男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ

文字の大きさ
10 / 35

10 フラン伯爵家へ

しおりを挟む
 翌日の午後、私はドレス姿で伯爵家に向かった。ロイ様はまだ学生なので午前中は学院で勉強をしている。

「フラン嬢、ようこそ我が家へ。と言っても本当に何もないが」
 久しぶりにあったロイ様はまだ痩せてはいるが、少し肉が付き、体格が良くなっていた。
 ロイ様は少し恥ずかしそうにしながら私をエスコートして中庭へと案内してくれる。

 祖父の代ではかなり裕福だったようで伯爵家の建物や家具はとても素晴らしい物ばかりだ。ロイ様の話では調度品などは全て伯爵が売ってしまい、邸は自分たちが使う物以外は何にも残っていないと言っていた。

 ロイ様に案内された中庭はこじんまりとしていたが、思っていたより荒れていなかった。

「小さいが、ここの中庭は母が手入れしているんだ。あっちには野菜畑が広がっている」

 ロイ様はそう説明してくれている。

「素敵な花壇だわ。ロイ様のお母様の愛情が感じられるもの」
「そう言ってくれると嬉しいな。母も喜ぶよ」

 我が家から派遣された従者たちはしっかりと仕事をしてくれているようだ。ロイ様の着る服も清潔感が見えるし、前回会った頃よりも随分と顔色もよくなっている。

 私たち二人は用意された席に座り、花を眺めながらお茶を飲み始めた。心地よい風が私たちの間をすり抜け、ロイ様と目が合う。

「ロイ様、学院での生活はどうですか?」
「ああ、君のおかげで成績も伸びてきているんだ。前回は総合成績が57位だったが、今回は12位まで伸びた。

 思う存分、勉強が出来る環境が嬉しい。まだまだ上を目指せると思う。それに最近、クラスメイト以外の令嬢たちがよく声を掛けてくるようになったんだ」

 私はロイ様の言葉に一瞬曇ったけれど、すぐに晴れることになった。

「友人たちは『最近変わってきた僕の見た目に令嬢たちが食いついてきている』と言っていた。都合が良いよな。令嬢たちは僕を見た目だけで判断しているんだ。あからさま過ぎて嫌になる。それに僕にはフラン嬢がいるのにね」

 彼の見つめる先が私であることに心が浮足立ってしまう。

「それだけロイ様が素敵なのよ」
「僕はフラン嬢とだけ話ができればいい」

 拗ねたように話をするロイ様にふっと笑みが零れる。

 私たちはいい雰囲気の中で話をしていると、従者が誰かを止めるような声が聞こえてきた。

 そういえばこの家に護衛は門番一人しかいなかった。もっと増やさないといけないわね。

 私がそう考えていると、ずかずかと入ってきたのは数名の護衛を連れた一人の令嬢だった。

 ふわりと巻いた金色の髪にピンクのリボンを付けたお人形さんのようないで立ちをしている。

 ……ラルド兄様が言っていたのはこの女のことかもしれない。

 よく見ると、細部にまで細やかなレースがあしらわれている。ドレスも上質な生地だ。どうやら上位貴族のようだ。

 こういう時に男爵位でしかない自分が嫌になる。

「ロイ様! ここにいらしたのですねっ!」

 令嬢はロイ様を見つけたとばかりに軽やかに走ってくる。

 その姿は夢に登場してきたフローラそのものだ。

 夢を思い出し、フローラの動きと重なるその令嬢の行動に苛立ちを覚える。

 彼は立ち上がり、礼をした。私も横に並び、同じように礼をする。

「ここはロイ様のお家だし、礼はいらないし、楽にしていいわ」

 私たちは礼を止めて席に座った。

「それに、私とロイ様の仲でしょう?」

 彼女は傍にいた従者に椅子を持ってくるように指示をしている。せっかくのお茶会を邪魔するなんて失礼な令嬢なんだろう。

「エフィン公爵令嬢、今日はどういった用件ですか?」
「ロイ様、我が家から最近食料品が送られてないと聞いたわ。だから私が手作りのサンドイッチを持ってきたの」

 彼女がエフィン公爵家の令嬢なのね。勝手に人の家に入ってくるわ、婚約者でもない彼に食事を差し出すわ、婚約者とお茶をしている最中に乱入してくるわ、男爵令嬢でしかない私でも彼女がどれだけ非常識なのかは理解できる。

 しかも公爵家から食料品が届いてないですって!?
 今まで現物支給だったの?

 言いたいことは腐るほどあるが、私はあえて黙って様子を見ることにした。

「エフィン公爵令嬢、いつも食事を作ってきてくれたことに感謝しているが、私には婚約者がいる。エフィン公爵令嬢がわざわざ持ってくれなくても僕はもう大丈夫だよ」

 彼が優しくそう言うと、彼女はわなわなと震えはじめた。

「私はっ、ロイ様のためを思ってずっと持ってきていたのにっ。酷いわ。こんなにロイ様のことが好きなのに。私を受け入れてくれないなんて」

 彼女は絵に描いたような『夢見る少女』なのかしら。誰かさんと同じね。呆れてため息が出そうになる。

 風が少し出てきたようだ。先ほどまで朗らかな天気だったのに。

 私はふと思い立ち、ロイ様の膝の上に乗って彼の頬を撫でた。

「ロイ様、お茶が冷めてしまいましたわ」

 エメラルドグリーンの瞳はうっとりと私に向けられた。それまで私の存在などいないものとしていた彼女だが、私の行動がよほど彼女の気に障ったようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

派手にしない工房は、今日もちゃんと続いている

ふわふわ
恋愛
名門でも、流行でもない。 選ばなかったからこそ、残った場所がある。 街の片隅で、小さな工房を営む職人シオンと、帳簿と現実を見つめ続けるリリカ。 派手な宣伝も、無理な拡大もせず、ただ「ちゃんと作る」ことを選び続けてきた二人の工房は、いつの間にか人々の日常の一部になっていた。 しかし、再開発と条件変更という現実が、その場所を静かに揺さぶる。 移るか、変えるか、終わらせるか―― 迫られる選択の中で、二人が選んだのは「何も変えない」という、最も難しい決断だった。 特別にならなくていい。 成功と呼ばれなくてもいい。 ただ、今日も続いていることに意味がある。 これは、成り上がらない。 ざまぁもしない。 けれど確かに「生き方」を選びきった人たちの物語。 終わらせなかったからこそ辿り着いた、 静かで、確かな完結。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

政略結婚の作法

夜宮
恋愛
悪女になる。 そして、全てをこの手に。 政略結婚のために身分違いの恋人のいる王太子の婚約者となった公爵令嬢は、妹の囁きを胸に悪女となることを決意した。 悪女と身分違いの恋人、悪女になるはずだった妹の物語。

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

処理中です...