最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

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1章

40話 交渉術

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「んあぁああぁあ……」

 膝をついて地面に四つん這いの恰好でがんがんと地面を叩き続ける。ある意味で偉業だよ、向こう側にある錬金ギルドじゃ騒ぎになってるし、これ予想以上にやばい気がする。流石に故意でやっていないとはいえやばいだろうなあ。だとしても今はそんな事よりもなけなしの硝石が吹っ飛んだ事の方が悲しいし、折角の黒色火薬が……。

『すいません』
「はい……」
『アカメ様でお間違いないでしょうか』
「はい……」

 がっくりと項垂れたまま、私の頭の上の辺りから声が聞こえる。しばらくこれ立ち直れないわ。もう、今誰とも話したくないんだけどなあ。

『先程の錬金ギルドの爆発の件でお聞きしたい事があります』
「はい……」
『まず一つ目ですが、あれは故意によるものでしょうか?』
「いいえ……」
『二つ目に、原因をお聞きしたいのですが、どういった経緯でああなりましたか?』
「火薬に引火……」
『なるほど、錬金で生成した火薬に引火し爆発したと言う事ですね』

 改めて言われると更に凹むわ、折角作った黒色火薬がまさか自分の手元から数十秒ですべて吹っ飛んだ事実を改めて認識させられているわけだし。またロックラックの相手しなきゃならないのはいいとして、金策をしなければ回復アイテムを補充も出来ない、こんな爆発事故起こした奴がのこのこ錬金ギルドに行ってHP下級ポーションを自作なんて出来るわけないよ、恥ずか死だよ。

『ありがとうございます。では完全に爆発事故という事ですね』
「そーだよ……どうせ私はせっかく作った火薬を速攻吹っ飛ばした間抜け野郎さ……」

 今なら血涙を流して死亡出来る位には悲しいよ。

『この度の件ですが、βテストから正式版発売に伴い、運営側でおこなったガンナー修正と同時に実装した火薬の設定ミスとなり、申し訳ございません。』
「ああ、そう……」
『本来であれば街中でのダメージ発生行為は禁止、または無効化をしていたのですが、その設定が抜けておりました。つきましては今回のデスペナルティ、及び消失したアイテムの補填を致します』
「それはいいね……」
『今回の補填に付きましては、プレイヤーメールに消失した黒色火薬30gと鉄延べ棒2本を送信させていただきます、またデスペナルティとして消失した経験値及び金銭もプレイヤーメールから補填致します。付け加えて今回の件による錬金ギルドからのペナルティや、ゲームプレイをする上で不利になる事はございません』
「はいはい……」
『この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした』

 ピコンとアナウンス音が響くと受信メールに運営からのアイテム添付されていたデータが届いている。なんでこんなメール来るんだよ。とりあえず受理してもらっておくけどさ。

「項垂れってもしゃあないし、砂丘のとこ行って情報売って金貰おう……」

 ふらふらと立ち上がり露店エリアの方へと進む。ああ悲しい、私の苦労はたった一つの火花で諸共吹っ飛んだけど、似たような事は何度もあるじゃないか。ローグライクとかでいい所で地雷踏んで吹っ飛ぶとか罠一つで全部台無しとかは結構あるけど、其れの比じゃないよ。

 

 そうしていつもの情報クランの露店に辿り着く、いつもより人がわんさかいるがどういう事なんだろうか。しばらく落ち着かなさそうだし、ちょっと待とう。盗み聞きしてタダ情報貰うのも有りだよね。

「錬金ギルド爆破した奴は俺ちゃん達も知らねぇよ!原因もまだわかってないから、残念ながら渡せる情報はなーし!」

 そりゃ私が火薬で自爆したんだよ、凄いだろ。これで私も運営に目を付けられた公式犯罪者だよ。
 で、立ち聞きしていると炸裂系の魔法なのか爆破物が発見されたのかとかそういう話をしている。確かに考えてみれば火薬って技術革新とも言える代物だよね。と言うか今まで爆破物作ろうとしてた連中いなかったのか?
 そんな事を思いながら様子をしばらく見ていたら帰った帰ったという様に手を払い、野次馬根性の連中を追い払っている。そうしていつもの胡散臭い感じ丸出しの露店に様変わりだ。
 落ち着いたであろうタイミングで露店の呼び鈴を力なく押して砂丘を呼ぶ。

