最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

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15章

372話 事前試合

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「くっそ、メールうぜえ!」

 作業中でもばんばん飛んできやがる。まさかクランマスターの権利譲渡をしたらあいつが設定した物が全部引き継がれるなんて思ってねえよ。めっちゃ細かく管理しやがって、あいつマジで頭おかしいわ。
 クラン資金周りの報告と言うか使用に関しての注意メール、クランショップの売上と売れ筋品、品切れが起きた時の報告、クランに来たプレイヤー人数、伝言含めてあればもメールが飛んでくる。とにかく何でもかんでも報告報告……。

「頭おかしくなるわ!」

 通知自体をオフにすれば良いだけだが、それをしたらしたで負けを認める事になる。あいつが出来てて俺様が出来ない理由がねえ。つーか、あいつはこんな風に通知出しまくってるのに戦闘やら会話やらを同時にやってたのか?どんだけマルチタスクで頭使ってんだよ。

「何をどう考えたらこんなにマルチタスクしたがるんだよ、変態じゃねえか」

 とりあえず飛んでくる通知内容をチェックしつつ、自分の作業を済ませながらもその飛んできたメールの処理を開始する。まったく、意気揚々と手上げるんじゃなかったわ、他の連中も手上げてたし、素直にゆずとっきゃ良かったよ、クソが。

「ったく……もうちょっと分かりやすくするか、管理しやすくしろっての……」
「ニーナさん、素材買いたいんでクラン資金出して貰えます?」
「勝手にだ……せないんだったな、ちっ……幾らだ」
「えーっと、50万くらい」
「出納帳に記載しなきゃならんから何買ったか後で教えろよ」
「ええ、分かってますよ、ボスがやってた通りですから」

 言われた通り50万を引き出してからトレードで渡して、後は購入品と使用金額を記帳すればOK。それにしてもクランの運用を引き継いだから分かったが、総資産が50mを超えているという点。それとあのぼんくらが使っていた用途不明金が結構あるという点も見逃せない。あいつのよく分からん金の出所が此処だったってわけだ。

「それにしても、あいつこんなに金あるのに施設増設するのケチってたのかよ」
「あるから使うってのはどうなんですか」
「ゲームでの資金ってのは使ってなんぼなんだよ、よっぽど欲しい物がなきゃ貯め込んだ所で意味ねえしな」

 さっさと買い物に行ってこいと言う様に手を払って菖蒲の奴を追い払おうとする。こいつ、俺様と同じ匂いがするから苦手なんだよ。

「ちなみにどれくらい資産あるんですか?自分、作業場のグレードを上げたいんですよね」
「そりゃてめえの金でやれって言われたろ、そこのルールは変えねえぞ」
「さっきは使ってなんぼって言ったのに」
「足りなくなったら言え、てめえの腕だったら今でも十分仕上げれるだろ」

 メニューを消して思い切りため息を吐き出し、菖蒲のほぼ専用作業場の所に行って指を指す。

「ほら見ろ、これ以上拡張してどうするんだ、十分だろ」
「手狭になってきたからもうちょっと広くしたいな、って」
「片付けろ!ごちゃごちゃ物を置くんじゃねえよ!」

 並べに並べている服飾系防具をばしばしと叩きながらあれこれ無駄と言うか、スペースを開けられるような所を指摘、どうやったらこんな風になるんだ。職人気質だからとかそういうのはどうでも良いから、整理整頓しろっての。

「もー、分かりましたよ……ボスより厳しいんだから」
「あいつが甘やかしすぎなんだよ!」

 ちぇーっと口を尖らせたまま片づけを始めるのを見て、近くにいたアイオンを呼びつけて手伝わせる。それにしてもあの三姉妹、未だにあいつの好感度もあるし、マスターとして登録されたままで俺様を呼ぶ時には『仮』とつけやがる。

