79 / 91
地獄絵図
しおりを挟む
ひと言。
ひと言だけ、いいたい。
アホかぁああああああ!!
――盛大に、心の中で叫んだ。
目の前に広がっている光景を、どう表現すればいいのか。
いや、もう表現は決まっている。
焼け野原である。
焼け野原である。
焼け野原で……何回言わせる気だ!!
さっきまで紅葉が始まりかけていた森は、どこへ行った。
赤や橙の葉が舞う、秋の風情はどこへ消えた。
あるのは――
黒く焦げた地面。
炭化した木。
まだくすぶる煙。
そして、その中心で。
「火炎魔術、第二波いきまーす!!」
元気よく声を張り上げる魔術科。
……やめろ。
ちょっと待て。
今ので十分だろう!?
ゴォォォォォォ――ッ!!
空気が、燃えた。
熱波が一気に押し寄せ、ローブの内側まで熱が入り込む。
思わず顔を覆いながら、足を踏ん張る。
(焼き過ぎだって言ってるだろぉおおお!!)
心の叫びは、爆音にかき消された。
だが、ここからが本番だった。
「鎮火します! 氷壁、展開!」
「続いて水魔術、全力で!」
わかる。
理屈はわかる。
森を焼いたら、鎮火は必要だ。
延焼を防ぐのは大事だ。
――でも。
でもだ!!
ぶっぱなす質量、考えよう!?
ドォンッ!!
氷壁が地面から突き上がり、砕け散る。
同時に、水魔術が豪雨のように叩きつけられた。
結果。
もう、おわかりだろう。
視界、ゼロ。
一瞬で、白い霧が立ちこめた。
「え!? 前見えないんだけど!?」
「誰か! 誰かそこにいる!?」
「うわっ、足滑った!!」
わぁわぁわぁわぁわぁー!!
混乱。
混沌。
阿鼻叫喚。
しかも。
ドンッ!
ドゴォンッ!
遅れてやってくる衝撃波。
爆音が耳を打ち、鼓膜がじんじんする。
何が起きているのか、音だけでは判断できない。
(やばいやばいやばい……!!)
反射的に身構えた、その瞬間。
ズシッ。
足元に、どっしりとした感覚。
――重り。
そう。
今日は、重りが2倍だった。
さっきまで呪っていた、その存在が。
(……なんという安心感!!!!)
衝撃波に煽られても、身体が持っていかれない。
地面に吸い付くように踏ん張れる。
身をもって理解した。
ごめん先生!!
鬼畜なんて言って!!
本当にごめんなさい!!
これは必要だった。
これは、命を守る重さだった。
「治癒魔術師! 展開を急げ!!」
よく通る、張り上げた指示の声が霧の向こうから響く。
「はいっ!!」
返事をして、即座に意識を切り替える。
ぼやぼやしてる場合じゃない。
今、前線は地獄だ。
霧の中から、断続的に声が聞こえてくる。
「きゃぁー!!」
「たす……け……っ」
心臓が、ぎゅっと掴まれた。
(来た……!)
走る。
重い。
足が、腕が、悲鳴を上げる。
でも止まれない。
視界は最悪だが、声の方向へ必死に向かう。
足元はぬかるみ、焼けた地面が滑る。
(誰だ!!)
(魔術科を!!)
(このタイミングで!!)
(入れるって許可したやつはぁあああ!!)
内心でキレ散らかしながら、手を伸ばす。
倒れていたのは、他班の治癒魔術師だった。
爆風に煽られ、転倒したらしい。
「大丈夫! 今治す!!」
声をかけると、彼女は震えながら頷いた。
魔力を巡らせ、治癒を展開する。
耳鳴りがまだ残っている。
集中しろ。
雑音を切れ。
「……っ、治れ!!」
白い光が、霧の中で淡く瞬いた。
同時に、また爆音。
ドォォン!!
「ひぃっ!」
思わず身体を低くする。
(もう!!)
(魔術科ぁあああ!!)
でも、怒鳴る暇はない。
次だ。
次の声。
「こっち! 騎士が吹っ飛ばされた!」
走る。
重い。
それでも、走る。
途中、霧の向こうに一瞬だけ見えた影。
青い髪。
迷いのない立ち位置。
――エルンスト。
彼は霧の中でも状況を把握し、前線を支えていた。
一瞬、こちらを確認するように視線が向く。
それだけで、心が落ち着く。
(大丈夫……)
(あの人がいる……)
また走る。
治癒。
回復。
立たせる。
送り出す。
気合い。
本当に、気合いだ。
「アイナ! 後ろ!!」
ヴィルの声が飛ぶ。
振り返るより先に、衝撃波。
ドンッ!!
身体が大きく揺れたが、倒れない。
(重りぃいい!!)
(ありがとう!!)
もう、心の中では重りを崇め始めていた。
混乱の中でも、少しずつ連携は取れていく。
魔術科も、ようやく火力を調整し始めたらしい。
霧が、少しずつ晴れていく。
見え始めた戦場。
焼け野原。
氷の破片。
水たまり。
転がる魔物の死骸。
――ひどい。
でも。
生きてる。
皆、生きてる。
(……地獄だけど)
(生きてるなら、ヨシ!!)
そう思った瞬間、また声が飛んだ。
「治癒、足りてない!」
「次、来るぞ!!」
アイナは深く息を吸った。
(わぁわぁわぁわぁわぁー!!)
心の中で叫びながら。
それでも、走った。
これが、戦闘開始。
魔術科の暴力的火力。
重り2倍地獄。
そして――
治癒魔術師の、真価が問われる戦場だった。
ひと言だけ、いいたい。
アホかぁああああああ!!
