モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha

文字の大きさ
78 / 91

紅葉狩りならぬ魔物狩り

しおりを挟む
アイナの視線は、自然と一点に吸い寄せられていた。

――桃色と、銀色。

光を含んだ桃色の髪が、秋風に揺れるたび、きらりと淡く反射する。
そのすぐ隣、一定の距離を保ちながら並ぶ銀髪の青年。

近すぎず、遠すぎず。
触れそうで、触れない。

けれど、視線だけは確かに絡み合い、時折、ほんの一瞬だけ微笑みを交わしている。

(……この瞬間、永久保存したい……)

脳内でそっとスクリーンショットを切った、その直後。

「先生の話を聞け」

隣から、極めて現実的で冷静な声が飛んできた。

「……っ!」

はっとして前を見る。
いけない。完全に意識が飛んでいた。

ここは学園の外縁、紅葉が始まりかけた森の中。
今日は――
騎士科・治癒魔術科・魔術科の三科合同訓練の日だった。

初の三科合同。

魔術科がこれまで合流できなかった理由は、単純明快である。

攻撃魔術は、制御を誤れば周囲ごと吹き飛ばす。
下手をすれば――

死滅。

そう、死滅である。

治癒も間に合わないまま、天に召される可能性があるため、徹底的に基礎と制御を叩き込まれ、ようやくこの段階で合流となったのだ。

教官の声が、山中に響く。

「本来は二年進級後に行う訓練です。しかし、裏手の山脈にて魔物の異常発生が確認されました」

なるほど。
猫の手も借りたい、というやつだ。

実戦。
ほぼ実戦。

アイナはごくりと喉を鳴らした。

(……理解はした。したけど……)

そして次の瞬間。

「ヒロインとベルンハルトの魔術展開を、リアルで拝めるチャンスが来た……!」

目が輝いた。

「巻き添え食って死ぬなよ」
「死ぬに死ねない」

ヴィルの声が一段低くなる。

「ヒヨコ魔術師だぞ? 分かってんのか?」

「???」

そのやり取りの最中。

「はい、これ回してねー」

先生が何気ない調子で装備を差し出してきた。

――ずしっ。

「……え?」

手首と足首に伝わる、嫌というほど覚えのある重さ。
いや、違う。

(……重い)

確認するまでもなく分かった。

「なんということでしょう……!」

重りが、2倍。

前回より、明らかに 2 倍。

アイナの口元が、ひくりと引きつった。

(この……鬼畜ぅ……!)

心の中で全力ツッコミを入れるが、声には出さない。
出したら確実に「気合いが足りない」で済まされる。

ふと、気配を感じて顔を上げる。

少し離れた位置で、青い髪の騎士がこちらを見ていた。

エルンスト。

彼は何も言わない。
ただ、一瞬だけ眉を寄せ――
それからごく自然に、アイナの立ち位置を確認するように、自分の位置を微調整した。

前に出すぎない。
けれど、離れもしない。

(……守る気、満々だ)

胸の奥が、きゅっと締まる。

恋人ではない。
約束も、宣言もない。

それでも。

戦場に近づくほど、彼は必ず“そこ”にいる。

誰にも触れさせない距離で。
でも、逃げ場を塞ぐ距離ではない。

選ばせる距離。

ヴィルが、その様子を横目で捉えていた。
何も言わない。
けれど、空気がほんの少しだけ重くなる。

紅葉が始まりかけた森。
美しい景色とは裏腹に、張りつめた緊張が漂っていた。

これは、紅葉狩りではない。

――魔物狩りだ。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...