どうせ嘘でしょう?

豆狸

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最終話 秘密の公爵令嬢

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 卒業後しばらくして、私は帝国へ花嫁修業に行くことになりました。
 王国から帝国へは陸路もありますが、イバン様のご希望で海路を行くことになりました。新作の魔道具で美しい海の風景を保存したいからだそうです。
 見送りの家族を残して動き出した船の甲板で、イバン様が私に魔導具を渡しました。

「カタリーナも使ってみる? ここの魔石に魔力を注ぎこんで発動してね。魔術を使うときみたいに強い魔力はいらないよ」
「魔力が強過ぎたら壊れてしまいますか?」
「大丈夫。そうならないように安全装置が組み込まれてる。音声も保存できる最新魔道具だから海猫の声や波の音も保存しよう。臨場感が出るよ」
「音声も保存……卒業パーティのときに使ったのもこちらですか?」
「ううん、あれは試作品」
「……やり過ぎだったとはお思いになりませんか?」

 あの日、魔術学園の卒業パーティで私が聞いた甘い声は本当にマリグノ様のものでした。
 イバン様は在学中に保存したマリグノ様が殿下以外の側近達と、その……戯れていらっしゃる映像と音声を会場で再生したのです。
 ちゃんと学園に魔道具の試作品の実験許可は取ってらっしゃいましたし、そもそも公共の場でああいうおこないに及んでいた方々が悪いのです。でも衆目に晒したのはどうかと思うのです。マリグノ様達はどうでも良いのですが、妙な痴態を見せられた卒業生と在校生が可哀相。

 側近達は殿下が王太子になり王となった暁にはマリグノ様に自分の子どもを産ませて王家の跡取りに据えるつもりだったらしく、反逆罪で処刑されました。
 もちろんマリグノ様もです。
 グレゴリオ殿下はお心を病んで王宮で引き籠っていらっしゃいます。

「えー? グレゴリオ王子が王太子候補から外れたとはいえ、王国を揺るがす大犯罪計画だよ? 友好国の帝国皇子としては暴いてあげなくちゃでしょ?」
「……本音は?」
「カタリーナとキスしたから、もう地獄に落としてもいいかと思って。ずっと我慢してたんだよ、大好きな君を嘘で傷つけたアイツらを始末したいのを」
「頬にキスではなかったんですか? それに……私からではなくイバン様のほうからキスなさったのではないですか」
「キスされて嫌だった?」
「……いいえ」

 暴露方法に問題があった気もしますが、あのまま側近達を野放しにするのは良いことではなかったでしょう。
 側近達の誤算は、私がグレゴリオ殿下を好きでい続ける都合の良い公爵令嬢をやめてしまったことです。私が妃になって公爵家の力で殿下を王太子にしなければ、彼らの陰謀は出発点にも辿り着けません。
 側近達にはイバン様の存在も予想外だったでしょう。

 イバン様が私に微笑みます。
 あのときキスしたのは暴露を始めるための理由付けと、私に汚らわしいものを見せたくなかったからだと言います。
 確かにマリグノ様の痴態など見たくはありませんでした。側近達に騙されて、マリグノ様を本気で愛していた(以前会ったことがあるのは本当だったそうです)グレゴリオ殿下も見たくはなかったでしょうねえ。

「僕が王国の魔術学園に留学して、君とグレゴリオ王子が世話係として現れたときさ、実は僕には君しか見えなかったんだ。ひと目惚れしてたんだよ」

 どうせ嘘でしょう? とは言いませんでした。
 本当なら嬉しいと思ったからです。
 いいえ、本当であって欲しいと私は願っているのです。

「ねえ、君はいつ僕を好きになったの? 留学生の世話係を任されたから相手をしていただけ? 婚約者になったから仕方なく付き合ってくれてるの?」
「イバン様、魔力を注ぎこんでみたのですが、これで魔道具が発動しているのですか?」
「もう!……見せて。最初にふたりでいる映像を保存しようか」

 とっくの昔にイバン様を好きな私ですが、言葉にすることは出来ませんでした。
 だって照れ臭いのです。
 残虐で優しい嘘つき皇子様のことですから、たぶん私の想いを察した上で聞いているのでしょうけれど、もう少しだけ秘密にさせておいてくださいね。
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