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「ソフィア様。夕食の時間になりました」
「サラ。呼びに来てくれてありがとう。では、行ってくるわ」
夕食の時間になると毎回サラとこのやり取りをする。これから起こる自体を考えると気が重く、まるで戦場に赴く一兵卒の気分だ。
私が食堂に入ると既に三人が席に着いていて、私など気にも留めずに食事を始めようとしているところだった。
「……お待たせしました」
誰からの返答がない。
これもいつものこと。
私は無言のままナプキンを膝にかける。
「私、お腹減っちゃった! 早く持ってきて」
「そうね。ミリア、今日は鴨のロースを出すように料理長に言っておいたわ」
「お母様、本当? 嬉しい。あれ大好きなの。この家に来て初めて食べた時に美味しくてびっくりしちゃった。
平民では口にできないんだもの。やっぱり貴族は違うわよね!」
ミリアの声と共に家族の団欒が始まる。昔からそう。私はいるのに見えない者として扱われている。
誰も私にあえて声をかけない。
「……だったの! 頑張ったんだけど、難しかったわ」
「ふふっ、ミリアったら。今度は間違えないようにね」
「ええ、頑張るわ!お父様も見ていてね!」
「楽しみだ」
弾む家族の会話に私の存在はない。
『家族は三人だけなのよ』
そう聞こえてきそうな態度の父たちに心がズシリと重くなる。
彼らと私の間に出来た分厚い壁。
この時間は私にとって苦痛でしかない。ミリアたちは私に幸せな家族という劇を見せつけている。
そんな劇を流石に五年もの間、見させられていると、食事もマナー違反にならない程度に速くなる。
最近はミリアが部屋に突撃してくる以外は家族の誰とも接する時間は無くなりつつある。
「お姉様。週末、ノア様と街へ行きましょう! 今、流行りのケーキを食べに行きたいの。ノア様はフルーツの入ったケーキが好きでしょう? 一緒に食べようって。それにドレスも髪飾りも買ってくれるって約束したの」
突然会話に私を交ぜたと思えば……。
既に約束まで取り付けているのね。ため息を吐きたい気持ちを我慢して答える。
「ノア様は私の婚約者なのよ? ノア様と私が街へ行くとして、何故、貴女を誘わないといけないのかしら」
ミリアにとっては私を理由にしてノア様に会いたいだけ。
「ソフィアさん。連れて行ってあげればいいじゃない。ミリアとノア様はとても仲が良いのだから問題ないでしょう? ミリアのドレスを買ってもらいなさい」
珍しく義母がニコリと笑顔で口にした。
義母は婚約者をミリアに交代させ、伯爵家の跡を継がせるつもりなのは明白だ。
父の前ではおくびにも出さないけれど、父の居ないところでは横柄な態度の義母はミリアを使って伯爵家を乗っ取ろうとでも考えているのだろう。
義母の言葉にまたため息を吐きそうになる。
「ミリア、お義母様が言うほど仲が良いのなら私などを誘わずにノア様とミリアで行ってくればいいわ。私の婚約者と二人きりでするデートはきっと楽しいでしょうね」
「お姉様。分かりましたわ! お姉様の分も楽しんできますねっ!」
分かりやすい嫌味を言ったつもりだが、やはりミリアには通じていない様子ね。私の嫌味に流石の父も眉間に皺が寄っている。
「ミリア、止めなさい。ノア君はソフィアの婚約者だ。お前の婚約者ではない」
「ずるいわ! お姉様ばかり! 私もノア様と街へ行きたいの。だってノア様とお約束だってしたんだもの」
ミリアは珍しく父に口答えしている。ミリアの言葉を聞いているだけで頭が痛くなって食欲も失せてくる。
「週末は、お祖父様に呼ばれているから私は街へは行かないわ。私の言葉も理解も出来ないミリアは勝手にすればいいわ」
私はマナー違反であるけれど、ミリアにそう言い残し、席を立った。
父は何か言おうとしているようだったが、私は席を立った私は振り返らずそのまま退室する。
「サラ、口直しにお茶が飲みたいわ」
「かしこまりました」
自室に戻るとサラは何も言わずお茶を入れてくれる。
本当にため息しか出ない。
ミリアは数年前まで平民だったとはいえ、知識も教養も身に付けず、他人の婚約者と仲良くするのは当たり前。
面倒な事から逃げてばかり。ちやほやして貰うために令息達と出かける。あれで貴族をやっていけるわけがない。
義母はミリアを使いノア様を取り込もうとしているが、ノア様は気づいていない。ノア様は私が注意すればするほど彼は頑なにミリアを庇ってしまう。
……彼にとっての私は何なのかしら。
ズシリと重くなった気持ちのままソファで本を開いていると、扉がノックされた。
「ソフィアさん、入っていいかしら?」
「どうぞ」
こんな時間に義母が部屋に来るなんて何かあるのかしら?