――盛大に、心の中で叫んだ。
目の前に広がっている光景を、どう表現すればいいのか。
いや、もう表現は決まっている。
焼け野原である。
焼け野原である。
焼け野原で……何回言わせる気だ!!
さっきまで紅葉が始まりかけていた森は、どこへ行った。
赤や橙の葉が舞う、秋の風情はどこへ消えた。
あるのは――
黒く焦げた地面。
炭化した木。
まだくすぶる煙。
そして、その中心で。
「火炎魔術、第二波いきまーす!!」
元気よく声を張り上げる魔術科。
……やめろ。
ちょっと待て。
今ので十分だろう!?
ゴォォォォォォ――ッ!!
空気が、燃えた。
熱波が一気に押し寄せ、ローブの内側まで熱が入り込む。
思わず顔を覆いながら、足を踏ん張る。
(焼き過ぎだって言ってるだろぉおおお!!)
心の叫びは、爆音にかき消された。
だが、ここからが本番だった。
「鎮火します! 氷壁、展開!」
「続いて水魔術、全力で!」
わかる。
理屈はわかる。
森を焼いたら、鎮火は必要だ。
延焼を防ぐのは大事だ。
――でも。
でもだ!!
ぶっぱなす質量、考えよう!?
ドォンッ!!
氷壁が地面から突き上がり、砕け散る。
同時に、水魔術が豪雨のように叩きつけられた。
結果。
もう、おわかりだろう。
視界、ゼロ。
一瞬で、白い霧が立ちこめた。
「え!? 前見えないんだけど!?」
「誰か! 誰かそこにいる!?」
「うわっ、足滑った!!」
わぁわぁわぁわぁわぁー!!
混乱。
混沌。
阿鼻叫喚。
しかも。
ドンッ!
ドゴォンッ!
遅れてやってくる衝撃波。
爆音が耳を打ち、鼓膜がじんじんする。
何が起きているのか、音だけでは判断できない。
(やばいやばいやばい……!!)
反射的に身構えた、その瞬間。
ズシッ。
足元に、どっしりとした感覚。
――重り。
そう。
今日は、重りが2倍だった。
さっきまで呪っていた、その存在が。
(……なんという安心感!!!!)
衝撃波に煽られても、身体が持っていかれない。
地面に吸い付くように踏ん張れる。
身をもって理解した。
ごめん先生!!
鬼畜なんて言って!!
本当にごめんなさい!!
これは必要だった。
これは、命を守る重さだった。
「治癒魔術師! 展開を急げ!!」
よく通る、張り上げた指示の声が霧の向こうから響く。
「はいっ!!」
返事をして、即座に意識を切り替える。
ぼやぼやしてる場合じゃない。
今、前線は地獄だ。
霧の中から、断続的に声が聞こえてくる。
「きゃぁー!!」
「たす……け……っ」
心臓が、ぎゅっと掴まれた。
(来た……!)
走る。
重い。
足が、腕が、悲鳴を上げる。
でも止まれない。
視界は最悪だが、声の方向へ必死に向かう。
足元はぬかるみ、焼けた地面が滑る。
(誰だ!!)
(魔術科を!!)
(このタイミングで!!)
(入れるって許可したやつはぁあああ!!)
内心でキレ散らかしながら、手を伸ばす。
倒れていたのは、他班の治癒魔術師だった。
爆風に煽られ、転倒したらしい。
「大丈夫! 今治す!!」
声をかけると、彼女は震えながら頷いた。
魔力を巡らせ、治癒を展開する。
耳鳴りがまだ残っている。
集中しろ。
雑音を切れ。
「……っ、治れ!!」
白い光が、霧の中で淡く瞬いた。
同時に、また爆音。
ドォォン!!
「ひぃっ!」
思わず身体を低くする。
(もう!!)
(魔術科ぁあああ!!)
でも、怒鳴る暇はない。
次だ。
次の声。
「こっち! 騎士が吹っ飛ばされた!」
走る。
重い。
それでも、走る。
途中、霧の向こうに一瞬だけ見えた影。
青い髪。
迷いのない立ち位置。
――エルンスト。
彼は霧の中でも状況を把握し、前線を支えていた。
一瞬、こちらを確認するように視線が向く。
それだけで、心が落ち着く。
(大丈夫……)
(あの人がいる……)
また走る。
治癒。
回復。
立たせる。
送り出す。
気合い。
本当に、気合いだ。
「アイナ! 後ろ!!」
ヴィルの声が飛ぶ。
振り返るより先に、衝撃波。
ドンッ!!
身体が大きく揺れたが、倒れない。
(重りぃいい!!)
(ありがとう!!)
もう、心の中では重りを崇め始めていた。
混乱の中でも、少しずつ連携は取れていく。
魔術科も、ようやく火力を調整し始めたらしい。
霧が、少しずつ晴れていく。
見え始めた戦場。
焼け野原。
氷の破片。
水たまり。
転がる魔物の死骸。
――ひどい。
でも。
生きてる。
皆、生きてる。
(……地獄だけど)
(生きてるなら、ヨシ!!)
そう思った瞬間、また声が飛んだ。
「治癒、足りてない!」
「次、来るぞ!!」
アイナは深く息を吸った。
(わぁわぁわぁわぁわぁー!!)
心の中で叫びながら。
それでも、走った。
これが、戦闘開始。
魔術科の暴力的火力。
重り2倍地獄。
そして――
治癒魔術師の、真価が問われる戦場だった。
68
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる