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第五話 眠る令嬢
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「私はお前の母親など愛していなかった!」
十五歳の誕生日。
パーティを開いてもらえないことくらいは覚悟していましたが、呼ばれて応接室へ行った私を待っていた父の冷たい言葉には心臓が止まりそうになりました。
父の後ろには、父の妾と私の異母妹だという少女、その少女にしがみつかれた私の婚約者の第三王子殿下がいらっしゃいます。
……ああ、この家にはもう私の味方はだれもいないのですね。
そう思った瞬間、どこか深いところへ引き込まれるように意識が沈んでいくのを感じました。
後から考えてみれば、味方がいないなんてことはありませんでした。
私の背後にはお爺様の忠実な部下だった執事のジェームズがいたのですから。私が望めば、彼はいつだって父とその仲間達を地獄へ送ってくれたことでしょう。それを拒み続けていたのは、いつかは父に愛してもらえるのではないかと見果てぬ夢を追いかけ続けていた自分自身なのです。
深いところへ沈んだ私は消えたわけではありませんでした。
夢の中のように、離れたところから自分を見ていました。
『私』がいきなり父の襟もとを掴んだときは驚きましたが、そんなことをしたら父に嫌われてしまうという不安よりも気持ち良さのほうが勝っていました。そうです、私は母が死に祖父が魔獣の呪いで倒れてすぐに、我が家へ妾親子を連れ込んだ父にずっとずっと腹を立てていたのです。
魔術学園に入学して身体強化の魔術を習ったら、私も目の前の『私』と同じようにしたことでしょう。
金と権力で夫にされた?
違うでしょう? 金と権力目当てで、貴方が自分の意思でお母様の夫になったのです。私の父親になったのです。
『私』の言う通り、嫌なら逃げて荷運びでもなんでもして生きていけば良かったのです。どうせ最初から平民落ちになる予定の次男坊だったのではないですか。
子爵家だってもう我が家と関係ない人間だから、と言えば累が及ぶこともありません。
もっともその場合、そちらの妾はいなくなっていたでしょうけどね。
私が薄々勘付いていたことも、私が全然知らなかったことも明らかにしていく『私』がだれなのか、次第に私は気づいていきました。
お爺様です。
お亡くなりになったお爺様が私を助けに来てくださったのです。
私も私なりに考えて行動していました。
ジェームズを初めとする忠義ある使用人達が父や妾に目をつけられないよう、よほどのことがない限り彼らに頼らないとか、婚約者の第三王子との仲を深めて味方になってもらうとか、自分から妾と自称異母妹に歩み寄ってみるとか──でも、すべて無駄でした。
私を傷つけてシュタインボック辺境伯家を奪おうとしている賊どもに媚びても意味はなかったのです。
血がつながっていても、お母様が生きていらしたときに三人で笑い合ったことがあっても、私の頭を優しく撫でてくれたことがあっても、今の父はもう敵なのです。
いつか、もしかしたら、なんて思っていた私が愚かだったのです。
せっかく十五歳になったのに素早く行動しようとせず、私の権限が増えたことで父が変わるのではないかなんて思っていた私が莫迦なのです。
十五歳の誕生日、父とその仲間達を放逐してくれたお爺様は、さらに素晴らしい贈り物をくださいました。
新しい後見人と婚約者です。
後見人は癖のある方のようですが、お爺様のことをお好きな方に悪い人はいません。仲良くなったらきっと、私の知らないお爺様の話を教えてくださるに違いありません。
婚約者の方の情報は今のところなにもありませんけれど……目覚めたら、きっと。
きっと彼のこと、アレクサンダー様のことを知ることが出来るでしょう。
それとも明日の『私』もお爺様のままでしょうか。それはそれで面白そうな気がします。ああ、こんなに明日が楽しみなのはお母様が亡くなって以来です。
