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29 カークス伯爵
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翌日、私たちはカークス伯爵家に馬車で向かうことにした。昨日、王宮からカークス伯爵家へ行くための先ぶれを出す時に陛下からの手紙も添えたおかげですんなりと伯爵家に迎えられた。
懐かしい佇まい。
私が居た頃と何も変わっていない。
玄関ホールを通り、サロンへと案内された。
私たちはお茶の香りを楽しみながらギリン兄様が来るのを待った。
「待たせたな。君がロイ・ブラジェク伯爵子息とフラン・ノール男爵令嬢だね。私の名はギリン・モールディス・カークスだ」
私たちは立ち上がり、礼を取る。
懐かしい声。
兄は白髪となっていたが、あの頃と変わらない優しい表情をして迎えてくれた。
私は変わらぬ兄の姿に懐かしさを覚え、今すぐにでも声をかけたい衝動に駆られた。
「カークス伯爵、今回の訪問を許可していただきありがとうございます」
ロイ様がそういうと、ギリン兄様は笑顔で話をする。
「ああ、事前に知らせをもらっていたからね。陛下からの口添えもある。で、君たちの商会でジャロの実を販売したいという話だったね。すまないがジャロの実を国外に輸出するほど数が実っていないんだ」
「ギリン様、シャリア様が植えた木は全部で千二本。ギリンの実は十年以上経ち、実を付けているはずですが、それでも足りませんでしたか?」
「なぜ植えた本数を知っているのか? 陛下が面白い娘がいると手紙にあったが……」
不審そうな目でギリン兄様は私を見ている。早々に話をしておいた方が良さそうだ。
「だってシャリアが生まれ変わりが私ですから」
「はっ? 冗談はよしなさい。シャリアはもっと気品に溢れていたんだ」
「気品に溢れていたですって! ロイ様聞いた? ふふっ、嬉しいわ。私が生きていた頃、ギリン兄様はいつも『お転婆リア』って言っていたのに。ギリン兄様、また兄様と利き茶をして遊びたいわ」
私はギリン兄様と遊んでいた頃を思い出し、遊ぼうと提案した。
ギリン兄様は目を丸くし、言葉を失ったようだったが、不敵な笑みを浮かべ従者に聞き茶の準備をさせている。
「君がシャリアだというのならシャリアの好みの茶を当ててみてほしい」
「私の好きだったお茶ですか? 兄様と遊んでいた頃はカーニャ領のアレンで採れるお茶だった。側妃になってからは好みも変わってフィリップ領でとれるイェルの茶葉が大好きだったのよね」
「……そうだな。君はよく調べているね。シャリアが好んでいたのはアレンで採れる茶葉だ。味は調べるわけにはいかないからね。楽しみだ」
従者はテーブルの上に五つの茶葉を準備し、お茶を淹れていく。
「準備が出来ました」
「では君達からどうぞ」
ギリン兄様は余裕を見せながら私たちにお茶を勧めた。
「僕はお茶を殆ど飲まないから良く分からないな」
私は一つ一つ香りを確かめ、口に含んだ。
……これは。
私は眉間に皺を寄せた。
その姿を見ながらギリン兄様はお茶を飲んでいく。
「ふむ。フラン嬢、君がシャリアだと言い張るのならこれくらいは当然分かるだろう?」
「ギリン兄様、いたずらが過ぎます。まあ、答えましょう。一つ目はミディリア茶。二つ目はカーノーディル産の茶葉。三つ目はシェリス領で採れる赤い茶と呼ばれるもの。四つ目はファスタム産の茶葉。五つ目はゴトー領のハリッサで採れる茶葉です」
私の言葉にギリン兄様は満面の笑みを浮かべた。
「凄いな。全問正解だ」
「ミディリア茶をわざと混ぜたでしょう?」
「なぜわざとだと思うんだ?」
「兄様は好きな茶葉だけど、私はあまり好きじゃない。でもこのお茶は、お母様が特別な日だけに飲んでいたお茶だもの」
「シャリアしか知らない話だ……。本当に君はシャリアなのか?」
「ええ、ギリン兄様。シャリアよ」
「まさか、本当に、そんなことが」
兄は口元を手で押さえている。
そうよね。
私はここに戻ってくる予定だったのに殺されたんだもの。
「兄様、伯爵家に戻ってこれなくてごめんなさい。兄様を支えるつもりだったのに」
「問題ない。我が家の力が弱いばかりにシャリアにはずっと苦労をかけていた。両親も亡くなるまでずっとお前のことを気にしていたんだ」
「お父様、お母様……」
「辛気臭いのは良くないな。シャリアが生まれ変わっていたことを喜ぶべきだ」
「……そうですね。ギリン兄様、それにしても私が植えたジャロの実は足りませんでしたか?」
「いや、今年は夏が涼しくてね、あまり実が生らなかったんだ。まだ安定して出荷ができるほどの量はない。樹木数は少しずつ植林して増やしているがあと数年はかかるだろう。シャリアが食べたいと言って植えた木が我が家の一大産業になるとは思ってもみなかった」
「でしょう? ジャロの実は甘くて美味しいし、高値で取引されるし、素晴らしい果実よね」
「せっかく我が家に来たんだ。食べて帰るか?」
「本当!? 嬉しい! ジャロを食べるためにここに来たと言っても嘘じゃないもの」
「フラン嬢、商会で取引しなくていいのか?」
ギリン兄様は優しい声で話をする。
「ええ。取引出来ればいいかなという程度だったの。安定した収穫量が確保できるようになったら再度お願いにくるわ」
「そうか。まだ他国に販売するほどの量はないが、フラン嬢が食べたいのなら沢山持って帰るといい」
「ギリン兄様、ありがとう」
「ところでブラジェク伯爵子息がこの国に来た理由はこの国との取引を再開するためかい?」
「そのことについて今、申しあげられないというか……」
ロイ様は言葉を濁した。
「ごめんなさい。ギリン兄様、シャリアに関わるので今すぐには話せないのです」
ギリン兄様はその言葉に察したようで『そうか』と呟き一つ頷いた。
「我が家も協力できることがあれば協力を惜しまない」
「そう言ってもらえるだけで嬉しいです」
そうして私たちはジャロの実を籠いっぱいもらい、ホテルへと戻った。
懐かしい佇まい。
私が居た頃と何も変わっていない。
玄関ホールを通り、サロンへと案内された。
私たちはお茶の香りを楽しみながらギリン兄様が来るのを待った。
「待たせたな。君がロイ・ブラジェク伯爵子息とフラン・ノール男爵令嬢だね。私の名はギリン・モールディス・カークスだ」
私たちは立ち上がり、礼を取る。
懐かしい声。
兄は白髪となっていたが、あの頃と変わらない優しい表情をして迎えてくれた。
私は変わらぬ兄の姿に懐かしさを覚え、今すぐにでも声をかけたい衝動に駆られた。
「カークス伯爵、今回の訪問を許可していただきありがとうございます」
ロイ様がそういうと、ギリン兄様は笑顔で話をする。
「ああ、事前に知らせをもらっていたからね。陛下からの口添えもある。で、君たちの商会でジャロの実を販売したいという話だったね。すまないがジャロの実を国外に輸出するほど数が実っていないんだ」
「ギリン様、シャリア様が植えた木は全部で千二本。ギリンの実は十年以上経ち、実を付けているはずですが、それでも足りませんでしたか?」
「なぜ植えた本数を知っているのか? 陛下が面白い娘がいると手紙にあったが……」
不審そうな目でギリン兄様は私を見ている。早々に話をしておいた方が良さそうだ。
「だってシャリアが生まれ変わりが私ですから」
「はっ? 冗談はよしなさい。シャリアはもっと気品に溢れていたんだ」
「気品に溢れていたですって! ロイ様聞いた? ふふっ、嬉しいわ。私が生きていた頃、ギリン兄様はいつも『お転婆リア』って言っていたのに。ギリン兄様、また兄様と利き茶をして遊びたいわ」
私はギリン兄様と遊んでいた頃を思い出し、遊ぼうと提案した。
ギリン兄様は目を丸くし、言葉を失ったようだったが、不敵な笑みを浮かべ従者に聞き茶の準備をさせている。
「君がシャリアだというのならシャリアの好みの茶を当ててみてほしい」
「私の好きだったお茶ですか? 兄様と遊んでいた頃はカーニャ領のアレンで採れるお茶だった。側妃になってからは好みも変わってフィリップ領でとれるイェルの茶葉が大好きだったのよね」
「……そうだな。君はよく調べているね。シャリアが好んでいたのはアレンで採れる茶葉だ。味は調べるわけにはいかないからね。楽しみだ」
従者はテーブルの上に五つの茶葉を準備し、お茶を淹れていく。
「準備が出来ました」
「では君達からどうぞ」
ギリン兄様は余裕を見せながら私たちにお茶を勧めた。
「僕はお茶を殆ど飲まないから良く分からないな」
私は一つ一つ香りを確かめ、口に含んだ。
……これは。
私は眉間に皺を寄せた。
その姿を見ながらギリン兄様はお茶を飲んでいく。
「ふむ。フラン嬢、君がシャリアだと言い張るのならこれくらいは当然分かるだろう?」
「ギリン兄様、いたずらが過ぎます。まあ、答えましょう。一つ目はミディリア茶。二つ目はカーノーディル産の茶葉。三つ目はシェリス領で採れる赤い茶と呼ばれるもの。四つ目はファスタム産の茶葉。五つ目はゴトー領のハリッサで採れる茶葉です」
私の言葉にギリン兄様は満面の笑みを浮かべた。
「凄いな。全問正解だ」
「ミディリア茶をわざと混ぜたでしょう?」
「なぜわざとだと思うんだ?」
「兄様は好きな茶葉だけど、私はあまり好きじゃない。でもこのお茶は、お母様が特別な日だけに飲んでいたお茶だもの」
「シャリアしか知らない話だ……。本当に君はシャリアなのか?」
「ええ、ギリン兄様。シャリアよ」
「まさか、本当に、そんなことが」
兄は口元を手で押さえている。
そうよね。
私はここに戻ってくる予定だったのに殺されたんだもの。
「兄様、伯爵家に戻ってこれなくてごめんなさい。兄様を支えるつもりだったのに」
「問題ない。我が家の力が弱いばかりにシャリアにはずっと苦労をかけていた。両親も亡くなるまでずっとお前のことを気にしていたんだ」
「お父様、お母様……」
「辛気臭いのは良くないな。シャリアが生まれ変わっていたことを喜ぶべきだ」
「……そうですね。ギリン兄様、それにしても私が植えたジャロの実は足りませんでしたか?」
「いや、今年は夏が涼しくてね、あまり実が生らなかったんだ。まだ安定して出荷ができるほどの量はない。樹木数は少しずつ植林して増やしているがあと数年はかかるだろう。シャリアが食べたいと言って植えた木が我が家の一大産業になるとは思ってもみなかった」
「でしょう? ジャロの実は甘くて美味しいし、高値で取引されるし、素晴らしい果実よね」
「せっかく我が家に来たんだ。食べて帰るか?」
「本当!? 嬉しい! ジャロを食べるためにここに来たと言っても嘘じゃないもの」
「フラン嬢、商会で取引しなくていいのか?」
ギリン兄様は優しい声で話をする。
「ええ。取引出来ればいいかなという程度だったの。安定した収穫量が確保できるようになったら再度お願いにくるわ」
「そうか。まだ他国に販売するほどの量はないが、フラン嬢が食べたいのなら沢山持って帰るといい」
「ギリン兄様、ありがとう」
「ところでブラジェク伯爵子息がこの国に来た理由はこの国との取引を再開するためかい?」
「そのことについて今、申しあげられないというか……」
ロイ様は言葉を濁した。
「ごめんなさい。ギリン兄様、シャリアに関わるので今すぐには話せないのです」
ギリン兄様はその言葉に察したようで『そうか』と呟き一つ頷いた。
「我が家も協力できることがあれば協力を惜しまない」
「そう言ってもらえるだけで嬉しいです」
そうして私たちはジャロの実を籠いっぱいもらい、ホテルへと戻った。
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