天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら

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第14話 白衣の花嫁

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「……何を贈れば喜ぶんだ?」

執務机に肘をついて、シュレツは真剣な顔で唸っていた。
団長室には、なぜか騎士団の面々がずらりと集まっている。呼ばれた理由はただ一つ。

「ミーニェ様への贈り物?」

副官が聞くと、シュレツは頷いた。

「先日の料理の件もある」
「ああ、ミネストローネ食べさせられまくった件ですね……」
「今度こそ完璧なサプライズを成功させたい。だから……何か特別なものを贈りたい」
「なるほど。恋人へのプレゼントですね!」
「番だ」
「……は、はい」

言い直されて、少し顔を青くする副官。その横で、年長の騎士が腕を組んでうなった。

「定番は花束じゃな。女性は花を喜ぶという」
「いや……実は、それは既に一度贈ったことがある」
「ほう?」
「これはあの薬に使える、あれはあの薬になると、抜き取られ。花束として意味をなさなかった」
「ああー……」

騎士たちが一斉に苦い笑顔を浮かべる。一人の騎士が声を上げた。

「では宝石はどうです? 高価なルビーやエメラルドなど!」
「それも考えたが……彼女はあまり装飾品を好まないようでな。王妃様から受け取ったものも恐る恐る触る始末」
「あー……」
「贈ったところでクローゼット行きになるのは目に見えている」
「うーん……」

騎士たちが皆唸り声をあげた。

「む、難しいですね……じゃあ、団長の肖像画はどうです!?」
「自己満足が過ぎるだろう」
「逆に彼女を描いて……!」
「じっとしていてくれと頼んだ時点で察せられる。そもそもじっとしていない」
「ああ~~……」

会議は迷走を極め、次々と奇抜な案が飛び出しはじめた。

「ミーニェ様、薬品瓶を集めるのが趣味と聞いたことがあります。瓶そのものを贈るとか――」
「いや、ミーニェ様、瓶の中身にしか興味がないだろ」
「実験器具一式はどうだ?」
「すでに研究室に一通り揃っているのでは? うちの研究室はかなり質がいいぞ」
「いっそ、空飛ぶ馬車を――」
「運用と予算を考えろ馬鹿」
「うおおおお、これは難易度の高い依頼だ……!」

騎士たちは頭を抱える。そんな中、若い騎士がぽつりと呟いた。

「……白衣とか、どうですか?」
「……白衣?」

シュレツがきょとん、と目を開く。若い騎士は頷いた。

「ええ。あの方、白衣へのこだわりが強いじゃないですか」
「ああ。薬草の匂いが染み込んだ、自分に馴染んだものしか着ない」
「とはいえ、もうあれ、だいぶボロボロですよ。たぶん本人は気づいていないと思います」
「たしかに……縫い目も擦り切れて、袖口も焦げ跡があったような……」

シュレツの目が輝く。

「よし、新しい白衣を贈る、というのは良さそうだ!」
「団長が選ぶんですか?」

騎士たちの質問にシュレツは軽く頭を振った。

「いや……これは、騎士団総出で用意するぞ!」
「普通に買うわけではなく!?」
「彼女の着ているものは魔物の毛や魔草を練りこんだ特注品だぞ。簡単に買えるものじゃない。まず材料をそろえなければならない」
「そ、そうなんだ……!?」

場がざわつく。

「まさかの、騎士団白衣作成白衣プロジェクト……!?」
「いやでもまあ、確かに……いつも傷薬をいただいているわけだし……」

その後、ミーニェの白衣に使われていた布の素材や縫製を細かく調べ、材料を集めるために北へ南へ奔走し、専門の仕立て職人に依頼して、最上級の白衣が完成した。

それはただの衣ではなかった。肩や袖には特製の魔力遮断布を織り込み、薬品の飛沫を防ぐための微細な防護魔法を重ね、裏地には騎士団の印がさりげなく刺繍されている。

「これは……完全に、軍用品レベルだな……」
「世界一格好いい白衣になったと思います」
「着心地も最高ですぞ」

シュレツは騎士一同に礼を言い、その白衣をプレゼントとして包んだ。


そして数日後――

研究室で、実験を終えたミーニェが振り返ると、白い箱を持ったシュレツが立っていた。

「え?」
「プレゼントだ」
「……なにかしら。また目玉焼き?」
「違う」

そっと渡された箱を開けると、そこには新しい白衣が折り畳まれていた。

「……えっ」

手に取った瞬間、布の柔らかさに驚く。軽いのに丈夫で、縫い目一つにまで精緻な意志を感じた。

「これ……すごい……」
「君のために、特注した」
「えっ、ちょっと待って、これ、まさか……あなたが?」
「ああ……と言いたいところだが、嘘は付けないか……騎士団総出だ」
「騎士団総出ー!?」

叫んだミーニェに、シュレツは少し照れながら言った。

「お前に似合うものを、と思ってな。研究に最適なよう、みなで全力を尽くした」

ミーニェは、しばらく白衣を抱きしめていた。そして、ぽつりと呟く。

「……ありがとう。今までで、いちばん嬉しいかも」
「本当か? なら……結婚式をあげよう」
「……ちょっと、待ってもらっていい?」
「どうした?」
「もしかして、プロポーズのつもりのプレゼント?」
「え? ああ……まあ、すでに番ではあるが。こういったことを、なあなあにするのもよくないし、何か物をプレゼントして改めてしっかりと誓うべきかと……思い……」

ミーニェはその言葉に大いに笑い声をあげた。

「あはははっ、もう……シュレツってそういうところ、あるわよね!」
「どういうところだ……?」
「普通は指輪だと思うんだけれど」
「え、でも君は邪魔になるから外してしまうだろう」
「うん。そうね。だからこれでいい。いや、これがいいわ。私たちらしい」

その言葉に、シュレツは静かに微笑んだ。

「喜んでくれたのなら、よかった」
「もちろん、嬉しいわ」
「結婚式は」
「そのうち、ね!」

研究と恋の両立は忙しい。でもこの日、ミーニェの心には、あたたかい光が灯った。
きっと、白衣を見るたびに思い出すだろう。大切な人の、不器用だけれどまっすぐな想いを――。

あるところに。
白衣と礼服で盛大な結婚式を挙げた、それはそれは変わった天才薬師と騎士団長がいたという。
二人の結婚は国を挙げて盛大に祝われ、祭りは三日三晩に及んだそうだ。

「愛している、ミーニェ」
「ええ……私もよ、シュレツ!」

二人を人々はこう呼んだ――運命を超え、世界を変えた番『運命を超えし騎士』、『白衣の花嫁』と。
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