男爵令嬢の記憶が交差する

まるねこ

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18 落ち着きを取り戻した王宮(シャリア視点)

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「シャリア様、ようやくフローラ嬢の影響がなくなりつつありますね。一時はどうなることかと思いました」
「宰相、良かったわ。そろそろエリオット様が陛下になるための根回しも終わったわよね?」
「ええ、もちろんです。シャリア様には頭が上がりません」

「ようやく、ね。あとはイシュティア国のブランジェク伯爵への慰謝料を用意するだけね。頭が痛いわ。アレはブラジェク伯爵の仕事を横取りしようとしている。うんざりだわ。あちらの国はそれでいいのかしら」

「どうでしょうな。あちらの考えていることはわかりませんな。ブラジェク伯爵ほど本当に我々の国益に尽力してくれた人物はおらぬというのに……」

 宰相はそれ以上口にすることはないが、イシュティア国の対応に苦慮しているのも知っている。
「それにしても、まさかウェルタ侯爵がフローラを利用してキルディッド陛下を洗脳して国を乗っ取ろうとしていたなんてね」
「本当に。危なかったですな。ただ、利用したフローラが馬鹿な娘で助かったとしか言いようがありません」

「あの馬鹿女、どうやったらあんな思考になるのかしらね。男爵夫妻はまともだったのに。ウェルタ侯爵家は取り潰したけれど、まだどこかに侯爵家の手の者が残っているかもしれないわね」

「シャリア様、十分お気をつけください」
「そうね」

 ―コンコンコンコン

「入って」

 私がそう声を掛けると、エリオット様が部屋へと入ってきた。

「執務中にすまない」
「いえ、もう執務は終わり、片付けをしていたので問題わりません。来週からはエリオット様のお部屋ですから」

「シャリア様、私が王になった後、貴女は本当にカークス家へ戻るのか?」
「ええ、両親からも戻ってこいと言われていますから」

「このまま君に私の右腕として働いてもらいたいと思っている」

「そう言っていただけるのは嬉しい限りですが、私は田舎育ちで奔放な性格なのをよくご存じでしょう? 私がいてもエリオット様の足を引っ張るだけにしかなりません。

 それに、私は領地でやりかけていた仕事が残ったままなんです。カークス領でジャロの実を見つけたのですよ。今は植林し、増やしている最中なんです。これからが楽しみなんですよ」

「ジャロの実……確かどの高級薬にも使われている実じゃないか。栽培が難しいと聞いている」

「ええ、この実の難しいところは寒さにとても弱い。環境の変化にも弱く、芽が出て実を付けるまでに十年という期間が必要なんです。

 領地に引きこもった時に植えた種がようやく成長し始めているんです。あと数年で実がなる予定なんですよ。今すぐにでも家に戻り、木の状態を見に行きたいと思ってるんです」
「そうか。君が育てているのか。シャリア嬢らしいな」

 私たちはようやくフローラの一軒が落ち着いた安堵から、ゆったりと雑談をしている。

「来週はエリオット様の即位式ですな。早いもんです。おっと、こうしてはいられない。私は即位式のための準備が残っておりました。ではエリオット様、シャリア様、私はこれで」
「宰相、ありがとう」

 宰相は頭を下げて従者と共に部屋を出ていった。執務室にはエリオット様と私だけとなり、侍女にお茶を淹れるように指示をする。

「シャリア、君には本当に感謝している。君のおかげで兄の容態も落ち着いてきた。マルティディア妃も意識が戻ったが、彼女は今、上手く会話が出来ず、半身が動かないそうだ。刺された時にナイフに塗られていた毒のせいだろう」
「……そうですか」

「侯爵を牢に入れているが、まだ危険は残っているかもしれない。君も十分気を付けてほしい」
「そうですね。エリオット様、もし、私になにかあったら第二側妃の執務室の書棚の本を引き、『二一一一二二』と文字を入れて下さい」

「……覚えられるかな」
「知っているくせに」

 私はクスリと笑って言った。

「その中には大切な物が入っています」
「ああ、分かった」

 私はそれ以上口にせず、エリオット様とお茶を楽しんだ。

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