1 / 49
1 プロローグ
しおりを挟む
「うぅっ、すまないっ。こんなに不甲斐ない親で。モア」
「……お父様。これで家が存続出来るというのなら私は喜んで嫁ぎます」
私はウルダード伯爵家の長女モア。もうすぐ十五歳になるわ。何故父が泣いているのかというと、今日は私の結婚式。
相手は王家と所縁の深いノア・クリストフェッル伯爵子息、十九歳。彼はとても優秀で国一番とも言われているほどの見目麗しい人。彼の女性遍歴は華々しく、数多の恋愛話がいつもお茶会の話題となっている。
ノア様と一夜だけでも、と望む令嬢は多いのだとか。
私は話題に上る彼に全く興味はなかったし、むしろそんなノア様に嫌悪感さえ抱いていた。
何故そんな彼と婚姻に至ったのかというと、我が家は貿易関連の事業をしていたのだが、貿易船が相次いで沈没、莫大な借金を抱えて伯爵家の存続が危うくなったの。
その借金を帳消しにする代わりに私がクリストフェッル家に嫁ぐ事になった。父は娘を売るような事はしたくないと拒否したけれど、相手は国王から王命を出させる形で父にノア様との婚姻を迫ってきたようだ。
父は伯爵家存続のために泣く泣く受け入れるしかなかったみたい。以前の我が家は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、貴族の中でも一、二を争うほどの裕福な家庭だったわ。そこに生まれた私、モアは他の令息や令嬢達から羨望の的だった。
どうやら私は他の人からの評価では金持ちの娘という以外に国一番の美女だと言われているらしい。私自身はそこまで美人だとは思っていないけれど、いつも周りが褒めてくれるのでそうなのかしら?程度には思っている。
そんな事もあって幼少期から釣書が我が家に沢山送られてきていたのだが、父も母も慎重になるあまり、全てを断わり、私には婚約者がいなかった。
今思えば、そこを狙われたのだと思う。
控室で父と母は泣いていた。私だって望まない結婚。けれど、これも伯爵家を存続させるため。
グッと涙を堪えながら父のエスコートで式場に入る。
式場には既に親族以外にも沢山の参列者がいる。そして皆、今日の主役である私に視線を向けている。その視線は好意からくるものもあったけれど、冷たい悪意のある視線も多かったわ。
今日の式もきっとまたお茶会や舞踏会でご婦人方の話の種になるのだろうと思う。
私は怖くて父の腕をギュッと掴んだ。
父も参列者の視線に気づいているようで、小さく『大丈夫だ』と私を安心させるように呟いた。駄目ね、もう涙が出そう。一歩、また一歩とゆっくりノア様の元に近づいていく。そうして緊張しながらノア様の隣に並び立った。
「モア、世界一美しい」
「あ、ありがとうございます」
ノア様はそう一言だけ言って神父の方へと身体を向けた。よく見ると神父ではなく、神父の格好をした国王陛下であった。私は驚いていたのにノア様は平然としているわ。一国の王が伯爵の結婚式に出席する事がどれほどの事か。
私は冷静を努めながらも内心パニック状態だった。
「国一番の美男美女の婚姻が出来た事、誇りに思う。これからも王家に尽くす様に」
国王陛下がそう告げ、婚姻式は滞りなく進み参列者の方に身体を向けた途端。
「ノア様!私を選ぶって言ったじゃない!」
どこからか叫ぶ声が聞こえてきた。
令嬢の一人が泣きながら大声で叫んでいる。その様子にノア様は取り乱す様子はない。叫んでいた令嬢はすぐに取り押さえられて会場を出て行った。その様子に感化されたのか何人かの令嬢達も立ち上がり、不満を言いながら会場を後にする。
……なんて後味の悪い結婚式なのかしら。
私は泣きたくなった。こんな混乱を招くノア様に恨み言の一つでも言いたいくらいに。でも、ウルダード家の将来が私の行動に懸かっていると思うと黙っているしかなかった。
家族もグッと我慢しているような表情をしている。対照的にクリストフェッル家の方々は全く気にしていない様子。むしろにこやかに微笑んでいるわ。
その事に違和感を覚えてしまう。
「さぁ、モア。私達も行きましょう」
ノア様にエスコートされ、私達は会場を後にした。
そこからはクリストフェッル家で晩餐が行われ、ノア様は親族と飲んでいる間、私は早々に夫婦の部屋へと案内された。
「モア様、結婚式お疲れ様でした。これから初夜を行う用意を致します」
伯爵家の侍女が三人ほど私を取り囲み、ドレスを脱がせた後、湯浴みをした。頭の天辺から足の先まで磨き上げられ、マッサージを受ける。薄いナイトウェアに身を包むと侍女達は一礼をして部屋を出て行った。もうすぐノア様が来るのだろう。
「モア、ようやく君を私の妻に迎える事が出来た。待ち望んだ私の花嫁。一生涯大切にします」
ノア様の甘い言葉に解かされるような熱い初夜を迎えた。私はノア様が本当に私を大切にしてくれているのだなと感じはしたけれど、手慣れた様子からやはり過去の人達との交際は噂だけではなかったのだと心は深く沈み込むばかりだった。
「……お父様。これで家が存続出来るというのなら私は喜んで嫁ぎます」
私はウルダード伯爵家の長女モア。もうすぐ十五歳になるわ。何故父が泣いているのかというと、今日は私の結婚式。
相手は王家と所縁の深いノア・クリストフェッル伯爵子息、十九歳。彼はとても優秀で国一番とも言われているほどの見目麗しい人。彼の女性遍歴は華々しく、数多の恋愛話がいつもお茶会の話題となっている。
ノア様と一夜だけでも、と望む令嬢は多いのだとか。
私は話題に上る彼に全く興味はなかったし、むしろそんなノア様に嫌悪感さえ抱いていた。
何故そんな彼と婚姻に至ったのかというと、我が家は貿易関連の事業をしていたのだが、貿易船が相次いで沈没、莫大な借金を抱えて伯爵家の存続が危うくなったの。
その借金を帳消しにする代わりに私がクリストフェッル家に嫁ぐ事になった。父は娘を売るような事はしたくないと拒否したけれど、相手は国王から王命を出させる形で父にノア様との婚姻を迫ってきたようだ。
父は伯爵家存続のために泣く泣く受け入れるしかなかったみたい。以前の我が家は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、貴族の中でも一、二を争うほどの裕福な家庭だったわ。そこに生まれた私、モアは他の令息や令嬢達から羨望の的だった。
どうやら私は他の人からの評価では金持ちの娘という以外に国一番の美女だと言われているらしい。私自身はそこまで美人だとは思っていないけれど、いつも周りが褒めてくれるのでそうなのかしら?程度には思っている。
そんな事もあって幼少期から釣書が我が家に沢山送られてきていたのだが、父も母も慎重になるあまり、全てを断わり、私には婚約者がいなかった。
今思えば、そこを狙われたのだと思う。
控室で父と母は泣いていた。私だって望まない結婚。けれど、これも伯爵家を存続させるため。
グッと涙を堪えながら父のエスコートで式場に入る。
式場には既に親族以外にも沢山の参列者がいる。そして皆、今日の主役である私に視線を向けている。その視線は好意からくるものもあったけれど、冷たい悪意のある視線も多かったわ。
今日の式もきっとまたお茶会や舞踏会でご婦人方の話の種になるのだろうと思う。
私は怖くて父の腕をギュッと掴んだ。
父も参列者の視線に気づいているようで、小さく『大丈夫だ』と私を安心させるように呟いた。駄目ね、もう涙が出そう。一歩、また一歩とゆっくりノア様の元に近づいていく。そうして緊張しながらノア様の隣に並び立った。
「モア、世界一美しい」
「あ、ありがとうございます」
ノア様はそう一言だけ言って神父の方へと身体を向けた。よく見ると神父ではなく、神父の格好をした国王陛下であった。私は驚いていたのにノア様は平然としているわ。一国の王が伯爵の結婚式に出席する事がどれほどの事か。
私は冷静を努めながらも内心パニック状態だった。
「国一番の美男美女の婚姻が出来た事、誇りに思う。これからも王家に尽くす様に」
国王陛下がそう告げ、婚姻式は滞りなく進み参列者の方に身体を向けた途端。
「ノア様!私を選ぶって言ったじゃない!」
どこからか叫ぶ声が聞こえてきた。
令嬢の一人が泣きながら大声で叫んでいる。その様子にノア様は取り乱す様子はない。叫んでいた令嬢はすぐに取り押さえられて会場を出て行った。その様子に感化されたのか何人かの令嬢達も立ち上がり、不満を言いながら会場を後にする。
……なんて後味の悪い結婚式なのかしら。
私は泣きたくなった。こんな混乱を招くノア様に恨み言の一つでも言いたいくらいに。でも、ウルダード家の将来が私の行動に懸かっていると思うと黙っているしかなかった。
家族もグッと我慢しているような表情をしている。対照的にクリストフェッル家の方々は全く気にしていない様子。むしろにこやかに微笑んでいるわ。
その事に違和感を覚えてしまう。
「さぁ、モア。私達も行きましょう」
ノア様にエスコートされ、私達は会場を後にした。
そこからはクリストフェッル家で晩餐が行われ、ノア様は親族と飲んでいる間、私は早々に夫婦の部屋へと案内された。
「モア様、結婚式お疲れ様でした。これから初夜を行う用意を致します」
伯爵家の侍女が三人ほど私を取り囲み、ドレスを脱がせた後、湯浴みをした。頭の天辺から足の先まで磨き上げられ、マッサージを受ける。薄いナイトウェアに身を包むと侍女達は一礼をして部屋を出て行った。もうすぐノア様が来るのだろう。
「モア、ようやく君を私の妻に迎える事が出来た。待ち望んだ私の花嫁。一生涯大切にします」
ノア様の甘い言葉に解かされるような熱い初夜を迎えた。私はノア様が本当に私を大切にしてくれているのだなと感じはしたけれど、手慣れた様子からやはり過去の人達との交際は噂だけではなかったのだと心は深く沈み込むばかりだった。
332
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<死のループから抜け出す為、今から貴方を攻略させて頂きます。>
全く気乗りがしないのに王子の婚約者候補として城に招かれた私。気づけば鐘の音色と共に、花畑の中で彼の『護衛騎士』に剣で胸を貫かれていた。薄れゆく意識の中・・これが12回目の死であることに気づきながら死んでいく私。けれど次の瞬間何故かベッドの中で目が覚めた。そして時間が戻っている事を知る。そこで今度は殺されない為に、私は彼を『攻略』することを心に決めた―。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる