26 / 35
26カインディール国王妃Side
しおりを挟む
「エリス様、シューンエイゼットの商人が後宮に来られました」
「マート、通してちょうだい」
執事のマートに指示をする。ここは後宮の商談室。使用人たちはシューンエイゼットで流行っている服や化粧品、香などを綺麗に並べていた。
今はこのような品物が流行っているのね。
その様子を私は目で楽しんだ後、席に座り、商人の長を待った。
「エリス様、お待たせしました。当商会一押しの品でございます」
黒髪の男は気さくな笑顔で飾り気のない木箱を見せた。
「相変わらずつまらない男ね。リヴィアは喜んで付いて来てくれるのかしら?」
「これは手痛いですね。リヴィア様が無事なのもエリス様のおかげです」
私は木の箱を開けて書簡を読む。
目の前にいる商人の格好をしたこの男はシューンエイゼット国の第五王子アレン・ドルフ・ケネットだ。
彼は王族の中でも一番の切れ者だと言われている。
普段はこうして商人だったり、騎士だったりと姿を変えて様々な国の情報を得ている。暗部のような仕事を率先して行っている彼は王族の中でも異端児だろう。
過去に情報収集に失敗し、怪我を負った王子を助けたのがリヴィアだったらしい。
神のいたずらなのかしらね。
書簡には現在貴国で保護しているケルノッティ国の王女リヴィア・ジョール・ケルノッティを貰い受ける。拒否すれば国ごと奪い取ると書いてある。
もちろん協力すれば見返りもあるようね。
ほんの数年前の私であれば鼻で笑っていただろう。
だが私一人が頑張っていても限界がある。
現在の国内情勢や王族の内情を知った上でこうして私に書簡を持ってきたのだ。
この国の王であるヴィリタスは必死に隠しているつもりでも王都に愛人がいるのは知っている。
知った上で放置していた。
だが、愛人が出来てからのヴィリタスは仕事を疎かにするようになり、愛人の我儘で散財し、一方的な物の決め方が目に余るようになってきた。
もちろん宰相や大臣、他の貴族達も苦言を呈していたけれど、愛に溺れた陛下には効果がなかった。
王太子夫婦はというと、凡庸であり、国を治める器ではない。
第二王子のドルクに至っては論外。いくら苦言を呈しても聞く耳を持たないし、愛妾たちは王宮内を我が物顔で闊歩し、ところ構わずおしゃべりをしている。
どこから情報が漏れるか危険性を考えていないなんて我が息子ながら本当に失望しかない。
私はある日、疲労が限界に達し、執務室で倒れた。
その日を境に最低限の政務をこなすだけにしてあとはこうして後宮に引きこもっている。
それでも貴族や宰相は相談事を持ち込んできてゆっくりしている間はないのが現状だ。
誰かが後宮に引っ越したのは愛人と過ごすためだなんて言っているが馬鹿馬鹿しい。
この国を任せるのなら第三王子のフェルツしかいない。だが、フェルツは辺境伯へあっさりと婿入りしてしまった。この状況を打破する案は見当たらない。
貴族達の不満が募っている今、遅かれ早かれ貴族の誰かが謀反を起こし、王族は皆処刑となるだろう。
「どちらにせよ、シューンエイゼットの王はこの国を攻め落とす気なのでしょう? 民に犠牲が出ないのであれば協力をしてもいいわ。私を含め王族は全て処刑しても構わない。ああ、ドルクの妃シャーロットだけは離縁させるので生かしてほしいわ。それが出来るのなら、ね」
「エリス様ならそう仰ると思いました。こちらとしても被害が最低限になるよう動きますよ」
私はサラサラと手紙を書くと、アレンは笑顔で木箱に仕舞った。
「あなたの恋が成就するといいわね?」
「神々はきっと私に味方してくれると信じています」
アレン王子はそうして書簡を持って国に帰った。
「マート、疲れたわ。お茶を淹れてちょうだい」
「エリス様、私はエリス様に拾っていただいたことを心から感謝しております。最後までどこへなりとも付いていきますよ」
執事のマートは私の実家から連れてきた従兄弟だ。
伯爵家の長男で家を継ぐ予定だったが、幼い頃に流行り病で熱を出し、子を望むことは難しいと言われ、家族から厄介者として扱われていたのを私が呼び寄せた。
マートにとってもここは安心して過ごせる場だと喜んで仕えてくれている。
「……マート、いつもありがとう」
「マート、通してちょうだい」
執事のマートに指示をする。ここは後宮の商談室。使用人たちはシューンエイゼットで流行っている服や化粧品、香などを綺麗に並べていた。
今はこのような品物が流行っているのね。
その様子を私は目で楽しんだ後、席に座り、商人の長を待った。
「エリス様、お待たせしました。当商会一押しの品でございます」
黒髪の男は気さくな笑顔で飾り気のない木箱を見せた。
「相変わらずつまらない男ね。リヴィアは喜んで付いて来てくれるのかしら?」
「これは手痛いですね。リヴィア様が無事なのもエリス様のおかげです」
私は木の箱を開けて書簡を読む。
目の前にいる商人の格好をしたこの男はシューンエイゼット国の第五王子アレン・ドルフ・ケネットだ。
彼は王族の中でも一番の切れ者だと言われている。
普段はこうして商人だったり、騎士だったりと姿を変えて様々な国の情報を得ている。暗部のような仕事を率先して行っている彼は王族の中でも異端児だろう。
過去に情報収集に失敗し、怪我を負った王子を助けたのがリヴィアだったらしい。
神のいたずらなのかしらね。
書簡には現在貴国で保護しているケルノッティ国の王女リヴィア・ジョール・ケルノッティを貰い受ける。拒否すれば国ごと奪い取ると書いてある。
もちろん協力すれば見返りもあるようね。
ほんの数年前の私であれば鼻で笑っていただろう。
だが私一人が頑張っていても限界がある。
現在の国内情勢や王族の内情を知った上でこうして私に書簡を持ってきたのだ。
この国の王であるヴィリタスは必死に隠しているつもりでも王都に愛人がいるのは知っている。
知った上で放置していた。
だが、愛人が出来てからのヴィリタスは仕事を疎かにするようになり、愛人の我儘で散財し、一方的な物の決め方が目に余るようになってきた。
もちろん宰相や大臣、他の貴族達も苦言を呈していたけれど、愛に溺れた陛下には効果がなかった。
王太子夫婦はというと、凡庸であり、国を治める器ではない。
第二王子のドルクに至っては論外。いくら苦言を呈しても聞く耳を持たないし、愛妾たちは王宮内を我が物顔で闊歩し、ところ構わずおしゃべりをしている。
どこから情報が漏れるか危険性を考えていないなんて我が息子ながら本当に失望しかない。
私はある日、疲労が限界に達し、執務室で倒れた。
その日を境に最低限の政務をこなすだけにしてあとはこうして後宮に引きこもっている。
それでも貴族や宰相は相談事を持ち込んできてゆっくりしている間はないのが現状だ。
誰かが後宮に引っ越したのは愛人と過ごすためだなんて言っているが馬鹿馬鹿しい。
この国を任せるのなら第三王子のフェルツしかいない。だが、フェルツは辺境伯へあっさりと婿入りしてしまった。この状況を打破する案は見当たらない。
貴族達の不満が募っている今、遅かれ早かれ貴族の誰かが謀反を起こし、王族は皆処刑となるだろう。
「どちらにせよ、シューンエイゼットの王はこの国を攻め落とす気なのでしょう? 民に犠牲が出ないのであれば協力をしてもいいわ。私を含め王族は全て処刑しても構わない。ああ、ドルクの妃シャーロットだけは離縁させるので生かしてほしいわ。それが出来るのなら、ね」
「エリス様ならそう仰ると思いました。こちらとしても被害が最低限になるよう動きますよ」
私はサラサラと手紙を書くと、アレンは笑顔で木箱に仕舞った。
「あなたの恋が成就するといいわね?」
「神々はきっと私に味方してくれると信じています」
アレン王子はそうして書簡を持って国に帰った。
「マート、疲れたわ。お茶を淹れてちょうだい」
「エリス様、私はエリス様に拾っていただいたことを心から感謝しております。最後までどこへなりとも付いていきますよ」
執事のマートは私の実家から連れてきた従兄弟だ。
伯爵家の長男で家を継ぐ予定だったが、幼い頃に流行り病で熱を出し、子を望むことは難しいと言われ、家族から厄介者として扱われていたのを私が呼び寄せた。
マートにとってもここは安心して過ごせる場だと喜んで仕えてくれている。
「……マート、いつもありがとう」
1,327
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか
れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。
婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。
両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。
バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。
*今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる