8 / 35
8 ある男の心 ?視点
しおりを挟む
幼い頃、平民の母が亡くなり、父が貴族だったため、俺は父に引き取られ貴族となった。
引き取られたのはいいが、夫人や異母兄弟たちからのいじめられてよく怪我をしていたし、よく食事も抜かれていた。
俺には逃げる術もなくてただ耐えるだけの毎日。逃げたら逃げたで、また叩かれ、食事を抜かれる。
そんな辛い日々が何年も続いた。
ある日のこと、上位貴族が集まるお茶会が王宮で行われることになった。
この時、第二王子の婚約者や側近を決めるため、同じ年頃の令息や令嬢たちが呼ばれたんだ。
俺は夫人に文句を言われながらも公爵家の体面を保つために一張羅を仕立てられ、お茶会に参加した。
初めてのお茶会にマナーもわからずクスクスと笑われ、俺は逃げるように席を外し、中庭の奥にある噴水のある場所で一人時間を過ごしていた。
そこで俺は令息たちのからかいの対象になった。
妾の子だと言って同年代の令息たちは俺を笑い、噴水に突き落とそうとしていた時、小さな令嬢が目の前に現れる。
俺が九歳だから彼女は当時、五歳。あどけなさの残る子供だったのを今でも覚えている。
「ここに綺麗な噴水があると聞いてきたのに。みんなで何をしているの?」
「ハッ。ベルジエ家の子か。チビ、お前に用はない。弱っちい女のお前はあっちにいけよ」
一人の令息が馬鹿にしたように彼女に言うと、彼女はクスクスと笑い出した。
「私が弱っちい? 面白いね! 試してみよう?」
彼女は泣きだすどころか笑顔で彼らに挑もうとしている。幼いながらの無鉄砲さなんだろう。
ここにいる令息たちは第二王子の側近になるべくこの場にいる。騎士を目指している者や文官でもある程度剣術も嗜んでいるのだ。
小さな女の子がそんな彼らにかなうはずはない。
「は? 怪我したくなかったらあっちにいけ」
そう一人が声を掛けた時、彼女は笑顔で彼らに答えた。
「だって私より強い人に会ったことないもん。どうせ貴方達も弱いんでしょう?」
まさかこんなに小さい女の子が令息たちに喧嘩を売るとは思っていなかった。俺は彼女を止めに入ろうとした時、彼女満面の笑みを浮かべ、動き出した。
「いっくよー」
言葉と同時に素早い動きで令息たちを一気に叩きのめした。
彼女は幼いながらも魔力で身体強化し、自分より身体の大きな相手を難なく倒すと、不思議そうな顔をしていた。
「いってぇな!! やっちまえ!」
なんて言葉は聞こえてこなかった。
その小さな令嬢は瞬時に彼らの意識を奪っていたからだ。俺には彼女がどんな動きをしたのか理解できず、衝撃を受けた。
「大丈夫? お兄さんかっこいいね。でももう少し鍛えた方がかっこいいと思う」
「お嬢様、ここにいらしたのですか? 早く戻りますよ」
彼女を探していた従者が呆れたような顔をしながら中庭に戻るように話をする。
「はーい。じゃあね!」
彼女はそう言ってくるりと向きを変えて従者に手を引かれて去っていった。
彼女にとってはただ力比べをしたかっただけかもしれない。
彼女の動きを見て全くわからなかったのが俺にとっては衝撃的だった。
幼い女の子の動きとかけ離れていた。
凄い。
こんなに小さくて可愛い女の子が自分より身体の大きな男の子を一瞬で倒すなんて。
全身が震えた。
俺は彼女が去ってからも当分その衝撃で動くことができなかったのを今でも覚えている。
その後すぐに一緒に来ていた母君に先ほど受けた衝撃を話し、「彼女をもっと知りたい。彼女の傍にいたい」と話すと、彼女の母は『強くなったらね』と笑っていた。
俺も騎士を目指して訓練すれば彼女のように動くことができるのだろうか。
強くなりたい。
そう考えるようになり、翌日からは俺を馬鹿にしてきた教師に頭を下げ、俺は人が変わったように剣術の練習を始めた。
人と同じことをしていては彼女に追いつけない。
もちろん勉強も必死に頑張った。学生の頃は『からかいがいのないつまらない男だ』という評価だったが、俺にはクラスメイトの評価などどうでもよかった。
何年もの間、歯を食いしばり、必死になって彼女の影を追いかけた結果、国中で一番の猛者が集まっているという噂の王宮魔獣騎士団に入団できた。
俺自身が強くなると周りの評価も変わってきた。
この頃にもなると夫人も義兄たちも以前ほど手を出してくることは無くなり、嫌味を言うだけになった。
魔獣騎士団に入ると自分がいかに狭い世界で生きてきたのかを思い知らされる。
このままではだめだ。
もっと強い男になる。
そう思い、団長へ魔獣討伐の前線に立ちたいと願った。
父と仲のいい団長は渋い顔をしながら「そんなに望むのならまずは南の辺境伯領で修行してこい」と許可をもらい南の辺境伯領へ半年の間、赴任することになった。
「父上、魔獣討伐のため南の辺境伯領へ半年ほど赴任してまいります」
「……心配だ。お前が望むのなら止めはしないが、無理はするな」
「もちろんです」
彼女の活躍を噂で聞く度に「俺は彼女に相応しい男になっただろうか」と自問自答を繰り返している。
引き取られたのはいいが、夫人や異母兄弟たちからのいじめられてよく怪我をしていたし、よく食事も抜かれていた。
俺には逃げる術もなくてただ耐えるだけの毎日。逃げたら逃げたで、また叩かれ、食事を抜かれる。
そんな辛い日々が何年も続いた。
ある日のこと、上位貴族が集まるお茶会が王宮で行われることになった。
この時、第二王子の婚約者や側近を決めるため、同じ年頃の令息や令嬢たちが呼ばれたんだ。
俺は夫人に文句を言われながらも公爵家の体面を保つために一張羅を仕立てられ、お茶会に参加した。
初めてのお茶会にマナーもわからずクスクスと笑われ、俺は逃げるように席を外し、中庭の奥にある噴水のある場所で一人時間を過ごしていた。
そこで俺は令息たちのからかいの対象になった。
妾の子だと言って同年代の令息たちは俺を笑い、噴水に突き落とそうとしていた時、小さな令嬢が目の前に現れる。
俺が九歳だから彼女は当時、五歳。あどけなさの残る子供だったのを今でも覚えている。
「ここに綺麗な噴水があると聞いてきたのに。みんなで何をしているの?」
「ハッ。ベルジエ家の子か。チビ、お前に用はない。弱っちい女のお前はあっちにいけよ」
一人の令息が馬鹿にしたように彼女に言うと、彼女はクスクスと笑い出した。
「私が弱っちい? 面白いね! 試してみよう?」
彼女は泣きだすどころか笑顔で彼らに挑もうとしている。幼いながらの無鉄砲さなんだろう。
ここにいる令息たちは第二王子の側近になるべくこの場にいる。騎士を目指している者や文官でもある程度剣術も嗜んでいるのだ。
小さな女の子がそんな彼らにかなうはずはない。
「は? 怪我したくなかったらあっちにいけ」
そう一人が声を掛けた時、彼女は笑顔で彼らに答えた。
「だって私より強い人に会ったことないもん。どうせ貴方達も弱いんでしょう?」
まさかこんなに小さい女の子が令息たちに喧嘩を売るとは思っていなかった。俺は彼女を止めに入ろうとした時、彼女満面の笑みを浮かべ、動き出した。
「いっくよー」
言葉と同時に素早い動きで令息たちを一気に叩きのめした。
彼女は幼いながらも魔力で身体強化し、自分より身体の大きな相手を難なく倒すと、不思議そうな顔をしていた。
「いってぇな!! やっちまえ!」
なんて言葉は聞こえてこなかった。
