死に戻り王妃はふたりの婚約者に愛される。

豆狸

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14・男爵令嬢と大公

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「男爵家が犯罪、ですか?」

 昼食を楽しみながら話をしていたら、ポール殿下の口から思いもかけない言葉が出てきた。
 ふたりとも白い貴婦人に関することには触れていない。
 口に出すのが怖いのだ。

「ああ。元から一家揃って派手好きの浪費家だったから、金蔓を欲しがってジェモー子爵家と縁を結んだんだろう。子爵家は代々吝嗇家で、家格の割に相当貯め込んでる。それだけならバティストの気持ちを無視してまでぶち壊す気はないが、どうもバティストやヤツの父親を利用して王宮に忍び込んで悪さをしているようなんだ」

 王宮で犯罪だなんて、私なら恐ろしくて考えるのも怖い。
 ポール殿下はバティスト様から愛想を尽かして婚約を解消するように、迫ってくるセリア様をわざと相手にしているそうだ。
 バティスト様が婚約を解消したら男爵家の犯罪の証拠を集めて断罪するという。今だと子爵家まで巻き込みかねないのだ。

「バティスト様ご本人には内緒にしているのですか?」
「それとなく言ってはいるが信じようとせぬ」
「でも……」
「ん?」

 私の知っている未来では、殿下とセリア様は仲睦まじかった。
 特に二学年目に上がってからは、生徒会室でキスしていたとか、もう男女の関係になっていて王都にあるお互いの別宅に泊まり合っている、なんて噂が流れていた。
 今もおふたりは仲が良いように見える。バティスト様が殿下の言葉を信じられない気持ちもわかるような気がした。

「いいえ、なんでも……殿下! そのサンドイッチは私の分です」
「間違えた、すまぬ」
「バティスト様が用意してくださった学食のものとは、まるで大きさが違うでしょう?」

 ポール殿下もサンドイッチを食べていた。
 しかしバティスト様が持って来たサンドイッチは、私のためにニナが持って来てくれたものの倍はある。挟んである肉もぶつ切りだ。
 武人で大食漢の殿下に合わせた大きさだった。

「……そなたが美味しそうに食べているから食いたくなった。反省している、すまぬ」
「もう!」

 私は吹き出してしまった。
 こんな子どものようなところがある方だったのか。
 いつも不機嫌そうな顔で武芸に打ち込んでいらっしゃるか、セリア様と睦まじくしている姿しか知らなかった。……不機嫌そうな顔は私のせいね。

「食べてしまったものは仕方がありません。次からは欲しいとおっしゃってからにしてください」
「わかった。代わりに俺のを食うか?」
「もうないじゃないですか! これも食べますか?……はい」
「すまぬ」

 海老と卵のサンドイッチは殿下が食べたのが最後だったので、私はニナがオヤツ用に入れてくれていた苺の砂糖漬けを挟んだサンドイッチを半分にして彼に差し出した。
 ポール殿下は一口で飲み込んで空を見上げる。
 今日は天気が良い。

「休みになったら、俺とそなたとクレマンで田舎の別邸にでも行くか。たっぷりサンドイッチでも持って」
「殿下……」
「俺はアイツを許さない。父上も母上も、事情を知っていた奴らすべてをだ。俺が王になる国で、偽りの平和のためにだれかを犠牲にするような真似は許さない。それくらいなら俺が差し違えてでも白い貴婦人とやらを滅してやる」

 エメラルドの瞳が燃えている。
 この方ならできるかもしれない、と私は思った。
 もうすぐ一学年が終わり、長期休暇になる。それが終われば二学年だ。

 私の記憶にある未来では二学年に上がる前にベリエ大公が生け贄になっていたのだろうか。接点が少なかったので、彼がいついなくなったのかは思い出せない。
 しかしちょうど卒業と重なって、いなくなっても怪しまれない時期だ。
 後からそれを知らされたポール殿下は怒りで自暴自棄になり、男爵令嬢の誘惑に身を任せてしまったのかもしれない。そしてその後はズルズルと──

「……」
「……もう一口だけ食べますか? ニナが私のために作ってくれたサンドイッチなので、後一口だけですよ」
「わかった」

 視線に気づいて自分の分のサンドイッチを差し出すと、ポール殿下はなぜか私が口を付けたほうを齧る。

「あ」
「……その様子だと、クレマンとキスもしていないのだな。そもそも名前でも呼んでいない。白い貴婦人とやらを退治したら、今度はそなたを奪い返すためにクレマンと戦うとしよう」
「殿下?」
「そなたが好きだと断言はできぬ。俺は頭の良いクレマンに昔から劣等感があったから、アイツが欲しがっている女が欲しいだけかもしれぬ。だが……どこのだれともわからぬ男を重ねてではなく、俺自身を見るそなたは好ましい」
「これまでは申し訳ございませんでした」
「かまわぬ。身代わりクレマンを差し出したことを黙ったまま、そなたに本当の自分を見て欲しいなどと思っていた俺が愚かだったのだ。……元気な女だ」
「はい?」
「生け贄になる運命を受け入れながら、クレマンが大公として働き財産を増やしていたのは、そなたに遺すためだったのかもしれぬな。あの女、その金をも狙い始めたようだぞ」

 ポール殿下の指差す先には図書室の窓の向こうで微笑み合う男爵令嬢セリア様と、ベリエ大公の姿があった。

 胸が痛んだ。──そんな資格など、ないのに。
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