その日、十五歳になったばかりの私は期待を胸に眠りに就いたのでした。
どことも知れない、深い深い場所で──
十五歳の誕生日。
パーティを開いてもらえないことくらいは覚悟していましたが、呼ばれて応接室へ行った私を待っていた父の冷たい言葉には心臓が止まりそうになりました。
父の後ろには、父の妾と私の異母妹だという少女、その少女にしがみつかれた私の婚約者の第三王子殿下がいらっしゃいます。
……ああ、この家にはもう私の味方はだれもいないのですね。
そう思った瞬間、どこか深いところへ引き込まれるように意識が沈んでいくのを感じました。
後から考えてみれば、味方がいないなんてことはありませんでした。
私の背後にはお爺様の忠実な部下だった執事のジェームズがいたのですから。私が望めば、彼はいつだって父とその仲間達を地獄へ送ってくれたことでしょう。それを拒み続けていたのは、いつかは父に愛してもらえるのではないかと見果てぬ夢を追いかけ続けていた自分自身なのです。
深いところへ沈んだ私は消えたわけではありませんでした。
夢の中のように、離れたところから自分を見ていました。
『私』がいきなり父の襟もとを掴んだときは驚きましたが、そんなことをしたら父に嫌われてしまうという不安よりも気持ち良さのほうが勝っていました。そうです、私は母が死に祖父が魔獣の呪いで倒れてすぐに、我が家へ妾親子を連れ込んだ父にずっとずっと腹を立てていたのです。
魔術学園に入学して身体強化の魔術を習ったら、私も目の前の『私』と同じようにしたことでしょう。
金と権力で夫にされた?
違うでしょう? 金と権力目当てで、貴方が自分の意思でお母様の夫になったのです。私の父親になったのです。
『私』の言う通り、嫌なら逃げて荷運びでもなんでもして生きていけば良かったのです。どうせ最初から平民落ちになる予定の次男坊だったのではないですか。
子爵家だってもう我が家と関係ない人間だから、と言えば累が及ぶこともありません。
もっともその場合、そちらの妾はいなくなっていたでしょうけどね。
私が薄々勘付いていたことも、私が全然知らなかったことも明らかにしていく『私』がだれなのか、次第に私は気づいていきました。
お爺様です。
お亡くなりになったお爺様が私を助けに来てくださったのです。
私も私なりに考えて行動していました。
ジェームズを初めとする忠義ある使用人達が父や妾に目をつけられないよう、よほどのことがない限り彼らに頼らないとか、婚約者の第三王子との仲を深めて味方になってもらうとか、自分から妾と自称異母妹に歩み寄ってみるとか──でも、すべて無駄でした。
私を傷つけてシュタインボック辺境伯家を奪おうとしている賊どもに媚びても意味はなかったのです。
血がつながっていても、お母様が生きていらしたときに三人で笑い合ったことがあっても、私の頭を優しく撫でてくれたことがあっても、今の父はもう敵なのです。
いつか、もしかしたら、なんて思っていた私が愚かだったのです。
せっかく十五歳になったのに素早く行動しようとせず、私の権限が増えたことで父が変わるのではないかなんて思っていた私が莫迦なのです。
十五歳の誕生日、父とその仲間達を放逐してくれたお爺様は、さらに素晴らしい贈り物をくださいました。
新しい後見人と婚約者です。
後見人は癖のある方のようですが、お爺様のことをお好きな方に悪い人はいません。仲良くなったらきっと、私の知らないお爺様の話を教えてくださるに違いありません。
婚約者の方の情報は今のところなにもありませんけれど……目覚めたら、きっと。
きっと彼のこと、アレクサンダー様のことを知ることが出来るでしょう。
それとも明日の『私』もお爺様のままでしょうか。それはそれで面白そうな気がします。ああ、こんなに明日が楽しみなのはお母様が亡くなって以来です。
その日、十五歳になったばかりの私は期待を胸に眠りに就いたのでした。
どことも知れない、深い深い場所で──
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