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第三話 魅了が解けて
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我に返った国王パブロの調査によって、すべてが明らかになった。
パブロはエスタトゥアに魅了されていた。
学園に入学したときからではない。
別れを決意して体を重ねたときからだ。
エスタトゥアは体を重ねることで相手を魅了する力を得るために、悪魔を自称する魔術師に何度も身を任せていた。
それを聞いて、パブロはスサナとの初夜に抱いた違和感を思い出した。
スサナは処女だった。だから経験済みのエスタトゥアとの違いを感じていたのだ。
本来なら王家に嫁ぐものには純潔が求められる。
しかし魔術によってエスタトゥアの身籠っている子どもが王家の血筋だと確認されたために、彼女は特別に許された。
パブロ自身が自分と体を重ねたときの彼女は処女だったと証言したせいもある。
悪魔を自称する魔術師は男爵家の後妻に入ったエスタトゥアの母親の情夫で、麻薬漬けにされて男爵家の地下室で飼われていた。
魅了の力を求める女達に彼との交わりを売ることで、伯爵家となった男爵家は……男爵家の後妻は家格に見合わない資産を得ていたのだ。
彼女は自分の情夫を買った女達の名簿を作っていて、それを種に脅して金を奪ってもいたらしい。
後妻との浮気で魅了され、自ら前妻に手をかけていた男爵は正気に戻った後で自殺した。
自分の利益のためなら情夫すら売り払う母親から生まれたエスタトゥアが優しく穏やかな性格だったのは、魅了されていた以外の部分は正常だった父親の男爵に育てられたからに違いない。
好きな相手を手に入れるためなら、どんな手段を使っても良いと思うところも。
もっとも彼女の父親の場合は本当に好きな相手ではなく、魅了によって好きだと思い込まされていた相手のためだったが。
おそらく男爵もパブロのように、一度だけで良いから、と縋られて振り切れなかったのだろう。
どんなに苦しんでも自分と同じで自業自得だ、とパブロは思う。哀れなのは命を喪ったスサナと男爵家の前妻のほうなのだ。
男爵家の後妻はすでに捕縛されているが、事件の全容は公開されていない。
エスタトゥアも王妃のままだ。
悪魔魔術師を買った女に魅了されたと思われる何人かの男とその家族達が、怪しげな邪法が流行しているのではないかと訴えを起こしていたことをパブロは今になって知った。パブロや男爵もそうだったが、しばらく肉体関係を結ばないだけで魅了は解けるのだ。
スサナの離れへの使用人配置の案件が握り潰されていたように、王妃エスタトゥアに都合の悪い事柄はすべてパブロの耳に入る前に消されていた。
王妃を慕うもの達によって、と聞けば以前のパブロならエスタトゥアの優しく穏やかな人柄に惹かれたのだと彼女を褒め称えていただろう。
だが今ならわかる。
男爵令嬢として育ったエスタトゥアの優しさは日和見、穏やかさは流されやすさ。
身分の高いものに寄生して利を貪る輩にとっては、とてつもなく『美味しい』存在だったのだ、彼女は。
力を持つ組織の上に立つものに必要なのは、安きに流されない気丈さと悪事を許さない厳しさだった。そうでなければ組織は際限なく腐っていく。
(スサナはその気丈さと厳しさを持っていた……)
公爵令嬢の心と態度を覆う冷たい鎧は、自分の名前を利用しようとするものを弾き、守るべき弱いものを庇うためのものだった。
それでもスサナはパブロへの愛だけは鎧に隠してはいなかった。
だからこそパブロは公爵令嬢が側妃になってくれると信じて話を持ち掛けたのだ。スサナが自分を愛しているのを疑ったことなどなかったから。
(公爵、は……)
スサナの父である公爵は、国王となった自分と側妃となった娘との面会要請を何度も出していた。
もちろんエスタトゥアの寄生虫達が握り潰していた。
強引に王宮へ押しかけて、城門で拒まれたことも一度や二度ではないようだ。父王の葬儀のときもパブロと公爵が儀礼的な挨拶以外は出来ないよう、周囲の人間が邪魔をしていたことに今さら気づく。
パブロはなにも知らなかった。
国王直属の側近達にも情報が上がらないようにされていたのだ。
事実に気づいた何人かは王妃の寄生虫達に家族を人質に取られて、パブロに報告を上げるなと脅されていたらしい。
パブロだけではない、エスタトゥアもなにも知らない。
彼女はパブロを裏切っていない、魅了の力を得るために悪魔魔術師に抱かれた以外では。
スサナの件も寄生虫達が勝手にしたことだ。
(……だからといって罪がないと言えるのか?)
王子の将来のことを考えれば、これからも真実を公開することは出来ない。
出来るのは病死として王妃を始末することくらいだ。
魅了だったと気づいて以降、パブロの心からはエスタトゥアへの愛が消えていた。魅了が解けてなお王妃は美しいし、そもそも魅了される前から愛していたはずなのに、今のパブロの心で煌めくのは生前のスサナの姿だけだった。
パブロはエスタトゥアに魅了されていた。
学園に入学したときからではない。
別れを決意して体を重ねたときからだ。
エスタトゥアは体を重ねることで相手を魅了する力を得るために、悪魔を自称する魔術師に何度も身を任せていた。
それを聞いて、パブロはスサナとの初夜に抱いた違和感を思い出した。
スサナは処女だった。だから経験済みのエスタトゥアとの違いを感じていたのだ。
本来なら王家に嫁ぐものには純潔が求められる。
しかし魔術によってエスタトゥアの身籠っている子どもが王家の血筋だと確認されたために、彼女は特別に許された。
パブロ自身が自分と体を重ねたときの彼女は処女だったと証言したせいもある。
悪魔を自称する魔術師は男爵家の後妻に入ったエスタトゥアの母親の情夫で、麻薬漬けにされて男爵家の地下室で飼われていた。
魅了の力を求める女達に彼との交わりを売ることで、伯爵家となった男爵家は……男爵家の後妻は家格に見合わない資産を得ていたのだ。
彼女は自分の情夫を買った女達の名簿を作っていて、それを種に脅して金を奪ってもいたらしい。
後妻との浮気で魅了され、自ら前妻に手をかけていた男爵は正気に戻った後で自殺した。
自分の利益のためなら情夫すら売り払う母親から生まれたエスタトゥアが優しく穏やかな性格だったのは、魅了されていた以外の部分は正常だった父親の男爵に育てられたからに違いない。
好きな相手を手に入れるためなら、どんな手段を使っても良いと思うところも。
もっとも彼女の父親の場合は本当に好きな相手ではなく、魅了によって好きだと思い込まされていた相手のためだったが。
おそらく男爵もパブロのように、一度だけで良いから、と縋られて振り切れなかったのだろう。
どんなに苦しんでも自分と同じで自業自得だ、とパブロは思う。哀れなのは命を喪ったスサナと男爵家の前妻のほうなのだ。
男爵家の後妻はすでに捕縛されているが、事件の全容は公開されていない。
エスタトゥアも王妃のままだ。
悪魔魔術師を買った女に魅了されたと思われる何人かの男とその家族達が、怪しげな邪法が流行しているのではないかと訴えを起こしていたことをパブロは今になって知った。パブロや男爵もそうだったが、しばらく肉体関係を結ばないだけで魅了は解けるのだ。
スサナの離れへの使用人配置の案件が握り潰されていたように、王妃エスタトゥアに都合の悪い事柄はすべてパブロの耳に入る前に消されていた。
王妃を慕うもの達によって、と聞けば以前のパブロならエスタトゥアの優しく穏やかな人柄に惹かれたのだと彼女を褒め称えていただろう。
だが今ならわかる。
男爵令嬢として育ったエスタトゥアの優しさは日和見、穏やかさは流されやすさ。
身分の高いものに寄生して利を貪る輩にとっては、とてつもなく『美味しい』存在だったのだ、彼女は。
力を持つ組織の上に立つものに必要なのは、安きに流されない気丈さと悪事を許さない厳しさだった。そうでなければ組織は際限なく腐っていく。
(スサナはその気丈さと厳しさを持っていた……)
公爵令嬢の心と態度を覆う冷たい鎧は、自分の名前を利用しようとするものを弾き、守るべき弱いものを庇うためのものだった。
それでもスサナはパブロへの愛だけは鎧に隠してはいなかった。
だからこそパブロは公爵令嬢が側妃になってくれると信じて話を持ち掛けたのだ。スサナが自分を愛しているのを疑ったことなどなかったから。
(公爵、は……)
スサナの父である公爵は、国王となった自分と側妃となった娘との面会要請を何度も出していた。
もちろんエスタトゥアの寄生虫達が握り潰していた。
強引に王宮へ押しかけて、城門で拒まれたことも一度や二度ではないようだ。父王の葬儀のときもパブロと公爵が儀礼的な挨拶以外は出来ないよう、周囲の人間が邪魔をしていたことに今さら気づく。
パブロはなにも知らなかった。
国王直属の側近達にも情報が上がらないようにされていたのだ。
事実に気づいた何人かは王妃の寄生虫達に家族を人質に取られて、パブロに報告を上げるなと脅されていたらしい。
パブロだけではない、エスタトゥアもなにも知らない。
彼女はパブロを裏切っていない、魅了の力を得るために悪魔魔術師に抱かれた以外では。
スサナの件も寄生虫達が勝手にしたことだ。
(……だからといって罪がないと言えるのか?)
王子の将来のことを考えれば、これからも真実を公開することは出来ない。
出来るのは病死として王妃を始末することくらいだ。
魅了だったと気づいて以降、パブロの心からはエスタトゥアへの愛が消えていた。魅了が解けてなお王妃は美しいし、そもそも魅了される前から愛していたはずなのに、今のパブロの心で煌めくのは生前のスサナの姿だけだった。
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