最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

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14章

359話 点火

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「で、機嫌は直ったかえ」
「悪魔殿は不機嫌になると面倒だ」

 前2人が声を上げて笑いながらひとしきり愚痴に愚痴った私の方をちらりと見てくる。

「知ってる相手に負けるのマジ悔しい」

 葉巻をすぱすぱ吹かしながら、バランスの悪くなったボコボコの車に揺られてマップを走り続ける。そろそろログアウトをしなきゃならん時間だけど、ああやってちんちくりんのあいつがああまで強くなっているなら、私も立ち回り方を考えなきゃならん。

「そういう事もあるだろうに、ムキになりすぎじゃぞ」
「私は負けるが嫌なのよ、よっぽどの顔見知り相手で、負けるって知ってるならまだしも」
「ゲームだと言うに本気だ」
「じゃあその本気はどこで出すのよ」

 助手席の後ろをげしっと蹴り、忍者の背中を間接的に蹴りを入れる。分かってると言うか、大体の奴が言うからムカつく台詞だわ。ゲームになんかって言うけど、言ってしまえば将棋や囲碁もゲームだし、何だったらサッカーや野球だってゲームだろ。

「とりあえず追撃系クエストの時には戦力が足りん、イベント開始でまだ探り探りだろうけど、チェルの連中みたいに初期から人数が多い相手にはこの構成じゃ無理だ」
「馬か騎乗鳥がいればいいんじゃがなぁ……車にも騎乗スキルが通用するのは分かっておったが」
「拙者も基本サポートだから戦闘はそこまでな」
「だから、もう1人戦える奴が欲しいんだよ、こんなイベントになるって思わなかったし」

 THを折り、車内にばらばらと空の薬莢を落としてから新しい弾を詰めつつ、暫く考える。まあ、当たり前の話っちゃ当たり前の話ではあるんだよ、私がゲームをしている間にも他の奴がやってないって訳じゃないし、なんだったら私がログインしていない時にもやってる訳だし、強くなるのは想定内だっただろうに。1人だけやたらと強くなってスキルもバンバン手に入るって事はないから、単純にあいつの努力をぶつけられたって事ではある。
 が、そういうのは良いんだ、とにかく負けたって事実が悔しいんだよ、私は。

「どっちにしろこれ以上負けるのは嫌ねぇ」
「そんなに嫌なのか?」
「死ぬほど嫌だね、顔真っ赤にしてムキになって何て言うのもいるけど、私は戦うのが好きなんじゃなくて、勝つのが好きなのよ」
「悪魔殿はバトルジャンキーって訳でもないのか」
「あいつらと一緒にはしてほしくないわね」

 THの銃口をふっと息で吹き、埃を飛ばす。ぼうっとガラス瓶の口を吹いたような音が響き、それからガンベルトに提げてもう一度一息入れる。状態異常の警告もなくなり、ぐぱぐぱと手を握って具合を確かめる。さっきまであった体の違和感と言うのも無くなり、しっかり動ける状態なったと体で感じる。
 
「あいつにやられた攻撃、確実に奥の手だったな……」

 やられた攻撃と言うか、一通りの攻撃方法を思い出しながら、どう立ち回るか、これからの立ち回り方を新たに考えていく。
 今使ってるTH、連射できるから火力は上がったが、その分MPの消費は増えたし装填の頻度も上がっている。継戦能力は上がった点は良い所になるが、1発ずつだった時のCHに比べれば雑に使っているというのも否めない。そもそもの話として対人と対エネミーの戦い方も使い方も変えないといけないだけだって話か。

「うちの陣営のどこかに下ろしてくれ、ログアウトする」
「分かった、そっちに向かうかの」
「拙者もそろそろ落ちるとするか」
「丁度車もおしゃかじゃしのう」

 ぼすんと大きく音を立てて車が止まると共に、最低の街に辿り着く。名前こそあれだが、そんなには悪くない所のような気もする。とりあえず車から3人共降りると共に、ぼんっと大きく破裂音がすると共に車が大破し、バラバラに。
 
「では明日以降の動きは?」
「まず安定した移動手段の確保、同勢力との協力体制を作る、追撃クエストはその後考える」
「ふむ、ではその辺は、暇しているこの爺に任せて貰おうかの……もうちょっと楽しもうと思うのでな」
「拙者も少しサポートを変えて見る」
「……私は私で準備するか」

 とりあえずざっくりとした今後の方針を決めてからそれぞれログアウトの準備を進める。三人共すぐに自分の動き方を考えて自発的に行動できるというのは悪くない。とは言え、暫くは私も防戦と言うか負け戦をする羽目になるだろうってのはよくわかる。
 まさかイベント、しかもなんだったらあのちんちくりんの奴の奴が私に火を付けるとは思っていなかったが、こういうやる気を出させてくれるとは思わなかった。

「明日からはもっと面白そうねえ?」
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