もしも嫌いになれたなら

豆狸

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最終話 もしも

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 ジョゼ殿下の幸せが望めなくなったこともあり、私は家族に繰り返しのことを打ち明けました。
 といっても、すべてではありません。
 一度だけ時間が戻ったことにしたのです。何度も繰り返していると話したら、心配されると思ったからです。

 前のとき、私は婚約破棄されても殿下に縋りついて王太子妃になったと話しました。
 ただし結末は変えました。
 べつの繰り返しで起こった、テナシテ様が亡きファビアン様に似た方と浮気をして、殿下が彼女と無理心中をしたときのことで締めくくりました。だって私がテナシテ様を害したと言われて処刑されたなんて伝えたら、父がなにを仕出かすかわかりませんもの。

 心中するほど殿下がテナシテ様を想っていらっしゃると知り、おふたりを結び付けてあげようとしていたのだということにしたのです。
 伯爵領を救ったのは、ファビアン様がお亡くなりになるとテナシテ様の心の中で永遠の存在になってしまうから、だということも。
 テナシテ様が浮気者だと思われないよう、ファビアン様を想うがゆえの行動だったのだと語ったつもりですが、ちゃんと伝わったでしょうか。

 そこまで話したのは、ファビアン様に求婚されたからです。
 彼は伯爵領を救った私、大学でマクシムが語った私に恋をしたのだそうです。
 お断りするのと、私がファビアン様を好きなわけではないということを伝えるためには事情を説明せずにはいられなかったのです。

 学園を卒業してしばらくして、王宮の自室で幽閉状態だったジョゼ殿下の訃報が届きました。

 殿下の父君はすでに退位していて、学園在学中の身ながらも第二王子殿下が即位されています。
 王妃様の派閥は第二王子殿下が成長なさるのを待っていたのです。
 隣国の王女である王妃様にこの王国の全権を預けるのは、あまり良いこととは言えませんからね。それに……ジョゼ殿下が王太子として頑張っていらっしゃることは、だれもが認めていたのです。

 殿下の訃報から一年後、私はマクシムと結婚いたしました。
 公爵家は兄が継ぐ予定ですが、我が家の騎士団の専属医師ということでマクシムは公爵邸で暮らしています。
 もちろん妻の私も一緒です。出ていかないでくれと、父に泣きつかれたからでもあります。

「お父様や貴方が、私がファビアン様を好きだと思い込んでいるから困りましたわ」
「そりゃなあ。お嬢は全然ジョゼ殿下に気がなさそうなのに、婚約の白紙撤回だけは拒むんだもの。なにかあると思うだろ? まあ時間が巻き戻ってるだなんて想像も出来ないから、ファビアン殿がテナシテ嬢と結ばれるのを望んでたのかと思ってたけど」

 領地の公爵邸の庭を歩きながら、マクシムに言われて私は首を傾げました。

「ジョゼ殿下に気がないように見えましたか?」
「ああ。前のときは知らないが、慕っているとは思えなかった」
「じゃあ私、もうジョゼ殿下を愛していないのかしら。でも……」
「でも?」
「まだマクシムのことを愛せないでいるのです」
「っ」

 マクシムは溜息をついて、それから尋ねてきました。

「……お嬢、俺と結婚するの嫌だったのか?」
「いいえ、結婚するのはマクシムが良いと思っていました。だからファビアン様の求婚はどうしても受け入れられなかったのです。マクシムのことは好きだし、一緒にいると幸せな気持ちになります。不安なときに力づけてくれるのは……いつも貴方でした。殿下への愛が消えたら、貴方を愛せるようになれると思ったのですけれど……」

 私は俯きました。
 もう何回だったかも思い出せない繰り返しの中で、私は幾度かマクシムと結ばれました。
 早々に殿下との婚約を白紙撤回して、彼と婚約したこともあるのです。でも私はマクシムを愛せませんでした。好きなのに、それは殿下に対するのとは違う感情だったのです。

 マクシムはもう一度溜息をついて、自分の頭をかきました。

「一応確認しとくけど、お嬢の言う愛ってどんなの?」
「……殺してでも独り占めしたいと思うほど、強くて激しい感情です。前のとき、テナシテ様と一緒にいる殿下を見ると、いつもそんな感情に支配されたのです」
「は!」

 マクシムは吹き出しました。

「お嬢が俺にそんな感情を抱くことは永遠にねぇよ。だって俺、浮気しねぇもん」
「え?」
「それは嫉妬だろ? 愛の一部だけどすべてじゃない。……お嬢は俺を愛してるんだよ。あの美男子のファビアン殿より俺を選んだくらいなんだから」

 満面に笑みを浮かべて、マクシムが私を抱き締めます。
 そうなのでしょうか?
 繰り返しの中で幾度か彼と結ばれたとき、いつも申し訳ないと思っていました。愛されて幸せなのに、私は愛を返せていないと思っていたから。いつか殿下の真実の愛を成就させて私が殿下への愛から解放されたら、心からマクシムを愛せるようになるのではないかと夢見ていたのです。

「マクシムはファビアン様よりも素敵だと思いますよ?」
「あーもう、それが愛してるってことだろ? お嬢は俺にとって世界一の女性だよ」

 そうなのでしょうか。
 私はマクシムを愛せているのでしょうか。
 もし、もしも彼を愛せているのなら……私はマクシムの背中に腕を回しました。私の耳元で彼が囁きます。

「……お嬢にだったら嫉妬されて殺されんのも悪かねぇけどな」

 温もりの中、私はもう二度と繰り返しが起こらなければ良いのにと願いました。そして、その願いは叶えられたのです。
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