「おい、砂丘、情報くれてやるから金寄越せ……」
「はいはい、情報買い……ひっ……」
「とっておきだぜぇ……文字通り爆発するくらいにはなぁ……」

 この間とは違い、死んだ魚の目をした状態の私はまたそれだけで威圧感たっぷりらしい、何て言ったって目の前を歩いている砂丘がビビり倒しているんだから。



 『壁に耳あり障子にメアリー』
 この情報クランはT2Wのβ時代に設立された名前こそふざけているがゲーム最大の情報を持っているクランだ、名前は喧嘩売ってるけど。とにかく情報を得る事に特化しており、攻略組にも派遣されているし、さらに給料まで支払っていると言われている。名前はふざけているが。そしてこのクランで私の立場は完全にブラックリスト入りしているだろうね。ふざけた名前のくせに。

 とりあえず砂丘を前にこの間と同じようにウェスタンドアを開け、バーカウンターに並んで座る。

「情報って言っても姉御のレベルと探査範囲だとしゃぶりつくされてるんですけど……」
「さっきの錬金ギルドの件、しりたかない?」
「……まさか?」
「そうよ、私が爆破したのよ」
「マジすか?」
「それで一つ聞くんだけど、あの硝石のデータ、出所は?」
 
 この間と同じように横目で眼光鋭く見つめながらマスターに一杯と注文する。当たり前だが砂丘のツケだ。

「あー……えっとですね……」
「硝石の出所の情報料と合わせてくれてやるから、それ寄越しな」
「βの時に偶然うちのメンバーが手に入れたんですよ」

 私の空いている席側に一人座り、私と同じようにマスターに一杯注文してグラスを傾ける。

「じゃあ誰も正式じゃ手に入れてなかったわけ?」
「今の今までは、ですがね……貴女と同じ様に硝石を求めている人はちらほらですよ、火薬としてよりも爆薬としての利用方法として、ですが」
「……β情報で出し渋りやがって」
「まあ、あんまし責めないでください、良い奴なんで」

 砂丘はもうそそくさと席を外れて他のクラメンの所でしくしく泣いている。精神貧弱すぎだろ。

「でもおかしいでしょ、βで手に入れてたのに正式版で手に入れてないって」
「βでたまたま入手できたのは第三の街手前でした、入手難易度が高いと思っていたというのが理由ですね。確かに調べれば出てくる硝石の取り方や製法も試してみましたが、それでも見つかりませんでしたし」
「序盤だからって温い情報の集め方してたんじゃないの?北エリア2の暗闇洞窟にいるロックラックからドロップしたわよ」
「もちろん私たちも蝙蝠の群生地と言う事で硝石発見の為にしばらくメンバーを向かわせていましたが、さっぱりでした、レアドロップなのか、特殊条件なのか判別できていないんですよ」
「なら発見したその第三の街付近でのドロップを期待するわけね」
「硫黄も火山付近じゃないと入手出来なかったので先入観として第二の街を突破して、ある程度戦えないと揃えられないと思っていたわけです」
「だとしても私以外に狙ってるのが少なすぎじゃない?」
「あったとしても使い道が爆破物くらいしかない上に、銃はガンナー専門武器なので、本当にごく一部の需要なんですよ、硬い相手や魔法生物とかには魔法使うのがセオリーですし」

 つまり需要も無かったうえに、手に入れられると思っていたのはかなり先、しかも爆発物を作ろうにも安定して手に入れられないから試作も出来ない……って事か。
 ガンナーはガンナーで修正されたから人口も減ってそっちの需要も無し、と。しかも話を聞く限りでは爆薬を作ろうとしていたのはあの鍛冶系総合クランの連中らしい。ただ一つだけ確信できる事はガサツエルフではないね、あいつに繊細な作業は無理だし。

「だから今、貴女が提供してくれた硝石の情報でそっちの産業にも火が付き始めるわけですが……この情報売ってもいいんですか?」
「他の発見地が見つかるまでは秘匿しなさい、売るとしてもかなり高額じゃないと私の取り分が減るじゃない」
「じゃあ何で、出所の情報を?」
「……私に頭上がらなくなるでしょ」
「それは、まあ確かに……」

 隣に座っているのが目線は向けずに正面を向いたままで話し合うが、相手がくすりと笑っているのは何となくわかる。
 カランとグラスの氷を揺らして中身を飲み、ゆっくりとグラスを置いて一息。

「そういや、忙しくてガンナーの修正するって項目しか見れなかったのよね……がっつり修正入ったんでしょ?」
「ええ、それはもう」

 ソフトとハードを予約購入し、有給休暇を取るためにハードに仕事をこなしていたので詳しく見れていなかった弊害がここにも出るとは思っていなかったよ。じゃなきゃこんな風にガンナーの職業選んでなかったと思うのだが……逆に今じゃ硝石一つでT2Wにおける爆発物産業を牛耳っているともいえる。

「まあ、いいわ……それで、取り分なんだけど、私は悪い意味で顔が割れてるし、あんたたちの所なら硝石の情報いい値段で売れるでしょ?」
「まあ、それは確かに、ですが」
「売りの条件は口外しないって確実に約束できる相手にのみ、価格は任せるわ。私の取り分はそうね……私に対する情報料は今後取らない事と、硝石の情報に関してその売り上げの2割で勘弁してやるわ」
 
 ちらりと左側にいる相手を横目で見てからにぃっと口角を上げて笑う。今まで気が付いていなかったがドラゴニアンを選ぶとギザ歯になるみたいだ。グラスにわずかに反射して見える私の口元はなかなかに凶悪だと気が付いた。

「硝石一つで大損じゃないですか?」
「これから出てくる素材とかと合わせてフラッシュバンとかスモーク作れたら攻略必須品になると思わない?それに非力な魔法職が物理対抗したり、物理防御の高い相手とかにいいじゃない。音と閃光はしょうがないだろうけど」
「う、まあ確かに……」

 もう一押しだな、相手がどういうのかは分からないが砂丘で口出しできないと言う事は中々に上位メンバーだろう。
 ……そういえばぼーっとしてたがあのメールの中身を確認してなかった。GMからのイエローカードみたいなもんだと思ったけど、補填なのね。それじゃあ止めを刺してやろう。

「それに、もう爆薬は出来てるわけよ」

 カウンターに小さい小袋を置いて隣に座っている相手の方へと向ける。トレードではないので取得は出来ないがデータの閲覧は出来るようにしておく。
 それを見て確認したのか、がたっと椅子から立ち上がりゆっくりと座りなおす。

「……わかりました、うちのクランの負けです」
「誰だか知らないけど良い選択よ、あんた」

 置いた小袋をインベントリに仕舞い。二杯目のグラスを祝杯の様に受け取ってから、相手のグラスにかちんとぶつけ、契約成立と分からせるように音を響かせる。そして一気にグラスの中身を飲み干し、かーっと胸が熱くなる感じをさせつつ立ち上がる。

「ドロップ情報はまけておくわ」

 相手を見ずに席を立ち、そのままウェスタンドアをこの間の様に大きく開けて出ていく。



「メアリーさん良かったんですか?」
「完全に負けよ……硫黄と木炭は私たちも入手してたけど、硝石だけは分からなかったし、まさかあの爆発騒ぎが火薬のせいだとは思ってなかったじゃない」

 ため息を大きく吐き出してあのドラゴニアンが出ていった所を見る。どっちにしろドロップ情報一つで情報の売り上げはかなり大きい。なんならさっきの爆発騒ぎの原因が火薬と分かればそれだけでもかなりの騒ぎと売り上げにもなる。

「前線も停滞してるし、戻ってきたらとんでもない爆弾かまされた気分だわ……」

 ため息をまたついてグラスに残ったのを飲み干し。

「あのドラゴニアンに一人つけなさい」
「交代制でいいですか?」
「頼むわ、給料に色も付けておくから」
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