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30 報告書
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「ジネットお嬢様! 王都の邸から緊急の連絡が入りました」
執務をしていた私は手を止めた。
まさか、という気持ち。鼓動が早鐘を打つのがわかる。
「王都の邸前で一台の馬車が何者かの襲撃がありました。ジネットお嬢様の指示で邸周辺の警備をしていた者たちが襲撃犯を制圧しました。襲われていたのはオルガ・サラフィス公爵子息で、背中を中心に大きく切られており現在邸内で治療中であります」
「オルガ様が!?」
報告を聞いて居ても立ってもいられず、私は立ち上がると、その勢いでカシャンと、机に置いてあった茶器の音が鳴った。
「お嬢様、落ち着いて下さい」
ケイティの言葉に我に返り、椅子に座りなおす。
「オルガ様の容態は?」
「傷は深く、意識を失っておりますが、幸いなことに警備の者がすぐに気づき、邸に運び、治療を行ったため、後遺症は残らず回復するだろうと、治療師からの報告がありました」
「……よかった。襲撃者の制圧ということは捕えているのよね? 襲撃者の状況は?」
「制圧した人数は六名、逃亡した七名も全員捕えました。うち五名は現場で殺害しました。捕えた者は邸の地下牢に繋いでおります。今のところ皆、金目的で襲ったと話す者ばかりのようです」
「……そう。私の旦那様になる人に傷を負わせた者を許してはいけないわね。何をやってもいいわ。きっちりと処罰しなさい」
「畏まりました」
従者に指示を出し、父たちに緊急用のメモを送る。
今、王都ではどのような状況になっているのだろうか。父たちは陛下と会っているはずだが。
父たちが不在の隙を付いて我が家の前で婚約者を襲撃してくるということは、我が家を敵に回しても平気だと踏んでのことだろうか。
ともかく、オルガ様が心配で今すぐにでも王都の邸に向かいたい。
けれど、次期侯爵として領地を任されている今、ここを離れることはできない。
もどかしい思いに苦しくなる。
今すぐにでも彼の元へ駆け付けたい。
ギュッと目をつむり、心を落ち着かせる。
大丈夫、彼は大丈夫だと。
すぐに母から王宮で行われた話し合いの様子が記された書類が送られてきた。
私は震える手を抑えながら書類に目を通す。
報告書には、オルガ様は王命でセレスティナ王女と婚姻させられる寸前に、私の安全を確かめた後、王女が私を陥れようとした証拠を提出したとある。
それでオルガ様は狙われたのね。
心配してくれたことが素直に嬉しいと感じてしまう。
でもセレスティナ王女がオルガ様を狙ったとは考えにくい。
王宮は危険だと感じたオルガ様はすぐに行動に出たはずなのに襲撃にあった。あのまま王宮内であれば確実に殺されていたに違いない。
報告書から読み取れる事実に苛立ちを覚える。許せないわ。
父は邸から直接オルガ様の襲撃の報告を受けたようだ。すぐに行動を移し、母は邸に戻って直接彼の状況を見て判断した後、連絡すると書いている。
……私は待つしかない。
待つという時間がこれほど苦しいものだなんて思ってもいなかった。
もどかしい。
父からの連絡はまだだろうか。
私は執務やマリリンと気晴らしに散歩に出かけてみたが、彼のことが気になり手に付かない。
マリリンも私の様子を察して心配してくれている。
そうこうしているうちに母が邸へとも戻ってきた。
「お母様、お帰りなさい」
「ジネット、ただいま。待たせたわね」
「彼は、オルガ様は大丈夫なのですか?」
私が心配していた事を聞くと、母は笑顔になった。
「あらあら、ジネット。恋する乙女ね。オルガ君は回復しているわ。ただ、彼はまだ狙われているから当分は邸から動くことができない」
「お母様ったら。でも、よかった。お父様は大丈夫なのでしょうか?」
私は母に揶揄われ、少し顔に熱を持ちながら隠すように父の心配をする。
「ジョセフなら何の問題もないわ。うちが敵に回れば困るのは王家だもの。今回、オルガ君のおかげで王妃様や王太子殿下は彼女を庇えなくなった。王女は廃嫡させて最果ての修道院へ向かわせるかでしょうね」
「罪が軽いです。私は許したくないです。あの王女はこれまでに令嬢達の将来を奪ってきた。私のことだけだとしても。オルガ様だって王女がいなければ命を狙われることはなかった」
「ふふっ。ジネットならそう言うと思ったわ。だからね、次期侯爵としてセレスティナ王女の罪状を言い渡す場に立ち会えるように取り計らったの。これからすぐに準備をして王都に向かいなさい」
「わかりました」
母は今までにないほどの笑みを浮かべている。相当に怒っているのだろう。私だって許したくない。こちらとしてもきっちりと落とし前を付ける必要がある。
私はマリリンに乗って王都へと向かった。
「マリリン、つまらないだろうけれど、しばらくここに居てちょうだい」
「グルルッ」
私はマリリンの鼻を撫でて邸の中に入る。
「ジネットお嬢様、侯爵家の力を見せましょう」
「ええ、そうね。舐められては困るわ」
ジネットは一礼し、準備をしに奥の部屋へと向かった。
「オルガ様はどの部屋に?」
「お嬢様のお部屋の隣で静養しておられます」
邸の従者に聞いて私はオルガ様がいる部屋へ早足で歩いていく。
