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第六話 皇子の真実
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可愛い小動物を残虐に貪っていたら、気がつくと魔術学園の卒業パーティの日になっていました。
入学したときと卒業する今は婚約者が変わっています。なんだか不思議で感慨深いです。
イバン様と婚約してからは魔術学園の空気も変わっていきました。グレゴリオ殿下が完全に王太子候補から外れたせいでしょう。以前はやはり第一王子のグレゴリオ殿下が一番の王太子候補で、魔術学園内での勢力も大きかったのです。
これまでの卒業パーティは卒業生が最後の仕事として開催するものでしたが、今回は在校生で王太子の最有力候補である第二王子殿下率いる新生徒会が主導しています。
グレゴリオ殿下を頂点とする旧生徒会の面々は壁の花です。
在学中、殿下から離れたかったのか下級生の高位貴族令息に近づいたマリグノ様は、第二王子殿下の婚約者であるご令嬢にやんわりと注意されていました。私に注意されたときのように泣いて被害者を装おうとしたけれど、第二王子殿下に嘘を見抜かれてさらに厳重な注意を受けたと聞きます。
第二王子殿下と婚約者のご令嬢はちゃんと心を通わせていらっしゃるのです。
素晴らしいことです。たとえ政略的な結びつきであっても、相手を無下に扱っていいということはないのです。
少しおふたりが羨ましい気もします。でも──
「なぁに、カタリーナ」
「いいえ」
今の私には、政略的な裏があるのだとしても大切に扱ってくださる婚約者がいます。
私がお菓子を食べるときに、食べられる小動物の振りをしてふざけるのがちょっと玉に瑕ですけどね。
映像を保存できる魔道具を使って、私に食べられている小動物を仲間が助けに来たように見せられたときは驚きました。我が国ではまだまだ普及していませんが、帝国では映像だけでなく音声も保存できる魔道具が開発されているそうです。
「踊り疲れたね。ちょっと壁際で休もうか」
「はい」
私達はダンスがおこなわれている空間を離れて、壁際に寄りました。
イバン様が、ずっと壁の花をしているグレゴリオ殿下達を見て笑みを浮かべます。
皆様沈痛な面持ちでいらっしゃいます。殿下の側近達もマリグノ様のように乗り換え先を探していたらしいですが、受け入れてくれるところがなかったようです。
「カタリーナ、ごめんね」
「イバン様?」
「実は僕、ずっと嘘をついていたんだ。いや、演技をしていたと言ったほうが良いかな?」
「……」
どういうことなのでしょう。
私を好きだと言ってくださったのが嘘だということは、ちゃんと察しています。
まさか婚約したこと自体が嘘だというわけではありませんよね? 私はまた捨てられてしまうのでしょうか? 会場はイバン様が寄贈した帝国製の魔道具で温かいのに、私の背中を冷たい汗が流れ落ちました。
「僕はね、本当はとっても残虐な男なんだよ」
言いながら私を引き寄せて、イバン様がキスを落としてきました。
抱き締める彼の両手が片方外れて、指を鳴らすのが聞こえます。
『あは~ん』
だれかの甘い声が聞こえました。
マリグノ様のもののような気がしました。周囲から混乱した様子が伝わってきます。
状況を確かめたいのですが、イバン様の抱き締める力が強くて逃げられません。それにずっとキスを続けられて心臓の動悸が激しくなってきました。自分の心臓の音で外の声が聞こえません。さっき冷や汗を流した体が燃え上がりそうに熱くなっていきます。
私に見せていてくださった優しい姿が嘘で、本当はとても残虐な方なのだとしても、私はイバン様を好きなのです。……強引にキスをされて怒るよりも先にときめいているのですから、それは疑いようのない真実なのでした。
入学したときと卒業する今は婚約者が変わっています。なんだか不思議で感慨深いです。
イバン様と婚約してからは魔術学園の空気も変わっていきました。グレゴリオ殿下が完全に王太子候補から外れたせいでしょう。以前はやはり第一王子のグレゴリオ殿下が一番の王太子候補で、魔術学園内での勢力も大きかったのです。
これまでの卒業パーティは卒業生が最後の仕事として開催するものでしたが、今回は在校生で王太子の最有力候補である第二王子殿下率いる新生徒会が主導しています。
グレゴリオ殿下を頂点とする旧生徒会の面々は壁の花です。
在学中、殿下から離れたかったのか下級生の高位貴族令息に近づいたマリグノ様は、第二王子殿下の婚約者であるご令嬢にやんわりと注意されていました。私に注意されたときのように泣いて被害者を装おうとしたけれど、第二王子殿下に嘘を見抜かれてさらに厳重な注意を受けたと聞きます。
第二王子殿下と婚約者のご令嬢はちゃんと心を通わせていらっしゃるのです。
素晴らしいことです。たとえ政略的な結びつきであっても、相手を無下に扱っていいということはないのです。
少しおふたりが羨ましい気もします。でも──
「なぁに、カタリーナ」
「いいえ」
今の私には、政略的な裏があるのだとしても大切に扱ってくださる婚約者がいます。
私がお菓子を食べるときに、食べられる小動物の振りをしてふざけるのがちょっと玉に瑕ですけどね。
映像を保存できる魔道具を使って、私に食べられている小動物を仲間が助けに来たように見せられたときは驚きました。我が国ではまだまだ普及していませんが、帝国では映像だけでなく音声も保存できる魔道具が開発されているそうです。
「踊り疲れたね。ちょっと壁際で休もうか」
「はい」
私達はダンスがおこなわれている空間を離れて、壁際に寄りました。
イバン様が、ずっと壁の花をしているグレゴリオ殿下達を見て笑みを浮かべます。
皆様沈痛な面持ちでいらっしゃいます。殿下の側近達もマリグノ様のように乗り換え先を探していたらしいですが、受け入れてくれるところがなかったようです。
「カタリーナ、ごめんね」
「イバン様?」
「実は僕、ずっと嘘をついていたんだ。いや、演技をしていたと言ったほうが良いかな?」
「……」
どういうことなのでしょう。
私を好きだと言ってくださったのが嘘だということは、ちゃんと察しています。
まさか婚約したこと自体が嘘だというわけではありませんよね? 私はまた捨てられてしまうのでしょうか? 会場はイバン様が寄贈した帝国製の魔道具で温かいのに、私の背中を冷たい汗が流れ落ちました。
「僕はね、本当はとっても残虐な男なんだよ」
言いながら私を引き寄せて、イバン様がキスを落としてきました。
抱き締める彼の両手が片方外れて、指を鳴らすのが聞こえます。
『あは~ん』
だれかの甘い声が聞こえました。
マリグノ様のもののような気がしました。周囲から混乱した様子が伝わってきます。
状況を確かめたいのですが、イバン様の抱き締める力が強くて逃げられません。それにずっとキスを続けられて心臓の動悸が激しくなってきました。自分の心臓の音で外の声が聞こえません。さっき冷や汗を流した体が燃え上がりそうに熱くなっていきます。
私に見せていてくださった優しい姿が嘘で、本当はとても残虐な方なのだとしても、私はイバン様を好きなのです。……強引にキスをされて怒るよりも先にときめいているのですから、それは疑いようのない真実なのでした。
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