異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売

文字の大きさ
9 / 90

宰相との攻防

しおりを挟む
「聖女様と一緒に降臨されたナツメ殿を平民女性と同等に扱うことなどできません」

 驚きはしたもののすぐに冷静になったのかべラルド卿がそう言った。

「でも私は聖女ではありませんし特別な能力も持っていません。そしてこちらの国での婚姻適齢期も過ぎています。となればあとは仕事をして自力で生きていくしかないと思うのですが?」

 言ってみれば身寄りのない人と同じ。
 誰にも頼れないのだから自分でどうにかするしかないだろう。

「いや、しかし……」

 よほど私の提案が予想外だったのか、どちらかといえばどんな質問に対しても淀みなく答えそうなべラルド卿が困惑している。

「体力にはあまり自信がないので、できれば肉体労働以外の仕事だと助かるのですが……」
「肉体労働……?」

 べラルド卿が唖然とした眼差しを向けてくる。

 え?
 だってそうじゃない?
 前職はブラック企業ではあったけれど事務職だったから肉体的疲労は少ない仕事だった。
 まぁ、その分精神的に大変だったけれど。

 そして年も三十五を迎えたとなれば若い頃とは違って体力的な無理はきかなくなっていく。
 それを思えば、これから長く働くならできる限り身体的に楽な仕事がいい。

「ナツメ殿の希望はわかりました。しかしそれは私の一存では決められませんので、一旦この件は持ち帰って検討させていただいても?」
「もちろんです」

 無責任にOKと言わないあたり、べラルド卿は慎重派なのだろう。

「しかし、そうなりますと仕事が決まるまで私はどこで暮らせばいいのでしょう?」

 今いる部屋は客室。
 客室はあくまで客を迎え入れて短期間滞在してもらうための場所だ。
 仕事が決まるまで果たしてどれだけの時間がかかるかはわからないが、それまでここに居座るわけにはいかないだろう。

「……あなたはびっくり箱のような人ですね」

 ……なぜ?
 
 べラルド卿の驚きを込めたような呆れたような一言に私は心の中で疑問を呈す。

 どんな職場でも身元や住所がはっきりしていない者を雇うところはない。
 異世界転移してきた私の身元保証人なんて当然いないし、ここは何とかしてべラルド卿から仕事を紹介してもらうしかないのだから。

「トルス国のご婦人で自ら積極的に仕事を求めるような女性はいません。今のナツメ殿のような状況に置かれようものなら、当然の権利として生活の保障と慰謝料を請求する方が多いでしょう」

 そうなんだ。
 それはそれで逞しいと思うのだけど。
 ただ単に私はそう主張できるだけの自信が無いだけ。
 なぜなら人の価値なんて相対的な評価で決まるものだと思っているから。
 
 それに自分の主張ばかりして放り出されたらどうすればいいというのか。
 私にはこの世界でのツテも生きていくための知識も何もかもが欠けているのだと、きっとべラルド卿は本当の意味では理解できていないに違いない。

「それとも、あなたのいた世界では当然のことなのでしょうか。」
 
 続けて零された言葉は、私に言っているというよりもべラルド卿の独り言だったのかもしれない。

 当然のことか……。
 たしかに、元の世界でも声高に自分の主張を振りかざす人はいるわね。
 そして往々にして声の大きい人の主張の方が通りやすい。

「いずれにしても、ナツメ殿は我々の事情で我が国に来ていただいた方。これからのことが決まるまではこの部屋を自由にお使いください」

 そうして、なぜか少し疲れた様子を見せたべラルド卿とのティータイムは終わりを告げたのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ
恋愛
 ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。  どうすれば良いのかしら?  ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。  このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。 ・本編141話 ・おまけの短編 ①9話②1話③5話

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

恋愛は見ているだけで十分です

みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。 そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。 色んな意味で、“じゃない方”なお話です。 “恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?” 今世のナディアは、一体どうなる?? 第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。 ❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。 ❋主人公以外の視点もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。 ❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

処理中です...