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リリアテレサの章
都市
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「……」
その光景に、リリア・ツヴァイは言葉もなかった。彼女の胸の中で何かがぎゅうっと締め付けられるような感覚があるのが分かった。それはたぶん、私のメインフレームに掛かっている不可解な負荷と同じものなんだろう。
私達の視線の先にあったのは、完膚なきまでに徹底的に破壊しつくされた都市、いや、<かつて都市であったもの>だった。
見渡す限り、原形を留めている構造物は一つとしてなく、高層ビルは折れ、倒れ、単なる瓦礫の山と化していた。それらを数千度から、場合によっては数万度の熱が焼き尽くしたのが分かる。大出力の荷電された粒子の束が降り注ぎ、直撃したところは半径数十メートル、深さ十メートル以上にわたって蒸発し、その輻射熱により周囲にあったものさえ一瞬で溶解した痕跡だった。
それが、都市全体を焼き尽くしたのだ。
恐らく、爆撃直後は今よりもっと凄惨な光景だったに違いない。バラバラにちぎれ飛び高熱で炭化した人間達の死体がびっしりと地表を埋め尽くしていただろうから。
それらは、後に投下されたロボットによって片付けられ、形ばかりの慰霊が行われた筈だった。その痕跡である、無数の、残骸を流用しただけの墓標が、都市の周囲を覆っていることからも明らかだった。
それでも、回収しきれない細かな炭化した肉片が瓦礫などに付着しているのも確認できた。
リリア・ツヴァイは自らの手で口と鼻を覆っている。もう既に爆撃からも二十年以上が過ぎているのに、まだ『臭い』は、粘液のようにその場にこびりついているかのようだった。
不快な臭いの塊そのものを鼻の奥へと押し込まれたかのような感覚を、彼女は味わっていた。
そして、状態は私が想定していたよりもはるかに酷いものだった。道路など痕跡さえ残っておらず、クレーターのような穴しか見えなかった。
これではリアカーはおろか、彼女が歩いて通り抜けることさえままならない。
「仕方ない…迂回しよう……」
私がそう言うと、彼女も黙って頷いた。心底ホッとしたというのも伝わってくる。
厳密には人間ではない彼女でも、この光景と臭いは耐えられるものではなかったということか。
という訳で、私達は都市の外周部に沿って迂回し、先を目指すことになった。臭いはまだ漂ってくるけれど、中を通るよりはまだマシだろう。しばらくすると慣れてきたのか、彼女が感じている臭いに対するストレスが緩和されてくるのも分かった。
この砲撃を行ったのは、人間が一人も乗っていない完全にロボットだけで構成された艦隊の筈だった。だけどそれを命じたのは人間だ。
人間にはここまでのことができてしまうのだということを思い知らされた気分なのだった。
その光景に、リリア・ツヴァイは言葉もなかった。彼女の胸の中で何かがぎゅうっと締め付けられるような感覚があるのが分かった。それはたぶん、私のメインフレームに掛かっている不可解な負荷と同じものなんだろう。
私達の視線の先にあったのは、完膚なきまでに徹底的に破壊しつくされた都市、いや、<かつて都市であったもの>だった。
見渡す限り、原形を留めている構造物は一つとしてなく、高層ビルは折れ、倒れ、単なる瓦礫の山と化していた。それらを数千度から、場合によっては数万度の熱が焼き尽くしたのが分かる。大出力の荷電された粒子の束が降り注ぎ、直撃したところは半径数十メートル、深さ十メートル以上にわたって蒸発し、その輻射熱により周囲にあったものさえ一瞬で溶解した痕跡だった。
それが、都市全体を焼き尽くしたのだ。
恐らく、爆撃直後は今よりもっと凄惨な光景だったに違いない。バラバラにちぎれ飛び高熱で炭化した人間達の死体がびっしりと地表を埋め尽くしていただろうから。
それらは、後に投下されたロボットによって片付けられ、形ばかりの慰霊が行われた筈だった。その痕跡である、無数の、残骸を流用しただけの墓標が、都市の周囲を覆っていることからも明らかだった。
それでも、回収しきれない細かな炭化した肉片が瓦礫などに付着しているのも確認できた。
リリア・ツヴァイは自らの手で口と鼻を覆っている。もう既に爆撃からも二十年以上が過ぎているのに、まだ『臭い』は、粘液のようにその場にこびりついているかのようだった。
不快な臭いの塊そのものを鼻の奥へと押し込まれたかのような感覚を、彼女は味わっていた。
そして、状態は私が想定していたよりもはるかに酷いものだった。道路など痕跡さえ残っておらず、クレーターのような穴しか見えなかった。
これではリアカーはおろか、彼女が歩いて通り抜けることさえままならない。
「仕方ない…迂回しよう……」
私がそう言うと、彼女も黙って頷いた。心底ホッとしたというのも伝わってくる。
厳密には人間ではない彼女でも、この光景と臭いは耐えられるものではなかったということか。
という訳で、私達は都市の外周部に沿って迂回し、先を目指すことになった。臭いはまだ漂ってくるけれど、中を通るよりはまだマシだろう。しばらくすると慣れてきたのか、彼女が感じている臭いに対するストレスが緩和されてくるのも分かった。
この砲撃を行ったのは、人間が一人も乗っていない完全にロボットだけで構成された艦隊の筈だった。だけどそれを命じたのは人間だ。
人間にはここまでのことができてしまうのだということを思い知らされた気分なのだった。
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