50 / 90
舞踏会のマナー
しおりを挟む
人々が踊り出すのを待って、私は王座の横に設られた軽食が用意されているスペースへと移動した。
会場内にはいくつか軽食スペースが設けられているが、他とは違いさすがにこの場に近寄る者はいない。
「とりあえずお披露目が終わって良かったです」
人々の注目を一身に受けた花音ちゃんがそう囁く。
音楽が流れ多くの人が話に花を咲かせている場では花音ちゃんの話を聞かれる心配は少ないけれど、注目の聖女様とあっては誰が聞き耳を立てているかわからない。
「花音ちゃんは殿下と踊らないの?」
少し前に話した時にはマナーと共にダンスも習っていると言っていた。
ある程度踊れるようになっていたみたいだし、てっきり今日のファーストダンスは花音ちゃんと殿下だと思っていたんだけど。
「ただでさえ注目されているのに、これ以上見せ物になりたくないですよ」
トレス国の舞踏会では国王と王妃は王座に座したまま踊ることはしない。
そのため最初にダンスを披露するのはもっぱら王太子であるソレイユ殿下が務めるのが常だとか。
「花音と踊らないなら今日は誰とも踊らない」
そんな一途なのか考え無しなのか紙一重の殿下の発言に待ったをかけたのはもちろん花音ちゃんだ。
あらかじめリベルタ嬢と相談済みだったのか、今日のファーストダンスは今までと同様殿下とリベルタ嬢が踊っている。
正式に婚約解消を発表した二人のファーストダンスに会場内はざわついたけど、当の二人はどこ吹く風と気にしていないようだった。
そして王太子としての義務は果たしたとばかりに殿下はそれ以降どの令嬢にも声をかけずに花音ちゃんのそばにいる。
「この状況、大丈夫なんですか?」
「殿下はご自身で決めたことは曲げないたちですし、陛下が良しとしているので問題はないかと」
つい心配になって隣にいるベラルド卿に聞いてみるものの、あっさりとした答えが返ってきた。
まぁ、当事者たちがそれで良しとしているならいいんだろうけど、背後から突き刺さる視線が痛い……。
舞踏会のマナーとして、ダンスは男性から申し込むものであり、女性から声をかけるのははしたない行為だと言われている。
そのため殿下の気を引きたいご令嬢たちは殿下に声をかけることもできず、ひたすら声がかかるのを待っているのだが。
その視線の圧が強いのよね。
殿下の花音ちゃんへの接し方を見れば望みは薄いと思うのだけど。
そんな殿下を追いかけるよりも別の相手を探した方がいいのにと思ってしまうのは私が異世界人だからだろうか。
令嬢たちにかかる両親の期待もあるのかもね。
誰と結婚するかが自身の価値と直結する現実はなかなかに辛い。
そうやって話しながら休憩をとっていたら、不意に背後から声がかかった。
「はじめまして、ナツメ様。少しお話しさせていただいてもよろしいかしら?」
女性から男性へ声をかけるのはマナー違反。
同様に女性同士の場合は位の下の者から上の者へ声をかけるのがマナー違反だ。
つまり、声の主は私よりも上の立場の者。
もしくは、私を『下』に見た者ということだ。
会場内にはいくつか軽食スペースが設けられているが、他とは違いさすがにこの場に近寄る者はいない。
「とりあえずお披露目が終わって良かったです」
人々の注目を一身に受けた花音ちゃんがそう囁く。
音楽が流れ多くの人が話に花を咲かせている場では花音ちゃんの話を聞かれる心配は少ないけれど、注目の聖女様とあっては誰が聞き耳を立てているかわからない。
「花音ちゃんは殿下と踊らないの?」
少し前に話した時にはマナーと共にダンスも習っていると言っていた。
ある程度踊れるようになっていたみたいだし、てっきり今日のファーストダンスは花音ちゃんと殿下だと思っていたんだけど。
「ただでさえ注目されているのに、これ以上見せ物になりたくないですよ」
トレス国の舞踏会では国王と王妃は王座に座したまま踊ることはしない。
そのため最初にダンスを披露するのはもっぱら王太子であるソレイユ殿下が務めるのが常だとか。
「花音と踊らないなら今日は誰とも踊らない」
そんな一途なのか考え無しなのか紙一重の殿下の発言に待ったをかけたのはもちろん花音ちゃんだ。
あらかじめリベルタ嬢と相談済みだったのか、今日のファーストダンスは今までと同様殿下とリベルタ嬢が踊っている。
正式に婚約解消を発表した二人のファーストダンスに会場内はざわついたけど、当の二人はどこ吹く風と気にしていないようだった。
そして王太子としての義務は果たしたとばかりに殿下はそれ以降どの令嬢にも声をかけずに花音ちゃんのそばにいる。
「この状況、大丈夫なんですか?」
「殿下はご自身で決めたことは曲げないたちですし、陛下が良しとしているので問題はないかと」
つい心配になって隣にいるベラルド卿に聞いてみるものの、あっさりとした答えが返ってきた。
まぁ、当事者たちがそれで良しとしているならいいんだろうけど、背後から突き刺さる視線が痛い……。
舞踏会のマナーとして、ダンスは男性から申し込むものであり、女性から声をかけるのははしたない行為だと言われている。
そのため殿下の気を引きたいご令嬢たちは殿下に声をかけることもできず、ひたすら声がかかるのを待っているのだが。
その視線の圧が強いのよね。
殿下の花音ちゃんへの接し方を見れば望みは薄いと思うのだけど。
そんな殿下を追いかけるよりも別の相手を探した方がいいのにと思ってしまうのは私が異世界人だからだろうか。
令嬢たちにかかる両親の期待もあるのかもね。
誰と結婚するかが自身の価値と直結する現実はなかなかに辛い。
そうやって話しながら休憩をとっていたら、不意に背後から声がかかった。
「はじめまして、ナツメ様。少しお話しさせていただいてもよろしいかしら?」
女性から男性へ声をかけるのはマナー違反。
同様に女性同士の場合は位の下の者から上の者へ声をかけるのがマナー違反だ。
つまり、声の主は私よりも上の立場の者。
もしくは、私を『下』に見た者ということだ。
665
あなたにおすすめの小説
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】異世界から来た聖女ではありません!
五色ひわ
恋愛
ミシュリーヌは、第四王子オーギュストの妃としてフルーナ王国の王宮で暮らしている。しかし、夫であるオーギュストがミシュリーヌの寝室に訪れることはない。ミシュリーヌは聖女の力を持っていたため、妻に望まれただけなのだ。それでも、ミシュリーヌはオーギュストとの関係を改善したいと考えている。
どうすれば良いのかしら?
ミシュリーヌは焦っていた。七年間かけて国中の水晶を浄化したことにより、フルーナ王国は平穏を取り戻しつつある。それは同時に聖女の力がこの国に必要なくなったことを意味していた。
このまま、オーギュストの優しさに縋ってお飾りの妻を続けるしかないのだろうか。思い悩むミシュリーヌの前に現れたのは、オーギュストの恋人を名乗る女性だった。
・本編141話
・おまけの短編 ①9話②1話③5話
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
恋愛は見ているだけで十分です
みん
恋愛
孤児院育ちのナディアは、前世の記憶を持っていた。その為、今世では恋愛なんてしない!自由に生きる!と、自立した女魔道士の路を歩む為に頑張っている。
そんな日々を送っていたが、また、前世と同じような事が繰り返されそうになり……。
色んな意味で、“じゃない方”なお話です。
“恋愛は、見ているだけで十分よ”と思うナディア。“勿論、溺愛なんて要りませんよ?”
今世のナディアは、一体どうなる??
第一章は、ナディアの前世の話で、少しシリアスになります。
❋相変わらずの、ゆるふわ設定です。
❋主人公以外の視点もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字が多いかもしれません。すみません。
❋メンタルも、相変わらず豆腐並みなので、緩い気持ちで読んでいただけると幸いです。
異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる