いと共に、かつてない温もりをもたらすものだった。「迷惑千万!」と思っていたはずの公爵の存在が、いつしか「心地よいかも…」と感じられるように。 過去のトラウマ、卑劣な罠、そして立ちはだかる身分と悪評の壁。数々の困難に見舞われながらも、アレクシス公爵の揺るぎない庇護と真っ直ぐな愛情に支えられ、エレオノーラは真の自分を取り戻し、やがて二人は互いにとってかけがえのない存在となっていく。 これは、不遇な辺境令嬢が、冷徹公爵の不器用でひたむきな「ロックオン(溺愛)」によって心の氷を溶かし、真実の愛と幸福を掴む、ちょっぴりじれったくて、とびきり甘い逆転ラブストーリー。

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

処理中です...