「仮マスターニーナ様、クラン加入の申請が来ています」
「ちっ、これも確認かよ……アカメ以外新規加入者は取らんって」
「了解いたしました、此方の方で申請を破棄しておきます」

 ったく、さっさと強くなって戻ってこいや、そうじゃないと張り合いが無くて面白くねえんだよ。ちょっと負けたくらいで拗ねて何もかも放り出して自分のエゴを貫くってなんだよ。

「あーあ、マジで貧乏くじ引いたわ」

 ほんと、さっさと戻って来いよクソ野郎が。





「最近闘技場に来てるけどどういう風の吹きまわし?」
「此処にいたらアカメの奴が来ると思ってな」
「そういえば言ってたね、闘技場もレース場もイベントも全部勝ちたいって」

 そんな風に軽い感じに喋ってはいるが、バイオレットからの遠距離攻撃を金属音をさせながら槍で叩き落とし、じりじりと自分の射程に捕まえる様に十兵衛が距離を詰める。こんな感じの牽制のし合いをしつつ、会話をこなしながらもう5分程膠着状態が続いている。
 十兵衛からしたら何本投げ物を持ってるのか分からず、バイオレットからしたらどのくらいの射程で攻撃が飛んでくるか分からないのでこの状態になっている。

「それ、何本持ってるんじゃ」
「さーて、何本かな」

 そういう軽口を叩き始めたあたりで投げるナイフの速度を一つ上げ、金属が弾かれる音が二つ同時に響くと共にバイオレットの斬撃、右からの袈裟斬りを十兵衛がバックステップで避け、着地と同時に捻りを加えた突きを繰り出す。
 当たり前だがそのままやられるわけではないのでまたキィンと甲高い金属音をさせてはじき返し二、三度打ち合いをして距離を取ってから一気に試合が進む。そこから斬撃と突きの応酬で金属音を響かせながらそれぞれが細かいダメージを受けつつ、決め手に欠ける状況に。

「おねーさん、戻ってくると思う?」
「そうだな……ああなったら頑固だからな」

 十兵衛が2刀の攻撃を槍で叩き、少し大きく反った所に追撃。バイオレットはそのまま反った勢いでバック宙で距離を取りつつ攻撃を避けて一息。ひゅんひゅんと持っていた刀を手首でくるくると回しながら具合を確かめつつじっと十兵衛の方を見据える。

「どんな感じに強くなるかなあ」
「もう儂に勝ったつもりで話すんじゃない」

 そう言うと共に強く踏み込んで突き……と見せかけて上段から思い切り振り下ろして叩きつけ。突きだと思った所からの不意打ちだったのか、受けた刀ごと押し込まれて肩口に槍の柄が叩きつけられて呻き声を漏らす。

「ぐ、あっ……!」
「ま、今日は勝ちを貰うがな」

 そのまま柄を引き戻すのに合わせて、石突の方で横っ面をぶん殴って吹っ飛ばす。流石に怯んだ所に追撃を貰うと反応できず、もろに攻撃を貰ってダウンする。

「攻撃力と素早さばかり上げてるから打たれ弱いんだぞ」
「それおねーさんとやって分かってる」

 細かくダメージを受けていたのもあってか2発大きいのを貰っただけでやられるほどに打たれ脆いのはこの間のイベントでも露呈していた。ただ、それも持ち味だと言って直す気は無いのがバイオレットだが。そうして十兵衛の目の前に「Win」とこれまた簡単な表示が出ると、少しして待機室に2人が戻される。

「別に模擬戦だから良いんだけどさあ、やっぱ上目指しておいた方が良いよね」
「アカメが来るからこそ、再戦狙いか」
「そうだねー……私も私で負けっぱなしってのは悔しいから」

 にかーっと十兵衛に笑いかけて待機室のベンチに座ってメニューを操作し始める。このまま闘技場のランク戦に参加する予定なのか、マッチングを待ち始める。

「やっぱリベンジマッチするなら、良い舞台がいいっしょ」
「いい性格してるよ、お前は」
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