疑問に思いながらも警戒しつつ義母を部屋に入れる。
「サラ。呼びに来てくれてありがとう。では、行ってくるわ」
夕食の時間になると毎回サラとこのやり取りをする。これから起こる自体を考えると気が重く、まるで戦場に赴く一兵卒の気分だ。
私が食堂に入ると既に三人が席に着いていて、私など気にも留めずに食事を始めようとしているところだった。
「……お待たせしました」
誰からの返答がない。
これもいつものこと。
私は無言のままナプキンを膝にかける。
「私、お腹減っちゃった! 早く持ってきて」
「そうね。ミリア、今日は鴨のロースを出すように料理長に言っておいたわ」
「お母様、本当? 嬉しい。あれ大好きなの。この家に来て初めて食べた時に美味しくてびっくりしちゃった。
平民では口にできないんだもの。やっぱり貴族は違うわよね!」
ミリアの声と共に家族の団欒が始まる。昔からそう。私はいるのに見えない者として扱われている。
誰も私にあえて声をかけない。
「……だったの! 頑張ったんだけど、難しかったわ」
「ふふっ、ミリアったら。今度は間違えないようにね」
「ええ、頑張るわ!お父様も見ていてね!」
「楽しみだ」
弾む家族の会話に私の存在はない。
『家族は三人だけなのよ』
そう聞こえてきそうな態度の父たちに心がズシリと重くなる。
彼らと私の間に出来た分厚い壁。
この時間は私にとって苦痛でしかない。ミリアたちは私に幸せな家族という劇を見せつけている。
そんな劇を流石に五年もの間、見させられていると、食事もマナー違反にならない程度に速くなる。
最近はミリアが部屋に突撃してくる以外は家族の誰とも接する時間は無くなりつつある。
「お姉様。週末、ノア様と街へ行きましょう! 今、流行りのケーキを食べに行きたいの。ノア様はフルーツの入ったケーキが好きでしょう? 一緒に食べようって。それにドレスも髪飾りも買ってくれるって約束したの」
突然会話に私を交ぜたと思えば……。
既に約束まで取り付けているのね。ため息を吐きたい気持ちを我慢して答える。
「ノア様は私の婚約者なのよ? ノア様と私が街へ行くとして、何故、貴女を誘わないといけないのかしら」
ミリアにとっては私を理由にしてノア様に会いたいだけ。
「ソフィアさん。連れて行ってあげればいいじゃない。ミリアとノア様はとても仲が良いのだから問題ないでしょう? ミリアのドレスを買ってもらいなさい」
珍しく義母がニコリと笑顔で口にした。
義母は婚約者をミリアに交代させ、伯爵家の跡を継がせるつもりなのは明白だ。
父の前ではおくびにも出さないけれど、父の居ないところでは横柄な態度の義母はミリアを使って伯爵家を乗っ取ろうとでも考えているのだろう。
義母の言葉にまたため息を吐きそうになる。
「ミリア、お義母様が言うほど仲が良いのなら私などを誘わずにノア様とミリアで行ってくればいいわ。私の婚約者と二人きりでするデートはきっと楽しいでしょうね」
「お姉様。分かりましたわ! お姉様の分も楽しんできますねっ!」
分かりやすい嫌味を言ったつもりだが、やはりミリアには通じていない様子ね。私の嫌味に流石の父も眉間に皺が寄っている。
「ミリア、止めなさい。ノア君はソフィアの婚約者だ。お前の婚約者ではない」
「ずるいわ! お姉様ばかり! 私もノア様と街へ行きたいの。だってノア様とお約束だってしたんだもの」
ミリアは珍しく父に口答えしている。ミリアの言葉を聞いているだけで頭が痛くなって食欲も失せてくる。
「週末は、お祖父様に呼ばれているから私は街へは行かないわ。私の言葉も理解も出来ないミリアは勝手にすればいいわ」
私はマナー違反であるけれど、ミリアにそう言い残し、席を立った。
父は何か言おうとしているようだったが、私は席を立った私は振り返らずそのまま退室する。
「サラ、口直しにお茶が飲みたいわ」
「かしこまりました」
自室に戻るとサラは何も言わずお茶を入れてくれる。
本当にため息しか出ない。
ミリアは数年前まで平民だったとはいえ、知識も教養も身に付けず、他人の婚約者と仲良くするのは当たり前。
面倒な事から逃げてばかり。ちやほやして貰うために令息達と出かける。あれで貴族をやっていけるわけがない。
義母はミリアを使いノア様を取り込もうとしているが、ノア様は気づいていない。ノア様は私が注意すればするほど彼は頑なにミリアを庇ってしまう。
……彼にとっての私は何なのかしら。
ズシリと重くなった気持ちのままソファで本を開いていると、扉がノックされた。
「ソフィアさん、入っていいかしら?」
「どうぞ」
こんな時間に義母が部屋に来るなんて何かあるのかしら?
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