怪我は大丈夫だろうか。
逸る気持ちを抑えて扉を叩くと、中から低い声が聞こえてきた。
執務をしていた私は手を止めた。
まさか、という気持ち。鼓動が早鐘を打つのがわかる。
「王都の邸前で一台の馬車が何者かの襲撃がありました。ジネットお嬢様の指示で邸周辺の警備をしていた者たちが襲撃犯を制圧しました。襲われていたのはオルガ・サラフィス公爵子息で、背中を中心に大きく切られており現在邸内で治療中であります」
「オルガ様が!?」
報告を聞いて居ても立ってもいられず、私は立ち上がると、その勢いでカシャンと、机に置いてあった茶器の音が鳴った。
「お嬢様、落ち着いて下さい」
ケイティの言葉に我に返り、椅子に座りなおす。
「オルガ様の容態は?」
「傷は深く、意識を失っておりますが、幸いなことに警備の者がすぐに気づき、邸に運び、治療を行ったため、後遺症は残らず回復するだろうと、治療師からの報告がありました」
「……よかった。襲撃者の制圧ということは捕えているのよね? 襲撃者の状況は?」
「制圧した人数は六名、逃亡した七名も全員捕えました。うち五名は現場で殺害しました。捕えた者は邸の地下牢に繋いでおります。今のところ皆、金目的で襲ったと話す者ばかりのようです」
「……そう。私の旦那様になる人に傷を負わせた者を許してはいけないわね。何をやってもいいわ。きっちりと処罰しなさい」
「畏まりました」
従者に指示を出し、父たちに緊急用のメモを送る。
今、王都ではどのような状況になっているのだろうか。父たちは陛下と会っているはずだが。
父たちが不在の隙を付いて我が家の前で婚約者を襲撃してくるということは、我が家を敵に回しても平気だと踏んでのことだろうか。
ともかく、オルガ様が心配で今すぐにでも王都の邸に向かいたい。
けれど、次期侯爵として領地を任されている今、ここを離れることはできない。
もどかしい思いに苦しくなる。
今すぐにでも彼の元へ駆け付けたい。
ギュッと目をつむり、心を落ち着かせる。
大丈夫、彼は大丈夫だと。
すぐに母から王宮で行われた話し合いの様子が記された書類が送られてきた。
私は震える手を抑えながら書類に目を通す。
報告書には、オルガ様は王命でセレスティナ王女と婚姻させられる寸前に、私の安全を確かめた後、王女が私を陥れようとした証拠を提出したとある。
それでオルガ様は狙われたのね。
心配してくれたことが素直に嬉しいと感じてしまう。
でもセレスティナ王女がオルガ様を狙ったとは考えにくい。
王宮は危険だと感じたオルガ様はすぐに行動に出たはずなのに襲撃にあった。あのまま王宮内であれば確実に殺されていたに違いない。
報告書から読み取れる事実に苛立ちを覚える。許せないわ。
父は邸から直接オルガ様の襲撃の報告を受けたようだ。すぐに行動を移し、母は邸に戻って直接彼の状況を見て判断した後、連絡すると書いている。
……私は待つしかない。
待つという時間がこれほど苦しいものだなんて思ってもいなかった。
もどかしい。
父からの連絡はまだだろうか。
私は執務やマリリンと気晴らしに散歩に出かけてみたが、彼のことが気になり手に付かない。
マリリンも私の様子を察して心配してくれている。
そうこうしているうちに母が邸へとも戻ってきた。
「お母様、お帰りなさい」
「ジネット、ただいま。待たせたわね」
「彼は、オルガ様は大丈夫なのですか?」
私が心配していた事を聞くと、母は笑顔になった。
「あらあら、ジネット。恋する乙女ね。オルガ君は回復しているわ。ただ、彼はまだ狙われているから当分は邸から動くことができない」
「お母様ったら。でも、よかった。お父様は大丈夫なのでしょうか?」
私は母に揶揄われ、少し顔に熱を持ちながら隠すように父の心配をする。
「ジョセフなら何の問題もないわ。うちが敵に回れば困るのは王家だもの。今回、オルガ君のおかげで王妃様や王太子殿下は彼女を庇えなくなった。王女は廃嫡させて最果ての修道院へ向かわせるかでしょうね」
「罪が軽いです。私は許したくないです。あの王女はこれまでに令嬢達の将来を奪ってきた。私のことだけだとしても。オルガ様だって王女がいなければ命を狙われることはなかった」
「ふふっ。ジネットならそう言うと思ったわ。だからね、次期侯爵としてセレスティナ王女の罪状を言い渡す場に立ち会えるように取り計らったの。これからすぐに準備をして王都に向かいなさい」
「わかりました」
母は今までにないほどの笑みを浮かべている。相当に怒っているのだろう。私だって許したくない。こちらとしてもきっちりと落とし前を付ける必要がある。
私はマリリンに乗って王都へと向かった。
「マリリン、つまらないだろうけれど、しばらくここに居てちょうだい」
「グルルッ」
私はマリリンの鼻を撫でて邸の中に入る。
「ジネットお嬢様、侯爵家の力を見せましょう」
「ええ、そうね。舐められては困るわ」
ジネットは一礼し、準備をしに奥の部屋へと向かった。
「オルガ様はどの部屋に?」
「お嬢様のお部屋の隣で静養しておられます」
邸の従者に聞いて私はオルガ様がいる部屋へ早足で歩いていく。
怪我は大丈夫だろうか。
逸る気持ちを抑えて扉を叩くと、中から低い声が聞こえてきた。
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