その小さな令嬢は瞬時に彼らの意識を奪っていたからだ。俺には彼女がどんな動きをしたのか理解できず、衝撃を受けた。
「大丈夫? お兄さんかっこいいね。でももう少し鍛えた方がかっこいいと思う」
「お嬢様、ここにいらしたのですか? 早く戻りますよ」
彼女を探していた従者が呆れたような顔をしながら中庭に戻るように話をする。
「はーい。じゃあね!」
彼女はそう言ってくるりと向きを変えて従者に手を引かれて去っていった。
彼女にとってはただ力比べをしたかっただけかもしれない。
彼女の動きを見て全くわからなかったのが俺にとっては衝撃的だった。
幼い女の子の動きとかけ離れていた。
凄い。
こんなに小さくて可愛い女の子が自分より身体の大きな男の子を一瞬で倒すなんて。
全身が震えた。
俺は彼女が去ってからも当分その衝撃で動くことができなかったのを今でも覚えている。
その後すぐに一緒に来ていた母君に先ほど受けた衝撃を話し、「彼女をもっと知りたい。彼女の傍にいたい」と話すと、彼女の母は『強くなったらね』と笑っていた。
俺も騎士を目指して訓練すれば彼女のように動くことができるのだろうか。
強くなりたい。
そう考えるようになり、翌日からは俺を馬鹿にしてきた教師に頭を下げ、俺は人が変わったように剣術の練習を始めた。
人と同じことをしていては彼女に追いつけない。
もちろん勉強も必死に頑張った。学生の頃は『からかいがいのないつまらない男だ』という評価だったが、俺にはクラスメイトの評価などどうでもよかった。
何年もの間、歯を食いしばり、必死になって彼女の影を追いかけた結果、国中で一番の猛者が集まっているという噂の王宮魔獣騎士団に入団できた。
俺自身が強くなると周りの評価も変わってきた。
この頃にもなると夫人も義兄たちも以前ほど手を出してくることは無くなり、嫌味を言うだけになった。
魔獣騎士団に入ると自分がいかに狭い世界で生きてきたのかを思い知らされる。
このままではだめだ。
もっと強い男になる。
そう思い、団長へ魔獣討伐の前線に立ちたいと願った。
父と仲のいい団長は渋い顔をしながら「そんなに望むのならまずは南の辺境伯領で修行してこい」と許可をもらい南の辺境伯領へ半年の間、赴任することになった。
「父上、魔獣討伐のため南の辺境伯領へ半年ほど赴任してまいります」
「……心配だ。お前が望むのなら止めはしないが、無理はするな」
「もちろんです」
彼女の活躍を噂で聞く度に「俺は彼女に相応しい男になっただろうか」と自問自答を繰り返している。
465
あなたにおすすめの小説
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。
しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。
同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。
その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。
アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。
ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。
フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。
フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。
従姉の子を義母から守るために婚約しました。
しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。
しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。
再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。
シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。
ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。
当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって…
歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。
存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜
小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」
私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。
そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。
しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。
二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ
だが、自分にせまる命の危機ーー
逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。
残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。
私の愛する人がどうか幸せになりますように...
そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか?
孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
夢を現実にしないための正しいマニュアル
しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。
現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事?
処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。
婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。
王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!
藤野ひま
ファンタジー
わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。
初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!
夫や、かの女性は王城でお元気かしら?
わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!
〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる