男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ

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6 懇願する宰相

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「側妃様っ。シャリア様! どうかお助け下さいっ」
「宰相、この後宮に何度足を運ぼうと無理よ。私には何も出来ないわ」

「いえ、シャリア様しかおりません。どうぞ、このメルロワード国を救えるのはシャリア様しかおりません」

 ここはいつもシャリアが気に入って過ごしているサロンだ。

 私はお茶を用意しようとしている侍女に手を挙げて後ろに控えるように指示を出した。

「私は捨て置かれた側妃よ? マルティディア様を差し置いて動くことは出来ないわ」
「マルティディア様は動けないのです……」

 宰相の言葉に一瞬動きを止め、彼を見ると真剣な顔そのものだ。

「……は?」

 何の冗談?

 彼女はこの国の民を捨てるはずがない。でも、宰相の真剣な顔をみると、切迫した状況のようだ。

 まさかとは思うけれど……。

 嫌な緊張を感じ、私は後ろに控えていた侍女にドレスを用意させ、急いで着替える。

「宰相、待ったなくてもよかったのに」
「いえ、私がシャリア様を必ずお連れしなければいけませんから」

 部屋の外で待機していた宰相の表情は相変わらず厳しい。私は宰相に連れられ、久々に後宮を出た。

 王宮は慌ただしく人が行き来している。
 私にはその様子が酷く気になった。

「宰相、どういう状況か説明しなさい」

 私たちは国王陛下の執務室に向かっている。隣を歩く宰相は苦悶の表情を浮かべながら説明を始めた。

 半年ほど前にフローラ嬢に浮かれ、鼻の下が伸びた陛下の顔を見たのが最後だ。それ以降、私は後宮から出てきていない。

 たかだか半年の間に何が起こったというの?

「シャリア様が後宮に戻られてからすぐにフローラ嬢は王宮を我が物顔で生活をはじめたんです。

 我々は隣国との同盟を大切にしておりましたが、フローラ嬢は相手国の王を怒らせてしまったのです。なんとかキルディッド陛下は頭を下げ謝罪して無事同盟を継続することになったのですが……」

 宰相は顔色が悪く言い淀んだ。

「そこから日も経たないうちにフローラ嬢は怪しい男性に言い寄られたと陛下に泣きつき、陛下は怒り、男をその場で斬ってしまったんです」
「斬られた男は誰だったの?」

「イェシュティア国のブラジェク伯爵でした」
「イェシュティア国……最悪ね。我が国に一番投資してくれている方じゃない」

 私はその言葉を聞いて頭を掻きむしりたくなった。なんてことをしてくれるのよ。

「それで、どうなったの?」
「イェシュティア国のエフィン公爵が国王の使いとして派遣され、私と陛下で話し合いを持ったんです」

 宰相がそう言い終わらない間に陛下の執務室の前にやってきた。

 宰相からは詳しく聞かないといけないけれど、まずは陛下に会ってからね。

「キルディッド陛下、突然申し訳ありません」

 宰相が声を掛けながら部屋に入る。

 私も宰相の後に続き部屋に入ると、陛下はやつれ細り、頬はこけ、目の下が窪んでいてあきらかに様子がおかしいのが見て取れる。

「……シャ、リア」

 言葉数もたどたとしく焦点が合っていないようだ。

 ……まさかこんなことになっていたとは。

 これはどう見ても薬を飲まされたような風貌じゃない。

 今はのんびりと過ごしているが、これでも妃教育は終えている。その頃の記憶が力強く“思い出せ”と警告してくる。

 実際に目の当たりにして薬の怖さとここまで放置していた周りに怒りを覚える。

 いくら陛下のことが嫌いでも、この状態を放置することがいいとは思わない。

「宰相! これはどういうことなの!?」
「シャリア様、落ち着いて下さい。フローラ嬢が執務室に入り浸るようになってからだんだんとこのように」

 私が怒って宰相を呼ぶけれど、宰相は頷いている。

「護衛、従者、貴方たちはどうして止めなかったの!」
「止めたのですが、陛下がよいと我々を止めたのです」

 平然としている従者に私は驚きを隠せなかった。

 まさか平然と言ってのけるなんてありえないでしょう!?

「使えないわね! 臣下ならきっちりと止めるべきでしょう」

 ……私が動かなければいけない理由はこれね。

 既に側妃の権限で動かさなければならないほど事態に陥っているのだろう。

「宰相、すぐに大臣たちを呼び出して会議室に集めなさい。それと、陛下専属の医師を外し、宰相の信頼のおける医師に陛下を見せなさい。

 それと、ジゴッド公爵を呼び出して。あとは……フローラを牢に閉じ込めておきなさい。護衛騎士、そこにいる従者、お前たちは罰を受けなさい」

 護衛騎士は失態を認め、膝を突いているが、従者は後ずさり、逃げ出そうとしている。

「衛兵! その者を捕まえよ!」

 執務室の扉の前にいた衛兵が従者をすぐに取り押さえ、宰相付きの従者が伝令に走った。
 物々しい雰囲気に通路で待機していた騎士もすぐに駆け付けてきた。

「陛下、ご無事でしょうか」
「名前を言いなさい」
「第一騎士団所属、リルディア・エザロアです」

 私が強い口調で入ってきた騎士にそう言うと、騎士は最敬礼し、所属を名乗った。

「第一騎士団は王族を守ることが任務ではないのか! 見てみなさい、この体たらく。なぜここまで放置していたのか!」
「大変申し訳ありませんでした」

「謝罪はいらない! なぜ放置していたのか聞いている」
「……陛下の指示でございます」

 一瞬言葉に詰まっていたが、彼もそう答えた。

 もしかして問題が山積しているのではないだろうか。

 後宮にのんびりと引きこもっていた自分が悔やまれる。

「チッ。どいつもこいつも使えないわね」
「宰相、先ほどの話だけど、マルティディア様はどうしたの?」

「マルティディア様はフローラ嬢が連れてきていた男に刺され、辛うじて命は取り留めましたが、まだ予断を許さない状況です」

「エザロア、すぐに第一騎士団団長、副団長を呼びなさい。そして陛下ご厳重に警護し、誰にも合わせるな」
「畏まりました」

 一刻の猶予もない状況だわ。

 ――〇
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