男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ

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「シャリア・カークス伯爵令嬢、改め、シャリア・メルヴォード様。ご成婚おめでとうございます」
「……ありがとう」

 この日、私はキルディッド・メルヴォード国王の第一側妃となった。

 煌びやかな王宮。
 祝福された二人。
 これから訪れる人生には幸せしかない。

 なんて誰が言ったんだか。
 私は重い息を吐く。

「シャリア様、閨の準備が整いました」
「……ありがとう」

 欲情を掻き立てるような薄い布地に着替え、私は一人ベッドの上でキルディッド様が来るのを待つ。

 キルディッド様は今年で二十五歳になるがまだ子供はいない。

 そのため私が側妃として召し上げられた。

 我が家はしがない伯爵家で特段裕福な訳ではないが、兄が跡を継ぎ、姉も公爵家に嫁いだ。

 私も同じ伯爵家の子息と婚約したのだが、婚姻間近というところで子爵令嬢と恋仲になり、破談となった。

 十八歳になって婚約者がいない私は必然的に領地に引きこもるか後妻になるかしか道は残されていなくて、選んだのは領地に引きこもることだった。

 だが、タイミングを見計らったように王家から第一側妃の打診があったのだ。打診という名の命令ね。私に拒否権などない。

 両親や兄は私を心配してくれていたが、拒否することもできず、私は王宮に連れてこられた。

 キルディッド様の評判は良い方だが、王妃様と婚姻した当初から不仲だと言われていた。
 結婚して三年してもお子が出来ず、側妃を迎える予定が王妃様が拒否を示して迎えることはなかった。

 八年経った今もなお子ができず、今回は待ったなしで側妃を迎えることになったようだ。

 今なら分かるわ。
 私の婚約破棄は仕組まれていたのだということに。

 王妃様はわざわざキルディッド様の好みとは違う私を側妃に選んだ。

「はあ、我が家が公爵家だったら今頃私は隣国の麗しき第二王子様のお妃さまに選ばれていたかもしれないというのに。残念ながら我が家は伯爵家。隣国に影響を及ぼすほどの地位も財力もない。文句ひとつ言えないのが残念なところよね」

 私はぶつぶつと呟いていると、ガチャリと扉が開かれた。

 慌てて私は布団を被る。

「シャリア」

 キルディッド様はベッドへ歩み寄ってきた。

「……はい」

 私が返事をすると、カチャカチャと金具を外す音が聞こえてくる。

 ――この時が来てしまったのね。

 沈み込むベッドに心臓がバクバクと音を立てて今にも口から出てきそう。

 いくら私に最近まで婚約者がいたとはいえ、男の人と手を繋ぐこともなかったのよ!? 

 どうしよう、何されるのかも分からない。
 怖い。

「震えているのか。すぐ済むから少し我慢しろ」
「……はい」

 キルディッド様は布団を捲り、私の上に身体を乗せた。

 どうしよう!? 
 恥ずかしい。

 私は羞恥心のあまり、手で隠そうとしたけれど、キルディッド様はそれを阻止する。

「チッ、面倒だな」

 怖い。
 彼の態度に私はぎゅっと体に力が入る。

「シャリア、力を抜け」
「……は、はい」

 私は浅くなる呼吸を整えるようにゆっくりと息をしながら体の力を抜こうとする。

 だって仕方がないじゃない。
 こんなことは誰も教えてくれなかったんだもの。

 !!

 私は痛みで声を上げ、意識が飛びそうになるのをひたすら我慢し続けているが、彼は面倒そうな表情を隠すこともしない。どれくらい経っただろうか。

 必死に痛みを我慢する私にはとても長く感じた。

 気づけば彼はさっさとベッド脇に置かれていた濡れたタオルで身体を拭いている。

 そして「また来る」と一言零し、さっさと着替えて部屋を出て行ってしまった。

 私は一人ぽつんと取り残された状態だ。

「ったく。なんなの!?」

 私は痛みのあまり怒りが湧いてきた。

 一応、これでも側妃なのよ!?
 扱いが酷すぎない?

 そりゃ、甘い夜を過ごすなんて思ってはいなかったけれど、これはどうかと思うわ!

 これ、もしかして朝までこのままなの?
 ……最悪だわ。

 私は皺の入ったシーツをそのままにして立ち上がり、クローゼットの中を漁り、部屋着になるようなシンプルなワンピースを引っ張り出してカウチソファで眠りについた。

「あーあ。これからずっとこうなのかしら」

 私は華やかな装飾が施された天井を見つめながら目を閉じた。


――パチンッ。

 何かが頭の中で小さく弾けた瞬間、誰かの記憶が流れ込んできた。

「フラン様……? いかがなさったの?」

 動かない私を心配して友人のカーディア様の声が遠くに聞こえる。

 なんなのアイツ!

 あまりの不愉快な思いが口を突いて出た。

「このっ腐れ〇☆◆!!」

 私はそう声を発してそのまま意識が暗転していった。
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